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恋愛ブレイカー  作者: 銀杏 夜空
二章 すれ違い通信
12/21

そのⅤ 【成功への第一歩】

毎度お馴染みの人物紹介コーナー


・【立花(たちばな) 睦月(むつき)】学校の問題児。最近は家に親が帰って来なくなった。

・【湯口(ゆぐち) 夏美(なつみ)】立花の幼馴染で体育会系の女子。クマを素手で殺せる。

・【江ノ本(えのもと) (かおり)】バカップル女。現在健二と失恋の危機。

・【緑沢(みどりざわ) 健二(けんじ)】バカップル男で愛称はケン君。現在香とは失恋の危機。

・【黒木(くろき) えり】何かを企んでいる少女。彼の裏にはとある『少年』がいる……。

・【吉田(よしだ)】生徒指導の教師。数々の武勇伝を持っており、学校で恐れられている。



あれから30分近くは経ったのだろうか?

住宅街から国道へと出た彼らは、ただひたすらにお互いの目的の為に歩き続けていた。

彼女は復讐の為に。彼は暇つぶしの為に。

気付けば二人の歩いていた道路の凍結は無くなり、人や車で賑やかな駅前まで来ていた。


黒木(くろき)えり…………」

立花(たちばな)はバカップル二人の痴話喧嘩最中に登場したその人物の名前を呟く。

彼女は学校一の悪女と呼ばれている。

あの『鬼の生徒指導』と恐れられている吉田ですら手に負えない程の問題児なのだ。

先程の大喧嘩が、バカップル男『緑沢(みどりざわ)健二(けんじ)』の浮気が原因で発生したものだと勝手に決めつけた彼はまず、この事に疑問を抱く。

一体彼女のどこに魅力を感じたのかと。

人の感性に文句をつけるわけではないが、誰がどう見たってそう首を(かし)げるだろう。

彼を大切に思い、恋愛に一途(いちず)であり、なにより美人であるバカップル女『江ノ本(えのもと)(かおり)』。それに対し、自分以外の人間に見下したような態度で(せっ)し、下品で小汚く、常にケバケバしい化粧で自分を(まと)い、体から(にじ)み出るオーラが周りの人物に強い不快感を与えつける、似合ってもいない鼻ピアスをし、校則に反した服装をし、腐れ外道ゴミくそビッチの札付き問題児。(注:あくまで立花の個人的な見解です)

どちらか一方を選べと問われたら誰だって前者を選ぶ。

そんなあまりにもマイナス要因が多すぎる彼女のどこに惹かれたのか?

更に、黒木えりには現在、彼氏が存在している。相手は車谷市界隈(かいわい)で一番の勢力を誇る暴走族集団『リトルデビル』の総長。

その愛人を取ったとなると、ただで済まないことは誰がどう見たって一目瞭然(いちもくりょうぜん)だ。そんな命知らずがこの世に存在するとは(にわ)かに信じがたい。

校内ブラックリストLevel5『指定(してい)重要(じゅうよう)危険(きけん)人物(じんぶつ)』に登録され、『鬼の生徒指導』と呼ばれ恐れられている吉田の手を焼かせる学校でも有数の問題児であり、週に何十回も頭から窓ガラスに突っ込み叩き割って来た命知らず立花は、そんな疑問を緑沢に抱く。

人の振り見て我が振り直せということわざがここまで似合う人物は世界広しといえど、そうはいないだろう。



立花が疑問を抱えていたそんな事を知る由もない香は、すぐ目の前にあったスクランブル交差点で誰かと通話をしながら信号待ちをしている黒木えりを発見した。緑沢と別れてから45分後の出来事だ。

「冷静に……分かってる……私は話し合う為に……」

自分に言い聞かせるように呟いた香だったが、黒木の笑顔を見た途端(とたん)、頭に血が上ってしまう事を抑えきれなくなってしまった。


「なに一人だけ幸せそうなんだよ……」


その瞬間、香は人通りの多い場所だと言う事を完全に忘れて、黒木目掛けて躊躇(ちゅうちょ)することなく突進した。

香のその突然すぎる行動に気付いた数名の通行人が、「危ない‼︎」と黒木に向かって危険信号を発信したが、彼女がそれに気付くよりも早く香の全身が、突然の奇襲(きしゅう)など予想していなかった黒木にぶち当たる。

