6・悪夢
「……ゆき……美雪……」
周子はうなされているような義母の声で目を覚ました。フットライトのみの薄暗い部屋。ベッドサイドのデジタル時計はまだ午前三時だった。
隣のベッドで眠る義母は、苦しそうに顔を歪めている。
「お義母さん。大丈夫ですか」
まさか癌が進行してどこか痛み出したのだろうか。不安に駆られて周子は義母の肩に手をかけ、揺り起こした。
びくりとした義母は開眼し、周子の方へ顔を向けた。その額には汗が滲んでいた。
「大丈夫ですか」
もう一度そう訊いてみた。義母はゆっくりと上体を起こして両手で顔を覆った。
「ああ、やっぱり」
「お義母さん?」
「ずっと見なくなっていたのに」
義母は薄い肩を大きく動かしてため息をついた。
「ごめんなさい。なんでもないのよ。ちょっと嫌な夢を見ただけだから」
ようやく周子の存在に気づいたかのように、義母はそう言って微笑んだ。
「本当に大丈夫ですか?」
「ええ、心配しないで」
義母は確かに、『ミユキ』と、言っていた。孫の美雪を呼んだようには思えない。アルバムに挟まっていた女の子の写真。あの『みゆき』という女の子はもしかして、お義母さんの娘なのだろうか。
「お義母さん、ミユキって……」
「私、そんなことを言っていた?」
「……はい」
きっと触れられたくないことなのだろうと思ったが、自分の娘と同じ名の少女の存在がどうしても気になっていた。
周子は訊かずにいられなかった。
「お義母さんに娘がいたんですか?」
ベッドに座る義母は片手で額を押さえ、俯いたまま苦しそうに答えた。
「……ええ、いました。最近やっと思い出してもうなされなくなったの。でも、またあの子が私を呼んだ。あの子からずっと逃げ続けていた。忘れてしまいたかった。わが子を忘れようとするなんてばちが当たったの。あなた達が子供に美雪という名をつけたときからそう思っていた」
それから、義母は誰にも語れなかった六十年前の過去を、堰を切ったように一気に話し始めたのだった。