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陳情からの暴露

 魔王様は机の上に胡坐をかき、片手に羽ペンを持って書類作業をされていた。 ジャスミンなんとかが現れてから騒がしかった魔王城が四日目、五日目と静かで六日目まで静かに終わると何やら嫌な予感までしてくる。

 そして迎えた七日目の朝のこと。いつものように朝から仕事をしていた魔王様はその書類を見ておっしゃいました。


「淫魔族のリリスと淫夢族のリリムを呼べ。……全くあの親子は魔族、いや吸血族泣かせな」


 それは五日前に出された陳情書。ジャスミンなんとかが現れたのと魔王様が二頭身になったことが原因で現在職務が滞りがちなので書類が遅れているのだ。

 陳情書を魔王様が読み「またか」と呟く。

 問題の魔族は淫魔族、淫夢族で、ともに食料が他人の淫気。つまり他人のエロい気なのだ。

 淫魔族のリリスと淫夢族のリリムは種族は違えど親子である。リリスと夢魔オルフェの娘のためリリムは両方の血統を引いた淫夢族となったのだ。リリスとリリムは親子だからか、好みがよく似ている。基本的には吸血族がお好みで度々吸血族に絡むのだ。現在、吸血族一のいい男ベラルクとその息子ミラルクをターゲットにしているらしい。ベラルクとミラルクは吸血族の中でも血統が純血に近く、力も強いので純血種の吸血族の側近の配下にあたる。


「……陛下。申し訳ありません。リリス、リリム両名に連絡がつきません」


「連絡が取れないだと?」


「――両名ともリリオスとともにすでに三日程、連絡が取れないようです」


 訝しい状況に魔王様の眉間にしわが寄ってしまう。側近達は泣きそうだ。麗しの魔王様がいかつい顔になってしまわれるのではないかと思うぐらいに縦シワが深い。


「三日……三日……サルニカ。ジャスミンなんとかが城に来なくなったのは?」


 現吸血族の長サルニカが答える。


「四日目にございます」


「リリス、リリムの興味を引いたか……面倒な奴め」


 一つ目巨人に視力検査はやめよう事件以来の魔王様の怒声が魔王様の魔力に呼応して魔界全土に響いた。


 その内容は勿論。


「ジャスミン・ティーダ・ガルバロス・ディダ・カルマ・サバラク・アムラーヤ!出てこい!」


 そして、すぐにどこからともなく、少し切羽詰まった声だけが魔王様の元に帰ってきた。


「今、クライマックス。ちょっと待ってて」


 魔王様は眉間を揉みながら「何をしている。何を……」と脱力したとかしなかったとか。

 


***


「お・ま・た・せっ!」


「ま、魔王様ぁお召しにより」「参上しましたぁ……も、申し訳ありません……」「淫魔と言うのに」


 魔王様の怒声の後、しばらくしてジャスミンはそれはそれはスッキリとした表情で現れた。それの後を追うようにヨロヨロとした足取りで三人の魔族が現れた。


「リリス、リリム、リリオス、魔王様のお召しに参上しないとは……」


 魔王様の側近でリリス、リリオスと同種のサリティンが説教しようとして途中でやめた。


「そなたらどうしたのだ?」


 三人の魔族達は精気を吸われ切ったようにげっそりとしていた。


「サリティン様……私、快楽の極みをみてしまいました」


 三人は恍惚な表情のままその場に崩れた。


「ジャスミン……説明しろ」


「三日間耐久セ」「もういい……いや、リリオスは分かるが他の二人は」


「それは女体化も男体化も自由だからぁ。ちなみに一部変更も可。この体、高性能なんだよね。陛下も試してみない?」


 魔王様のお顔に聞かなきゃ良かったと浮かんでいる。


「断る。何のためにこの姿でいると思っているんだ」

 そこで側近一同の中であの巨大物体襲来直前の「嫌な予感がする」 と現状の二頭身が繋がった。

 

「お前の相手していた奴らはこんなんでも要職にあってな、仕事がただでさえ滞っているのに更に滞るではないか」


「じゃあ元に戻ればいいのに」


 魔王様の二頭身が仮の姿と言うことをジャスミンは知っているらしい。

 魔王様はとっても嫌そうに顔をしかめた。


「寝台から出てこれない予感しかしない。第一、お前らは我ら地上に住まう者よりも圧倒的に強いではないか。大魔王種として認識されておるのだからな」


 大魔王の言葉に歳がいった者達が震えだす。それを年若い者が不思議そうに見ていた。


「三代前の魔王の時、今回と同じようにこいつみたいなのが現れてな、毎日酒池肉林に乱交で魔界が乱れに乱れた。魔王と言うもの自体、世界をまとめる制御装置だ。人間界と魔界のバランスさえ取れていれば荒らぶる魔王が現れたりせず、我のように面倒くさがりが魔王として生まれるのだ。当時の魔王も我と同じで面倒くさがり。魔界が乱れに乱れ、その宇宙人が人間の国の姫達を攫い、さらに面倒くさいことが起きた。あまりに収拾がつかない事態で世界は人間界対魔界の大戦争。迎えに来た宇宙人は当代魔王と一計を案じ、人間界側の勇者として大魔王状態の同僚を連れに来たと言うのが真相だ。…………つまりそいつは大魔王だ」


 長い説明すら魔王様にとって面倒で仕方がないが、注意喚起の意味も含めて、この場にいる者に説明をした。

 これは大魔王襲来だったのかと周囲の側近一同がジャスミンから離れる。


「それは禁止事項だからやらないよ。一時的な快楽で遊ぶことはしてもね」


「しばらく淫魔族を貸してやるから、迎えが来るまでそいつらで遊んでいろ。サルニカ、サリティンの元にしばらく部下をやれ。サリティンは稼働できる淫魔族を全てジャスミンにあてがうんだ」


 サリティンは青ざめて人身御供と呟き、サルニカはこれも魔界の平和のためと御意と頭を下げた。


「えー! 淫魔族飽きたぁー巨人族で楽しみたいぃー」


「巨人族は駄目だ」

「淫魔族に飽きただと!! よし! 淫魔族の総力を魅せてあげようじゃないですか」


 淫魔族のサリティンはジャスミンの腕を掴み、魔王様の執務室から意気揚々と出ていった。


「サリティンの馬鹿め、お前まで参戦したらお前の仕事の穴を誰が埋めるのだ」


 魔王様はがっくりと膝をついた。それからギギギと音がつきそうな動きで吸血族の長サルニカを見てニヤリと笑った。


「淫魔族が抜けた穴、吸血族が頑張れ。そして吸血族の警護担当は全て巨人族で埋めるんだ……それから」


 ぼふんとピンクの煙とともに魔王様が素敵な八頭身に戻られた。


「淫魔族が全員倒れるまでは仕事が捗る。面倒ごとは回避できるだろ」と鼻歌が出そうな勢いで魔王様はペンを手に取る。

 サルニカは泣きそうになりながらも部下達に連絡をとり、次々に指示を与えていった。

 その後はもちろん魔王様の執務室は書類で埋まったのだった。


だから魔王様はジャスミンを最初から受け入れていたのです。だって勝てないって分かってるんだもん

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