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巨大飛来物到来

 謁見の間にて魔王であるジスノウジャは背筋に悪寒が走り、急に立ち上がった。


「陛下?」


「嫌な予感がする」


 クールと言えば良く聞こえるが、ただの無表情の物臭。しかし、その顔は魔界広しと言えどそう簡単に見られない程に美しく、一般の臣下からは謁見の間にて淡々と部下達の報告を聴く姿は憂いを帯びていてなお美しいと評判だ。

 ただこれが側近になると話が別らしく憂いを帯びていてではなく、あぁ面倒くさいと顔に文字が浮かんでくるのではないかと心配するほどに魔王様は物臭の面倒くさがり。

 そんな面倒くさがり魔王様が謁見中に立ち上がった。それだけでも大事件である。

 ボン! 

 爆発音してピンクの煙が魔王の椅子を覆い隠した。


「陛下!」


「うむ。我は暫しこの姿でいる。嫌な予感で全身に鳥肌が立っておるわ」


 魔王様と言えばしなやかに艶やかにそれはもう美しい髪に化粧?何それ?な輝かしいお肌。スッと通った鼻に口元は少し薄めで笑うとニヒル。黒い瞳は研きぬかれた黒曜石。その目に流し目されれば老若男女問わず倒れる程。

 見事な長身の八頭身で上半身と下半身の割合は四.五対五.五と見事に足が長い。

 と、ここまで讃美の言葉を列ねてきたがただいまピンクの煙から出てきた魔王様と言えば……それはそれはお可愛らしい。


 二頭身であった。


「魔王様ぁ!」

「陛下ぁ!」


 二百年に一度くらいの割合でこんな状態になってしまう魔王様(仕事も何もかもが面倒になるとこの状態になるらしい)。

 二頭身で可愛らしいのだが、ちまっと椅子に納まる様子に麗しの陛下が大好きな臣下達は涙を流して悔しがっている。中にはこの二頭身陛下の方が好きと悶える者も少々いるが、この謁見の間にいる者は大半が泣いていた。特に側近達と宰相が。仕事が遅れると……


「来る!」


 シュタっと椅子から降りて窓をじっと見ていた魔王様は手のひらを窓にかざした。

 魔族達が見たこともない巨大な円形の硬質な物体が外から謁見の間に向けて高速で飛んできている。

 悲鳴が上がり、力がない魔族達は窓とは反対側の壁に避難し、力ある上位貴族や側近らは魔王様の両脇を固めるように魔族達と物体の合間に立ち魔王様とともに対物防御の障壁を展開した。

 形容しがたい轟音が響き渡り、障壁に辛うじて止められた物体は謁見の間の三分の一を埋めていた。


「陛下! ご無事ですか?」


 上位貴族や側近らが魔王様を囲むようにして無事を確認していると、物体の一部が無音で開く。


「うっわ! やっばぁい! 現地と接触どころか城破壊とかやっばぁいよね? リっちゃんに殺される」


 中から何かが転がり出るという比喩を使える勢いで出てきた。

 魔王様以下、魔族達は勿論身構えた。


「うっわ! かぁわいいぃー!」


「離せ!」


 出てきた何かは魔王様を魔王様を囲む魔族から奪い去り頬擦りをしている。因みに魔王様はわたわたしている。


「やぁーん。じたばたしてるぅー!」


 じったばったと苦し気にその人物の腕から抜け出そうとしている魔王様は二頭身陛下ラブな臣下にはたまらない可愛らしさだったとか。


「それにしても老若男女、美男美女揃い。美味しそうー」


 魔王様を固く固く固くハグしたまま、その人物は周りを見回した。

 あまりにも不穏な一言に魔王様はキレた。


「世の臣下に手を出すでない痴れ者が!」


 この一言に魔王様激愛の魔族は魔王様に愛されていると一同泣いたらしい。


 そんなこんなで魔王様は椅子に戻り、破壊された謁見の間で魔族が並ぶ中、魔王様を抱き潰していた人物が魔王様の前に側近に脇を固められて正座していた。


「ジャスミン・ティーダ・ガルバロス・ディダ・カルマ・サバラク・アムラーヤと言います。こちらの星の監視官だったのですが、船の調子が悪くなってしまったので、こちらに不時着したのです。この度は城を破壊して申し訳なくぅーえーっとぉ、あぁ! とりあえず二週間……現地時間で十日で救援が来るので暫しお世話になります。ありがとう」


 魔王様が何も言わないうちにジャスミンと名乗る宇宙人が魔王城の客人となったようだ。

 魔王様以下全員が「まだ許可も何も言っていないだろう」と、心の中で総ツッコミしていたことに魔族って仲いいなぁと微笑ましく思うべきだろうか?


 こうして魔王様の居城に一人の客人が現れたのだった。


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