Episode 20
第一章:わがままな朝
「ルおじさん!!!」
朝食の静寂を破ったのは、リリーの元気すぎる声だった。サヤンは手元の資料から目を離さずに応える。
「……なんだよ、騒々しいな」
「聞いてよ!」
「言えよ、何があったんだ? 今、すごく大事な仕事をしてるんだから」
リリーはぷいっと横を向いて、腕を組んだ。
「……先に『ごめんなさい』って言って」
「はあ? 何に対してだよ」
「いいから先に言って! 理由は後で教えてあげるから」
サヤンの負けだった。彼はため息をつきながら、渋々口を開く。
「……わかったよ、ごめん」
「あと2回!」
「ごめん、ごめん! ……これで満足か?」
リリーはニヤリと笑い、勝ち誇った顔で言った。
「えへへ、見て! ルおじさんは私の言うことを何でも聞くんだから!」
(……全く、このわがまま娘め)
サヤンは心の中で毒づきながらも、どこか口角が上がるのを抑えられなかった。
第二章:止まない雨と小さな命
数日後、外は激しい土砂降りだった。
サヤンが窓の外を見ると、そこにはずぶ濡れで立ち尽くすリリーの姿があった。
「リリー! こんな雨の中で何してるんだ! 早く中に入れ!」
慌てて外に飛び出したサヤンに、リリーは頑なに首を振った。
「嫌だ……。もうびしょ濡れだもん、もっと浴びていたい」
「お前、何か隠してるだろ?」
サヤンが詰め寄ると、リリーの腕の中から小さく「ニャー」という弱々しい鳴き声が聞こえた。
「猫……? 捨て猫か。ほら、そんな汚れた野良猫、そこに置いておけ。怪我をするぞ」
「嫌! この子を家に入れないなら、私もここから動かない!」
リリーは震える声で訴えた。
「……もし、これが私だったら? それでもおじさんは私を追い出すの? この子、ボロボロで死にそうなの……お願い、病院に連れて行って!」
サヤンの心は折れた。
「……ああ、もう。わかったよ! 病院に行こう。ほら、俺のコートを着ろ。風邪をひくぞ」
車の中で、リリーは大切そうに猫を抱きしめていた。
「大丈夫だよ、マックス。今病院に連れて行ってあげるからね」
「名前までつけたのか……?」
「今日から、この子は家族だもん」
(自分の体調なんてお構いなしのくせに、この小さな命のためには必死なんだな……)
サヤンは助手席の少女を盗み見て、小さく笑った。
第三章:暖炉のぬくもり
病院から戻ると、マックス(猫)の無事が確認された。
「これからマックスはお前と一緒にいていい。だが、ちゃんと面倒を見ろよ」
「本当!? ありがとう! ……あなたって本当に優しいね。ねえ、マックス?」
「……ふん、お前にお世辞を言われるとはな」
サヤンは照れ隠しにぶっきらぼうに答えると、マックスをドライヤーで乾かし始めた。
しばらくして、二人は暖炉の前に座った。
「リリー、お前は本当に頑固だな。自分の体が弱いって分かってるだろ? 二度とあんな無茶はするな」
しかし、リリーはサヤンの説教など上の空で、膝の上の猫を撫でている。
「マックス……なんて可愛いの……」
「おい、聞いてるのか?」
「ねえ、おじさん。暖炉の前で手を温めるのって、なんて幸せなんだろう。本当に心が落ち着くね……」
リリーの穏やかな横顔を見て、サヤンもそれ以上は何も言えなくなった。
「……ああ。気分が良くなったなら、もう寝なさい。夜も遅い」
「はーい、ボス!」
そう言ってリリーは、小さな相棒を連れて自室へと戻っていった。




