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雪の街の少女  作者: asami
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2・故郷

「お義母さん、すべるから気をつけて」

 二月初旬、遠藤周子は義母を連れて今年卒園する予定の娘と三人で、初めてこの雪深い街を訪れたのだった。

 ある日、テレビに何度となく出るようになった北海道、旭川にある旭山動物園のニュースを目にした義母が、

「ここへ行ってみようか」

 と、珍しく孫の美雪に言ったのだった。

 突然思いついたように旅行がしたいと言い出した義母に、周子は戸惑った。

 もう長くない命を悟り、最後の旅行のつもりなのではないか。

 そんなふうに思ったのだ。

 だが理由はそれだけではないと、周子はまもなく知ることになった。

 この街には辛い思い出しかないのだと義母はふと漏らした。それでも義母は近寄ろうとしなかったこの街へ行ってみたいと言ったのだ。一人息子にも話さず、義父が病気で亡くなってからは一人で背負い込んでいたこの街での思い出。それは何なのか。

 周子は何かを訴えるような義母の真剣な眼差しに、今、義母を連れて行かないととても後悔するような気がして、その翌日には旅行代理店を訪ね、さっさと旅行の段取りを始めたのだった。

 旭川は冬まつり期間ということもあってホテルはなかなか見つからなかったが、それでもツインを一部屋押さえることができた。

もう予約したからと夫に事後報告したときには、なにも幼稚園を休ませてまで行かなくてもいいじゃないかと良い顔をされなかったのだが、周子は今じゃないとだめなんだと無茶な理由を言って、美雪が卒園して春休みになってから皆で行こうという夫を強引に説き伏せた。

一人留守番する羽目になった夫を東京に残し、三人は義母の生まれ故郷、この北の街へやってきたのだった。

 義母は癌が見つかったあの日、何かを決意していたのかもしれなかった。


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