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恋愛ブレイカー  作者: 銀杏 夜空
二章 すれ違い通信
10/21

そのⅢ 【設定完了】

人物を簡潔に紹介するコーナー

立花(たちばな) 睦月(むつき)】ガラス割り魔の異名を持つ謎の高校生(ただのキチガイ)。好きな花言葉はピーマン

湯口(ゆぐち) 夏美(なつみ)】自慢の上腕二頭筋は鋼鉄をも砕く破壊力を誇る。車谷高校の首領(ドン)。好きな食べ物はイカ墨パスタ

江ノ本(えのもと) (かおり)】バカップル女。好きなタレントはタモリ

緑沢(みどりざわ) 健二(けんじ)】バカップル男。イケメン賢いスポーツ万能と羨ましい限りだ。好きな動物はミジンコ

松下(まつした) 冷弥(れいや)】高校三年生でありながら完璧なショタスペックをもつ逸材。言われたくない言葉が『可愛い』

松下(まつした) 綾子(あやこ)】冷弥の双子の姉。大人の女性の風格を持つがそれは見た目だけで中身は軽い。好きな物は弟

【校長】クリスマス、毎年娘が帰って来るなり露骨に老人ホームのパンフレットを置いてくることに苛立ちを隠せない様子。

吉田(よしだ)】鬼の生徒指導員とあだ名がある、学校でもっとも怖い先生。だがチワワが好きというキュートな一面も見せる。本編には関係ない。

黒木(くろき) えり】謎の女。香に深く嫉妬している様子だが……?



「いやぁ、緑沢先輩本当申し訳ないですよー!」

「そんなのいいから。早く用件言ってくれない? 香を待たせているんだからさ」

校長室前で突然声をかけてきた『彼女』に向かってぶっきらぼうに返す健二。そんな様子を気にも留めないで『彼女』は、

「その用件というのが香さんについての事なんですよ……」

妙に芝居がかった声でそう告げた。

その後に「ここでは何ですから」と健二に場所を移して話そうと提案。(なか)ば強引に校長室前から移動させるのだった。


どこへ行くのかは一切言わずに一人黙々と歩いて行く『彼女』

そんな『彼女』の後ろについて行きながらふと、健二はまだこいつが何者なのか答えていない事を思い出す。

「そういえば、お前名前なんて言うの?」

「あれ? まだ名乗ってませんでしたっけ?」

そう言って一呼吸置いて『彼女』は、

黒木(くろき) えりっていいます! 香さんの『お友達』です! 以後お見知りおきを‼︎」

と先ほどと同じような芝居口調で答える。

「あぁ、そう。で、用件は何? 名前とか正直どーでもいいから早く言えよ。ぶっ飛ばすぞ」

「ぶっ飛ばされるの⁈」

「いいから早く……」

「…先輩から聞いておいて…」

「あ?」

「…」

健二の気迫に気圧された黒木は引きつった笑顔を彼に見せると観念したかのようにゆっくりと口を開き始めた。

「実はですね、香さんが緑沢先輩の事を裏切っているみたいなんですよ……。私も最初は信じられませんでした。あんなにも仲のいいカップル他には見ません。ましてや、人の良さそうな香さんがそんな事する訳ない。大方、二人のラブラブっぷりを妬んだ奴らの根も葉もない『(うわさ)』だろう。少なくとも私はそう思って気にも留めていませんでした。香さんの…………あんな姿を見るまでは……って! 先輩何してるんですか⁈」

「見りゃわかんだろ。携帯いじってるんだよ」

「えぇぇ」

人が話してる最中に携帯触られること程失礼極まり無い事はないよ……

黒木は少し物申そうと口を開く…………

「ウザい」

よりも一足先に健二は暴言を吐いていた。

「お前の語り口調芝居がかりすぎ。俺を騙そうとしてるのがバレバレ。その上長い。正直『実は』の辺りから聞いてない。30文字以内でまとめてくれ」

余りにも失礼過ぎる上に無茶な注文に若干(じゃっかん)涙目になる黒木。しかし健二は取り合ってくれない。

だが、黒木はめげずに続ける。

「悪口言ってたんですよ⁈ 悪口! 緑沢先輩の悪口を!」

「へぇー。何て?」

「えっ…………。いや、キモいだの……クサイだの…」

「ふーん」

「あと、先輩から貰ってたプレゼントゴミ箱に捨ててましたよ! いいんですか⁈」

「ほーん。何を?」

「えっ………」

「何を捨ててたの?」

「その……あの…………。指輪とか?」

「そうかそうか」

「ま…まだ分からないんですか⁈ 騙されてるんですよ! 悔しくないんですか? このままでいいんですか⁈」

「はぁーん」

黒木が放つ言葉を適当な相槌(あいづち)で全て返した健二は

「そろそろ帰っていいかな?」

そう聞いた。

「ちょ……」

「だって君……黒木さんでしたっけ? 話に現実味が無いんだよね。そんなに言うなら証拠を出してくれればいいのに。それを出してくれればまた改めて話を聞くよ」

それじゃ…と言いかけた健二の言葉を遮るように、相変わらず涙目の黒木はDVDを取り出した。

「これ……証拠…です……」

余裕の無い表情で健二を見上げる彼女は

視聴覚室(しちょうかくしつ)へ来ていただければ今すぐにでも見れます」

震えた声でそう言った。

「はぁ……面倒くさい…」


視聴覚室へ辿(たど)り着くまでの道中、彼らは終始無言であった。

何を喋るわけでもなく言い合うでもなく、目的地へとただひたすらに進んでいく。

途中で五時限目開始を告げるチャイムが響き渡ったが二人はそれを無視。やっと目的地の視聴覚室へ来た時には健二は心底面倒そうな表情をし、「帰りたい」と念仏のように呟いていた。