「えっ……」

思わず声が出た黒木はその衝突の衝撃に耐えきれず、力の加わった逆の方向へと顔面からぶっ倒れた。

「黒木えり…………黒木えり……黒木えり………………黒木えり……」

怒りにわなわなと口を震わせ、目の前に倒れている彼女の名前を連呼した香はその名前の主の後頭部目掛けて足を踏み下ろす! が、その攻撃が来るより一瞬早く動いた黒木はそれを寸前(すんぜん)(かわ)すと、倒れた状態から隙だらけだった香の腹部めがけて両足蹴りを炸裂させた。

「うぐっ…………」

女性の動きとは思えない鋭く的確な攻撃に低いうめき声を上げた香は一歩下がり、黒木と距離を置く。

「いきなり突進してくるなんて酷いなぁ」

地面にぶつけた鼻を(さす)り、落とした携帯を拾いながら香にそう言う。

「あなたが……あたなのせいで……」

はぁはぁと息を切らしながら黒木を睨みつける。

この女がケン君に何かをした……。

香にはこの女が何かを(たくら)んでいるとしか思えなかった。

「私が君に何をしたって言うんだい? 江ノ本(えのもと) (かおり)……」

「ケン君に何を吹き込んだの? ………一体何を言ったの⁈」

「えー、やだなぁー。勝手に決めつけないでくれない?」

人を馬鹿にしたようにニヤニヤと笑う黒木は続ける

「君が何の話をしているのかさっぱりだよ。そう思う何か根拠でもあるのかな?」

「……根拠なんてないけど。でも、あなたがケン君と一緒に帰ってたって……」

「そもそも、ケン君って誰? もしかしたら、その人の横を通ったかもしれないね。でも、誰の横を通り過ぎたのかなんて、いちいち覚えてないよ。だいたい、君自身が私とその彼が一緒に帰ってる現場を見たのかな?」

その問いに何も言えなくなる香。

「酷いなぁ。言いがかりじゃないかー。私はそんな言いがかりの為に突進されたのか」

「言いがかりじゃないわよ! あなたしかいない。ケン君の態度が変わったのはあなたのせい……」

「だから、その根拠となる証拠を出せっての。あのね、フラれた腹いせを私にぶつけるのはやめてくれない? 正直迷惑なのよ。いきなり突進されて鼻を怪我しちゃって、携帯のディスプレイが、ほら! 見て! 君のせいで割れちゃったの! そんな事になって、被害者は私よ!」

