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アタシに婚約破棄(タイマン)挑もうってか……上等だよ!

掲載日:2026/03/21

「サンディ・ローグ! てめえに婚約破棄(タイマン)を申し込む!」


 こんな声が轟いたのは貴族(ゾク)が集まる夜会(しゅうかい)での出来事。

 屋敷の中では、大勢の貴族(ゾク)の若者がたむろし、刺繍の入ったスーツ姿やドレス姿で床にしゃがみ込み、煙草(モク)を吸う、酒をラッパ飲みするなどの社交を楽しんでいた。


 婚約破棄(タイマン)とは婚約した貴族(ゾク)の男女どちらかが婚約を破棄し、喧嘩を売るという彼らの社交スタイルの一つ。胸倉を掴む、中指を立てる、と似たようなものだと思ってくれていい。


 申し込まれた子爵令嬢サンディはニヤリと笑う。


「アタシに婚約破棄(タイマン)挑もうってか……上等だよ!」


 サンディは波打つ長い栗色の髪を持つ美しい女性で、『喧嘩上等』の刺繍入りの黒色のロングドレスを着用している。

 婚約破棄(タイマン)宣言をした伯爵令息ラドル・ブリガンを睨みつける。

 ラドルもまた、耳と鼻と唇にピアスをふんだんにつけた、気合の入った男であった。


 ギャラリーが盛り上がる。


「おっ、やんのか!?」

「あの令嬢(スケ)、根性あんな! しかもかなりマブいぜ!」

「こりゃおもしれー見世物(ミセモン)だぜ!」


 サンディとラドル、両者が構える。

 ちなみに婚約破棄(タイマン)は素手が原則――素手喧嘩(ステゴロ)で行われる。


「サンディ、前々からてめえのことは気に食わなかったんだよ」


「へっ、アタシもさ」


「オラァッ!」


 ラドルのパンチから喧嘩が始まった。

 サンディはこれをガードするが、体は後退させられる。

 さらに、ラドルが足を粗雑に振り上げ、ケンカキックによる追い打ち。


「ぐはっ……!」


 サンディはよろめいてしまう。


「こんなもんかよ? もっと舞踏(ダンス)ろうぜ! サンディちゃんよぉ!」


 ラドルの一方的な攻撃が続く。

 顔面、胸、腹、あちこちを殴られたサンディはついに膝をつく。

 見応えのない展開に、周囲の貴族(ゾク)らは失望の声さえ上げる。


「なんだよ、フルボッコじゃねーか!」

初喧嘩(デビュタント)したばっかの令嬢(スケ)だってもうちょっとやれるわよ!」

「つまんねー喧嘩だぜ……」


 しかし、ある青年だけは意味深な笑みを浮かべていた。


素人(トーシロ)どもが……まるで分かってねえな。所詮は下級貴族(パシリ)か」


 喧嘩はいよいよ佳境に入っていた。

 四つん這いになったサンディに、ラドルが近づく。


「分かったか? 俺の実力が……。俺に逆らうから、破棄(ボコ)られるはめになるのさ」


「ああ、よく分かった」


 サンディは口の中に溜まった血を吐き捨てる。


「やっぱあんたじゃアタシの相手にならねえってな!」


「なにい……!?」


 サンディは勢いよく立ち上がると、そのまま――


「ぶっ!?」


 頭をラドルの顔面に叩きつけた。


頭突き(パチキ)……!?」周囲もどよめく。


 鼻血を流すラドルを、サンディは毅然とした表情で見据える。


「アンタと婚約(ヤク)キメた時は嬉しかったさ。だがよ、平民(カタギ)を脅して必要以上に税金(みかじめ)取ってるって聞いて心底ガッカリしたよ。だから、アタシはあんたに逆らったんだ」


