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陳情2

 魔王城に宇宙人が居座って三日目。


 「どうしたのだ? ゲオルグ」


 魔王様の執務室への扉の前で膝を抱え込み蹲る大きな山……もとい一つ目巨人族のゲオルグ。

 巨体も巨体。立っていれば約八メートルの巨体。

 膝を抱え込んでいる姿はまさに小山。扉の半分を隠している。そんな巨体なものだからしくしく泣いているのが鬱陶しい。

 魔王様は魔王にも関わらず臣下を大切にする。まぁ、不和が生じれば面倒が起きるからだが、魔族一人一人の名は覚えているし、人間とも友好的とは言わずとも敵対はしていない。そんな魔王様故に魔王様はゲオルグを心配するのだ。


「魔王様……俺……目が悪い……目が悪い、一つ目巨人……ただのでかぶつ……魔王様……俺……消して欲しい」


「…………ゲオルグ、誰に苛められた? 遠慮なく言え」


 ゲオルグはナイーブでうたれ弱かった。なのでゲオルグについて周囲は細心の注意を払って接していた。もちろん魔王様も。


「謁見の間……」

「あいつか!」


 落ち込んだゲオルグは非常に面倒くさいのだ。


「それで何を落ち込んでおるのだ」


 魔王様はふよふよとゲオルグの顔の前まで飛んでいき、頬の辺りを二頭身の小さな手でぺちぺち叩きますとゲオルグは顔を上げて魔王様を見ます。

 魔王様を見つめる円らな目から大粒の涙がボトボトと流れるのを魔王様はボフンと元の姿に戻り頭を撫でてゲオルグを慰めました。


「泣くでないよ。魔族の子。お主等の平穏無事が魔王の願いだ。さぁ泣くのを止めて事情を話すのだ」


 魔王様は魔族には大変お優しいのです。

 泣いている一つ目巨人ゲオルグは途切れ途切れに事情を説明しました。

 昨夜、ゲオルグが謁見の間の警護当番で扉の前に立っていると、ジャスミンなんとかがふらりと現れて、ゲオルグに「視力検査しよう」と告げた。

 視力検査と言えば片目隠して片目の視力を測るものだ。よく考えてみよう。いや、考えてみなくても「ちょっと待て」と言いたくなる。ゲオルグは一つ目巨人族。つまりは片目を隠すどころか目は一つしかない。

 ジャスミンなんとかは、あろうことかゲオルグの目を隠し、こう言った。


「これは何と読むのでしょうか?」


 話を聞いた魔王様とゲオルグを囲む魔族達は心を合わせてこう思った。――読める訳がない。一つ目巨人に対して何と言う非道ぶりだと。

 そして、全く読めない(当たり前だが)ゲオルグに対してジャスミンなんとかは更にこう告げた。


「心の目まで悪いのね」と。


 思い出し泣きで滝のようにそのピュアな眼から涙を流すゲオルグ。

 魔王はまたボフンと音をたて二頭身になると肺の奥底から空気を出して城全てに行き渡りそうな声で怒鳴った。


「ジャスミン・ティーダ・ガルバロス・ディダ・カルマ・サバラク・アムラーヤ!出てこい!」


「はいはい魔王様」


 またもふらりと通路の角から顔を出し、タイミングを見計らったかのように現れるジャスミン。


 本日の陳情、一つ目巨人に視力検査はさせないで欲しいにつきジャスミンなんとかは魔王様にまたも半日コースの説教をされるのであった。


 蛇足。今日は一時的に魔王様が元の姿に戻ったことを喜んだ側近や宰相らは、魔王様が二頭身に逆戻りと、ジャスミンなんとかと説教半日コースで執務時間がなくなったことをゲオルグ以上に涙したのだった。


なんで魔王様はジャスミンの前ではちびっこなのか…

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