エピローグ 追放された結界師、自由な空へ翔ける
聖王国ソラリスの王都。
魔王の襲撃から数日が経ち、街には復興の槌音が響き渡っていた。
人々が瓦礫を片付け、汗を流している広場の上空を、伝令ワイバーンが通過する。
バササッ……。
空から大量の紙束――「号外」が雪のように撒かれた。
作業の手を止めた市民たちが、それを拾い読みし、次々とどよめきの声を上げる。
「おい見ろよこれ! 勇者が捕まったぞ!」
「えぇっ!?」
紙面には、手錠をかけられ、情けない顔で連行されるザスターの写真が掲載されていた。
その見出しは衝撃的なものだった。
『希望の星、墜つ。勇者パーティ〈スターダスト〉リーダー・ザスター逮捕』
記事には、詳細な罪状が羅列されている。
『大規模詐欺』、『各国での動乱扇動罪』、そして『魔王復活を企てた主犯』としての拘束。
さらに記事は続く。
『共犯の疑いで、戦士ブラウン、賢者ゲイルにも捜査の手が伸びている』
『なお、聖女ルミナに関しては、既にギルド登録を抹消しパーティを離脱していたため、一連の事件への関与なしと判断された』
それを読んだ民衆の反応は、怒りよりも呆れだった。
「なんだ、あいつら詐欺師だったのか」
「世界を救うどころか、危機を招いた張本人とはな」
「やっぱり、あの『結界師』が抜けてからおかしいと思ってたんだよ」
かつて熱狂的に迎えられた英雄神話は、嘲笑と共に崩れ去った。
◇
一方その頃。王城の地下深く。
崩落した「封印の間」の瓦礫の下から、一人の老人が這い出してきた。
賢者ゲイルだ。
魔王の一撃を受けて気絶していた彼は、数日ぶりに意識を取り戻したのだ。
周囲は静まり返っている。
「ククク……静かだ。魔王様が全てを焼き払ったか。……計画通りだ」
ゲイルは埃を払い、歪んだ笑みを浮かべた。
この静寂は、地上の人間が死に絶えた証拠だ。
彼は足を引きずりながら、地上への階段を登る。
さあ、焦土と化した世界を拝ませてもらおう――。
しかし。
地上に出た彼が目にしたのは、「復興作業に汗を流す人々」と「平和な青空」だった。
「……な、なんだ? どういうことだ? なぜ人間が生きて……」
ゲイルは呆然と立ち尽くした。
その足元に、風で流れてきた一枚の新聞が張り付く。
彼はそれを拾い上げ、震える手で読んだ。
『魔王討伐完了』
『勇者パーティ元メンバー、結界師ユートの尽力により王都は守られた』
『ザスター逮捕』
そこには、憎き若造が英雄として称えられ、自身の手駒が逮捕された事実が記されていた。
「おのれ……おのれユートぉぉぉ!! 貴様、どこまで私の邪魔を……ッ!!」
ビリィッ!!
ゲイルは新聞を握りつぶし、憎悪のあまり爪で紙面を引き裂いた。
指先から血が滲む。
計画は全て水泡に帰した。今や自分は、世界中から追われる指名手配犯だ。
「許さん……この屈辱、必ず晴らしてやる。……見ていろ」
ゲイルはフードを目深にかぶった。
復興の活気に満ちた明るい大通りとは対照的に、彼はドブネズミのように暗い路地裏へと消えていく。
その背中には、再起不能なほどの敗北感が漂っていた。
◇
上空。
『天駆ける翼』のブリッジには、地上の喧騒とは無縁の、穏やかな空気が流れていた。
「あうー」
幼児化した元魔王が、ユートの服の裾を掴んで見上げている。
無垢な瞳だ。かつての破壊衝動は微塵も感じられない。
「……名前が必要だな」
ユートは少し考え、かつてこの国を支配した魔王の名を、そしてザスターの魔力を否定するように告げた。
「『ノイン』だ。……かつての魔王を否定し、ゼロから、新しい生を生きろ」
いくつかの意味を込めたその名前に、幼子はパァッと顔を輝かせた。
「のいん! きゃはっ!」
「ふふっ、可愛い名前ですわね、ユート」
傍らでリリィが微笑む。その表情には、もう陰りはない。
エリィも、呆れたように、しかし優しく肩をすくめた。
「まったく。兄さんったら、また家族を増やして……。食費が大変よ?」
「善処する」
◇
ユートは席に座り、前方の空を見据えた。
どこまでも続く、抜けるような蒼穹。
故郷の復讐は終わった。過去との因縁も精算した。
もう、振り返ることはない。
「……行くぞ、オートマタ」
ユートが短く命じた。
『イエス・マイ・マスター。全速前進』
キィィィン!!
精霊炉が快音を上げ、銀色の翼が加速する。
復興中の王都を眼下に、船は白い雲海を突き抜けて上昇していく。
彼らの行き先は誰も知らない。
地図にも載らない、自由で騒がしい旅が、ここから始まるのだ。
本作はこれにて完結です。
長い間、ユートたちの旅にお付き合いいただきありがとうございました。
皆様の応援のおかげで、彼らを無事に新しい空へ送り出すことができました。
彼らの旅はまだまだ続きますが、まずはここで一区切りとさせていただきます。
少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや下にある評価ボタン(★★★★★)を押していただけると嬉しいです。
それでは、また。
--------------------------------------------------
【2/6追記:新作はじめました!】
完結の勢いで、さっそく新しい物語を投稿しました!
今度は「戦乙女」が主役の、少しダークで気ままなセカンドライフものです。
『職務放棄した戦乙女の気ままなセカンドライフ』
https://ncode.syosetu.com/n6372lr/
もしよろしければ、こちらも覗いてみてください!




