21・いつも傍に
「みゆきちゃんね、今まで、ずっとずっとおばあちゃんの傍にいたよ。でも、気がついてもらえないんだって、いつも美雪に言っていたの」
その場に佇み、不思議な余韻に浸っていた周子と義母の間に割りこむようにして、美雪は興奮気味に大声で意外なことを口にしたのだった。
「えっ」
周子と義母は口をそろえて驚いた。
「初めはね、知らなかったの、名前。でも、一緒に遊んだの」
「いつから?」
「ずっと」
「見えていたの?」
「ううん。初めは見えなかったの」
よくよく訊くと、どうやらみゆきちゃんは少なくとも旭川に旅行する前から傍にいたらしい。
見えない何かがいるのがわかっても、おっとりした美雪は怖いとも感じずに、そのまま受け入れたようだ。
美雪を通して、みゆきちゃんはずっと母親に訴えかけていたのだろうか。
こっちを向いて。みゆきのことを忘れないで、と。
「みゆきちゃんが見えて嬉しかった」
やはり、児童公園で遊んだあの子が、みゆきちゃんだったのだ。会ったらすぐにそうだとわかったらしい。
「手袋ちゃんと返したよ」
みゆきちゃんと会う約束をしたときに、とっても大事な手袋だから、絶対持ってきてねといわれたのだという。
話し終えると、美雪は大欠伸をした。
もう起きているのが限界なのだろう。
周子は義母と顔を見合わせて笑いあった。
肩の力が抜けてやっと緊張の糸がほぐれた感じがした。
何時になったのだろう。
ロータリーに光る、電光表示の時計を見上げた周子は驚いた。まだ午前二時半なのだ。
さっきまで時も止まっていたのだ。
まだ闇が支配する時刻。
周子は眠りに落ちかけた美雪をおんぶして、その心地よい温もりを背中に感じながら、タクシーを拾えるところまで義母と供に少し歩いた。
「周子さん、ごめんなさいね。美雪まで変なことに巻き込んでしまって」
「そんな風に言わないでください。家族なんだから」
家族なんだからと、周子は力を込めて言った。遠慮なんかして欲しくない。少しくらい我が侭を言ったり、迷惑をかけたりして、困ったら支えあう。それが家族だと思う。
義母は小さく、ありがとうと言い、照れたように笑った。
ホテルへ戻ってベッドに入ってからも、周子は興奮して眠れないまま、不思議な長い夜は明けたのだった。