中へ入ると、事前に用意していたのか、DVDプレイヤーにプロジェクターが繋いでありスクリーンまで準備されていた。

その手際の良さに少し違和感を感じた健二だったが、早く帰りたいと言う衝動の方が大きく無駄な詮索(せんさく)はしないことにした。

やがて無言のまま黒木はDVDプレイヤーを起動し、中に入っているDVDの内容をプロジェクターを通してスクリーンに写し出す。



一言で言うと雑。何がともあれ雑。

DVDの内容というものは香が健二の悪口を言いながらプレゼントに渡したであろう指輪をわざわざ粉砕して教室のゴミ箱へ捨てて行くというもの。だが、開始から終了まで香の後ろ姿しか撮られておらず、音声も合成したような感じで荒く、作り物だと一瞬で見抜けてしまう出来栄えだった。

一体彼女は何がしたいのか?

その行動に何の意味があるのか理解出来ない健二は黒木に

「こんなことして楽しいか?」

とドスの効いた声で冷たく言い放った。

その瞬間ビクッと肩を震わせ表情を凍りつかせる黒木。そんな蛇に睨まれたカエルのように硬直してしまった彼女の胸ぐらを一切の迷いもなく彼は掴み上げると

「こんなことした理由を教えてくれよ!なぁ⁈」とだんだんと口調をヒートアップさせて行く。

黒木は死を覚悟した。

こんな事で死を覚悟してしまう自分が情けなかった。

同時にあの『少年』の策に乗ったことを後悔していた。

あの『少年』は黒木に対して『江ノ本(えのもと) 香を潰すための作戦』を持ちかけてきた。

今、この状況でよくよく考えたら、あの作戦はどれもこれもスケールがデカすぎて成功するわけが無かったのだ……。

そもそも、さっきあったばかりの奴に二年同じ時間を過ごした奴らの絆を傷つけることなんて無理だったんだ……

昨日健二と香が襲われるように仕向けるため不良友人に金を握らせた事……

最近頻発していた盗難事件の犯人が香だとデマを流した事……

緑沢に香の偽の情報を吹き込む行為……

この後実行予定だった計画……

どれもこれも『香と緑沢 健二の仲を裂く』為の方法だと聞いていたが……。

彼女の脳内では今までの走馬灯のように、この事件についての情報が溢れかえっていた。


全てはあの『少年』が描いた計画…

私には関係ない。


謝ろう。


やはり私には荷が重すぎた。後悔先に立たずとはよく言ったものだ。

全てを諦めたかのように目を閉じた彼女は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった口元を震わせながら謝罪をしようと…………

「だよねー」「うん!」

そんな時だった。視聴覚室の外から二人のよく知っている声が聞こえてきたのは。

「それにしても、まだあいつ私が金目当てでラブラブカップルを演じてやってることに気付いてないんだよねー」

「もー、そういうことは大声で言わないの」

「知らないよ。騙される方が悪いの」

「詐欺師か! そう言えば前もらってた『マフラー』は?」

「売った」

「うわー。つらー」

「ハハハー」

健二の表情から余裕が消えた。

彼は黒木から手を離すと震える手で視聴覚室の扉をあける……。

「え……そんな………」

そこにいた二人の少女

「うそ……だろ…………」

その内の一人の少女の横顔

「俺は……騙されていたのか?」

それは紛れもなく

「香…………」

悲痛の叫びを漏らした彼はその場へと崩れ落ちて行く。一方黒木自身も何が起きているのか理解出来ず、向こうにいる二人の少女と健二を交互に見比べる。

その様子に気付いた二人の少女は足早にその場から走り去って行った。

「……………お前が言っていたことは本当だったんだな……」

やがて健二は消え入りそうな声でそう言った。

「え……えぇ、全て事実です。私は私の友達に間違った道に進んで貰いたく無いのです。まっとうな道へ歩んで行って欲しいのです」

どこか呆然としていて覇気のない声で返す黒木。

何故だろう…よくわからないけど、これはチャンスなのではないだろうか⁈ 神は私に味方してくれるのか?

黒木は崩れ落ちた健二を一人その場へと残しフラフラと少女達が先ほど去って行った方向とは逆の方へと歩き出して行った。

「……………さない………」

「……許さない……………」

「許さない‼︎」




携帯の着信音で目を覚ました健二。

さっきまでの事が夢ならどれほどいいことかと何度思っただろう。

しかし悲しいかな、現実は厳しい。

携帯の通知を確認すると不在着信15件、受信メール59件と表示されていた。

送信者など見なくても分かる。あいつだ。

それを全て見ずに削除した彼は

「確認する必要なんてない。弁明なら聞きたくもない」

まるで誰かに語りかけるように呟いた。

そんな時インターフォンの音が静まり返った家中に響き渡る。

「最終決着をつけよう……」

誰が来たかなど分かりきった事だ。

健二は階段を降りていき、玄関の前へ立つ。そしてゆっくりと玄関扉を開いていく。

静まり返った周囲に扉の(きし)む音だけが木霊(こだま)する。

まるでこれから始まる事件の幕開けを知らせるかのように…………。


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