 サンディは拳を構える。


「だから、この婚約破棄(タイマン)……勝つ!!!」


「ほざけ、クソ(アマ)ァ!!!」


 両者再び激突するが、ここからはサンディの独壇場だった。

 鋭い拳が顔面を打ち、しなる蹴りが脇腹を抉り、ラドルはなすすべなくボコボコにされる。

 やがて、綺麗な右ストレートが入り、ラドルは背中からダウンした。

 すると――


「殺してやる……!」


 ラドルは懐から短剣(ドス)を取り出した。

 周囲はざわめき、サンディは目を細める。


「おいおい、婚約破棄(タイマン)素手喧嘩(ステゴロ)だろが。庶民(シャバ)いことしてんじゃねーよ」


「うっ、うるせえ! 勝てばいいんだよ!」


 ラドルは短剣(ドス)を構えて突っ込んできた。

 だが、サンディは冷静にかわすと、強烈なアッパーカットを見舞う。


「ぐはぁぁぁっ!」


 ラドルは再びダウンした。

 しかし、それでも短剣(ドス)を拾おうと足掻く。

 が、その右手は踏みにじられた。


「ここまでだ」


 突如現れたのは、先ほど「素人(トーシロ)どもが……」とささやいた青年だった。

 光沢ある金髪をポンパドールにまとめ、整った顔立ちをしている。スーツの背中には『特攻』の二文字が掲げられている。


「見事だったぜ、サンディ。この婚約破棄(タイマン)、お前の勝ちだ」


「あんたは……?」


 サンディは首を傾げる。


「エクロス・リューガーってもんだ。夜露死苦(ヨロシク)


 リューガー家といえば公爵家、最大規模の派閥を誇る貴族(ゾク)である。


「このラドルが平民(カタギ)に悪さしてるって聞いて、懲らしめに来てやったんだが……俺の出る幕はなかったようだ」


 エクロスはラドルを冷酷な目で見下ろす。


汚職(ヤンチャ)が過ぎたな。お前は貴族(ゾク)のメンツに傷をつけた。拷問(ヤキ)入れた後、鉱山(ムショ)送りだ。二度と(シャバ)は拝めねえと思え」


「ひっ……ひいいっ……!」


 悲鳴を上げるラドルの頭を、エクロスは容赦なく踏みつけ、完全に黙らせた。


 仕事を終えたエクロスは、サンディに振り返る。


「いい喧嘩だった、サンディ。お前ほどの令嬢(スケ)を見るのは初めてだ」


 サンディは少し顔を赤らめる。


「いきなりしゃしゃってきて、口説いてんじゃねーよ」


「いい令嬢(スケ)を見たら口説く、これが貴族令息(ボンボン)の義務ってもんだ」


「へっ、言うねえ」


 エクロスは真剣な眼差しと口調で言う。


「サンディ・ローグ……俺と婚約(ヤク)キメてくれねえか」


「いいのかよ? アタシは愛の言葉より拳が先に出るような女だぜ?」


「もちろんだ。どんな(あい)も受け切ってみせる」


「……じゃあ、よろしく頼むぜ。エクロスの旦那」


「おう!」


 ラドルとの婚約破棄(タイマン)に勝利したサンディは、エクロスと婚約を交わした。


 程なくして挙式が行われ、『愛羅武勇(アイラビュー)』の刺繍が施された純白のウェディングドレスを着たサンディは、皆が煙草(モク)を吸うのも忘れ見とれてしまうほど、激マブだったという。






おわり

お読み下さいましてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
転生した異世界はナーロッパかと思いきや昭和ヤンキー漫画だった事件(ヤマ) #ちょっとちがう #だいたいあってる
エタメタ先生が、いつも、なさってる婚約破棄モノに、任侠モノを取り入れるとは!お見事!見事なエタメタ節です!! あなたの作品には退屈しませんぜ!またの素晴らしい作品を…夜露死苦!!!w
婚約破棄がタイマンで婚約がヤクをキメるとか、ぶっ飛んでるぜ、エタメタノールのダンナ(≧▽≦)! 貴族とは名ばかりのゾクとヤクザの夜会、もとい集会。 これ、ラジオで流されたら面白いだろうな。いや、音声だ…
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