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雪の街の少女  作者: asami
10/25

10・雪の公園

「帰らない。公園に行って雪だるま作る!」

 タクシーを止めて乗り込もうとしたとき、美雪が唐突にそう言った。

「公園なんてどこにあるの? おばあちゃんが疲れるからホテルに戻らないと」

「公園なら、すぐ側にあるよ」

タクシーの運転手が親切に教えてくれた。

余計なおせっかいだったのだが、美雪は大はしゃぎで行く気になっている。

義母を一人にするのは心配だったが、義母をタクシーに乗せた後、周子は美雪と手をつないで、運転手に聞いた近くの公園へ渋々付き合った。

氷像の会場になっている常盤公園という大きな公園に付属するように、その小さな児童公園はあった。

冬まつり会場からは目と鼻の先だが、その公園は美術館の裏手になり、少し奥まったところにあるためかひっそりとしていた。

公園内は雪に埋もれて、ただの雪山になっていた。

「おまつりの氷の滑り台に行った方が楽しいんじゃないの?」

「ここでいいの! ママ、一緒に雪だるま作ろう!」

 美雪がコートの裾を引っ張ったのだが、周子はそんな気分になれず、少し離れた所に立って、美雪が遊んでいる姿をぼんやりと眺めた。

 美雪は雪を掻き分けて大喜びだった。

 はらはらと雪が降り出してきた。その中を、美雪は雪に足を取られながらピンクのコートを雪だらけにし、雪玉作りに精を出していた。

 さらさらの雪はうまく丸まらないようで苦戦していたのだが、いつの間にか、同年代くらいの女の子が一緒になって雪玉作りを手伝ってくれていた。

 遊び相手ができて、美雪は一層雪遊びに熱中した。

 じっと立っているだけの周子は、次第に足先が冷えてきた。手もかじかみ、鼻頭が冷たくなったのがわかる。寒さが堪えた。

公園の入り口にある裸の子供の像が寒々しい。周子はその場で足踏みをして寒さをしのごうとした。腕時計を確かめると、十二時近くになっていた。雪の中じっと立っているには限界だった。周子は暖かい珈琲が恋しくなった。

「美雪、そろそろ帰ろうか」

「いや! まだ遊ぶ!」

「ママは寒くて風邪引きそう。帰るからね!」

「だって、まだ雪だるまができてないんだもん!」

 その言葉を無視して、周子は美雪に背を向けた。

「ママ、待って!」

 泣きそうな声を上げながら、美雪はこちらに駆け寄ってきた。

「またね、美雪ちゃん……」

 一緒に遊んでいた女の子が寂しそうに美雪にそっと手を振った。美雪は振り返り、女の子に向かって手を勢いよく振り替えした。

「またね!」

「美雪、またねって会う約束をしたの?」「うん、明日二時に会うの。だって雪だるまの続きを作るんだもん」

「でも、もう会えないでしょう?」

「絶対会うの。だって、手袋ばくったから」

「ばくった?」

「あのね、交換するって言うことなんだって」

 美雪の片方の手には、見慣れない赤い毛糸の手袋がはめられていた。それは手編みのようだった。

 それを目にしたとたん、胸が締め付けられる感覚が周子を襲った。

まさか、ね。

 周子は自分の考えを慌てて否定した。

 何故そんな風に思ったのかわからない。そんなことがあるはずがないのに。

 なんとなく、その赤い手袋を義母に見せてはいけないと思ったのだ。

「美雪、その手袋は返してきなさい」

「でも、もういないよ」

 美雪が少女のいた方を指差して言った。

 周子も振り返って少女の姿を探したが、どこにもその姿はなかった。

「お友達のお名前は訊いたの?」

「うん」

「なんていうの?」

「ひみつ!」

「どうして?」

「約束したから」

 美雪はそう言って真一文字に口をつぐんだ。

秘密と言って、美雪は都合の悪いことをごまかすことがある。その友達の名前ももしかすると訊いていないのか、忘れたのかもしれない。

「まあいいわ。明日きちんと返すのよ。もうこんなことしちゃだめよ」

「はーい」

 美雪は間延びした返事をした。悪かったとは全く思っていないようだ。周子と手を繋いだまま、上機嫌でぴょんぴょん飛び跳ねながら歩いている。友達とまた明日会えるということで頭が一杯になっているようだった。

 雪はいつの間にか止んでいた。


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