その0 【暗躍する『影』】
【ザザザッ…………です。繰り返します。先程入ってきた情報によりますと、車谷駅前交差点で、大型のトラックとタンクローリー車が正面衝突を起こし炎上、その後あたりを巻き込む大爆発が起こった模様です。死傷者の数は100人を超えるとの見方が出ておりますが、まだ詳しい情報は入ってきておりません。情報入り次第、随時お知らせ致します。地域住民の人は警察の指示に従って速やかに避難を行ってください。続いてのニュースは、民家の倉庫から黒いゴミ袋に包まれた女性の遺体が……………】
「どうやら『彼』は上手いことやってるみたいですね。僕が出て行った甲斐があったよ」
「あぁ、そのようだな」
「…………」
その薄暗い部屋には三人の人影が、古いブラウン管テレビの光によって浮かび上がっていた。
「『羽瀬川先生』? どうかされたので?」
「……あなた達は外道よ。なんにも知らない少女を巻き込んで……」
「何を言ってるのかね? この『計画』の第一段階を成功へと導かせた貴女がまさか今更になって人徳を語るというんじゃないだろうね?」
「そもそも羽瀬川先生の『力』を持ってすれば、彼女の存在など誰の記憶からも消される。確かそうでしたよね? 『魔法使い』さん?」
「私をその名前で呼ぶのはやめてくれと言ってるだろう『湯口君』。あれは咄嗟に思いついただけだ。他意は無い」
「まさかあなたが女性にも『変装』出来るなんてね…………」
「羽瀬川先生、今更何を。僕はその手の専門家ですよ?『江ノ本 香』に『変装』するなんて造作も無い。声帯模写なんて一度サンプルさえ聞けば完璧さ!」
「我々の計画はもうすぐ成功となる」
「僕たちは僕たちの手で新時代を創り上げる」
「……全ては…………世界の為……」
羽瀬川と呼ばれた『女性』
湯口と呼ばれた『男性』
魔法使いと呼ばれた『男性』
三人はそれぞれの意思を瞳に宿しながら静かに立ち上がる。
世界を平和にする為に…………