痛みでヒリヒリしている鼻を摩りながら割れた携帯のディスプレイを見せ付けてくる黒木。

そんな彼女の態度に何も言い返せなくなる香。

「本当、なんにも言えないからって黙り込むなんて卑怯よね。そうだ、あとコレをお返ししないと!」

極めて明るい声でそう言って…………ドスッと辺りに鈍い音が響く。

「ガハッ……」

黒木が突然、香の首筋目掛けて回し蹴りを繰り出しのだ。

「コレがさっきの言ったお返しね。やられっぱなしもムカつくしね! まぁ、これに()りたら人に言いがかりをするのはやめることね。今度はこんなのじゃ済まないから」

そう言って、息が出来なくなりその場にへたり込んでしまった香の脇腹を更に蹴り、追い打ちをかける黒木。


「ま、少しは楽しめのたかな? 『あなた』のお陰でね」


誰にも聞こえない大きさの声でそう呟いた彼女は、酸素供給が追いつかなくなって過呼吸になった香を背にし、その場を立ち去ろうと……。



「ま…………て」

「?」

「ふふ………ふふふふ………………」

「何? アレだけ蹴ったってのにまだ私に突っかかってくるわけ? 今度はさっきみたいに手加減しな…………」

「私……出来る……」

「え?」

「ふふふ。今なら迷うことなく出来る……。これを……使う事が……ふふ……あなたを…………※※す事が……ふは……ふはははは…………はははははは‼︎」


振り返った黒木の目に映ったのは、黒いオーラを身に(まと)い不気味に笑う香。

同時に彼女は、先ほど入れた蹴りの衝撃で無残に砕け、散らばったネックレスの残骸を間違いなくその目で捉えた…………。






一方その頃立花は、二人の喧嘩の様子がよく見える、近くのテラス席で、

「やべぇ! 何これ! スタバの裏メニュー『フルーツモカチョコクリームフラペチーノヘーゼルナッツシロップ』うめぇ!」

謎の飲み物を無我夢中で貪り食っていた。

彼は今、全国チェーンのカフェテリア、『スターバケイション』

通称『スタバ』のテラス席で(しば)しのティータイムを満喫していた。

なぜ立花はここでくつろいでいるのか? その経緯(いきさつ)を簡単に説明すると、突進した香の姿を見た彼は、その相手が黒木であることを確認。また長い時間、寒い中喧嘩を観覧するのも馬鹿らしく思えてきた彼は、ちょうどその隣にスタバのテラス席があることに気付き、そこで飲み物を飲みながら高見の見物をする事にしたのだ。が、しかし、スタバの裏メニュー『フルーツモカチョコクリームフラペチーノヘーゼルナッツシロップ』の味に見惚れてしまい、喧嘩の様子などそっちのけで飲み物に没頭してしまったというわけだ。

全くの馬鹿野郎である。

するとそこへ、そんな馬鹿野郎を制裁するためなのか、予想外の人物が現れた。

「えっ……⁈ 夏美(なつみ)⁈」

一体どうやってここを突き止めたのか、幼馴染の姿がそこにはあった。

「うわぁ…………」

心底嫌そうな顔で夏美を見上げる立花。一緒に帰ろうという約束を破ったばかりなのでかなり怒ってらっしゃると恐れた彼だったが、

「?」

夏美の姿を見て首を傾げる。

どういうわけか彼女は立花を見ずに、遠くの方…………二人の喧嘩が起きている場所…………を見つめていた。

「あのー……夏美さん?」

「まさかあんた、私との約束破って、アレの野次馬をしてたんじゃないでしょうね」

「え……えーと。そのー」

うまい言い訳が見つからずしどろもどろする立花。すると突然、

「行くよ」

彼女はそう言った。

「あれ? 色々追求しないの?」

「いいから、早く来て。人様のプライベート覗くほど野暮な事はないからね」

明らかに普段と様子がおかしい夏美。

「分かったよ。なんかよく分からんが膝蹴り食らうのはもうごめんだ」

そう言って『フルーツモカチョコクリームフラペチーノヘーゼルナッツシロップ』の最後の一口を飲もうと…………

「うぐっ」

口をつけた瞬間、腹部に鈍痛が走る。

「え……、何で君の足が僕のお腹にめり込んでるのかな…………?」

「いいから、早く来い」

いよいよ持って訳が分からない。

こんなの理不尽だ! 横暴だ!

しかし、そんな不平不満を全て聞き流した夏美は立花の襟首を持って

「オラッ‼︎」

と、普通の女の子が発さないような掛け声で彼を軽々と引きずって行く。

「落ち着いて……とりあえず首閉まってるから!」

取り合わない夏美。

彼女は何かに怯えるように足早に『スタバ』を後にする。

「あれ? 赤石君?」

立花の見知った顔が店内に見えたのはそんな時だった。

その声を聞いた彼女は少し視線を店内に向けるが一瞬だけ。後は進行方向で扉を開けて待っているタクシーの方を見ていた。

タクシー内に放り投げられた彼は夏美を問いただそうと

「どうしたんだよ? 突然?」

声を掛けるが

「少し黙れ」

首筋に鋭いチョップを入れ気絶させる。

「どこまで行きます?」

「いいから急いで発進して。行き先は後で言うからここから離れて」

「は……はぁ……」


気絶した立花と、何かに怯えている夏美を乗せたタクシーは喧嘩勃発地点から遠ざかるように進んで行く。

その横を、ガソリンを大量に積んだタンクローリー車が猛スピードで走り抜けて行った………………

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