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第2話 天空の絶対防壁、氷剣の舞

 聖王国ソラリスの王都は、絶望の秒読み段階にあった。


 瓦礫の山と化した中央広場で、暴走する『黒い巨人(魔王)』が、天を仰ぐように大きく口を開いた。

 カッ……!

 口腔内に膨大な魔力が収束していく。

 その熱量は空間を歪ませ、大気を震わせるほどだ。極大熱線ブレスの予備動作であることは、誰の目にも明らかだった。


「総員、防御魔法を展開せよ!」


 聖王騎士団長は、震える手で剣を握りしめた。

 無駄だ。あんなデタラメなエネルギー、我々の魔法障壁ごときで防げるはずがない。

 逃げ惑う民衆たちも、迫りくる死の光を見て足を止めた。

 誰もが「終わり」を悟り、祈ることさえ忘れて立ち尽くす。


 ギィィィン……!

 魔王の口元で、光の球が臨界点に達した。

 放たれれば、王都は地図から消滅する。


 その時だった。


 キィィィィン!!


 頭蓋を揺らすような高周波音が、上空から降り注いだ。


                ◇


 遥か雲の上から、一筋の銀閃が流星のように突っ込んできた。

 『天駆けるリヒト・フリューゲル』だ。


 コクピットでは、ユートが腕組みをして正面モニターを睨みつけていた。


「オートマタ、精霊炉出力全開! 巨人の真正面に割り込め!」

『イエス・マイ・マスター。コース修正、突入シマス』


 機械音声と共に、船体が軋むほどの急制動がかかる。

 副操縦席のエリィもまた、モニターに流れるデータを高速で読み取り、指示を飛ばした。


「重力制御、及び慣性制御最大! オートマタ、水精霊の魔力をシールドへ直結して!」

『了解。リンク確立。魔力ヲ防御へ回シマス』


 船はトップスピードのまま、巨人と王都の間の空間へ滑り込み――物理法則を無視したオートマタの精密制御によって、ピタリと静止した。


「【精霊機動・広域遮断結界スピリット・アイギス】!!」


 ユートが両手を広げ、自身の膨大な魔力を船へと叩きつける。

 船の精霊エネルギー、オートマタの演算制御、そしてユートの規格外の結界術。

 三位一体の力が融合し、船の前方に、巨大な虹色の光壁が展開された。


 直後、魔王の口から極大の熱線が放たれた。


 ズガァァァァァァァン!!


 世界を白く染める閃光。

 だが、光壁は水面のような波紋を広げるだけで、そのすべてを受け止めた。

 衝撃波が雲を散らすが、中心にある船は空中で微動だにしない。

 圧倒的な安定感。まさに天空の要塞だ。


「な、なんだあの船は……!?」


 地上で見上げていた騎士団長は、口をあんぐりと開けていた。

 魔王の一撃を、無傷で防ぎきったというのか。


                ◇


「グゥ、オォォォッ!!」


 攻撃を防がれた巨人が、苛立ちを露わにして咆哮した。

 興奮した魔王の口から、ドロリとした大量の唾液が溢れ出し、地上へとボタボタ降り注ぐ。


 ジュワァァ……ボコッ、ボコッ。


 地面に落ちた唾液が、不快な音を立てて泡立ち、変質していく。

 黒いヘドロの中から、異形の魔物たちが次々と這い出てきた。

 鋭い爪を持つ小鬼や、羽を持つガーゴイルたちだ。

 その数、数百。魔王の唾液が落ちるたびに、軍勢は無限に増殖していく。


「キシャアアア!」


 魔物たちは、空中に浮いている「邪魔な船」を落とそうと、瓦礫を積み上げて跳躍したり、魔法を放ったりして殺到し始めた。


「くっ……!」


 ユートは呻いた。

 彼は魔王のブレスを警戒し、結界の維持に全神経を注いでいるため、他の対処ができない。

 無数の魔物が船に取り付けば、結界の出力が乱れる。


「……湧いてきたな。リリィ、頼めるか」

「はい、ユート」


 通信機越しに、冷徹な声が返ってきた。


                ◇


 プシュッ。

 船の下部ハッチが開き、一人の少女が飛び出した。

 銀髪をなびかせ、その手には細身のレイピアが握られている。


「……排除します」


 空中で待ち構えていたガーゴイルの群れが、一斉に彼女に襲いかかる。

 だが、リリィは舞うようにレイピアを突き出した。


「【氷突アイス・スティング】」


 キィン!

 レイピアの先端から絶対零度の魔力が走る。

 刺突と同時に魔物を内側から凍結させ、次の瞬間には氷像となって砕け散った。


「キシャッ!?」

「邪魔よ!!」


 リリィは宙を蹴り、瓦礫の山に着地すると、地上から這い上がる魔物の群れに単身で突っ込んだ。

 銀色の閃光が走るたびに、氷の花が咲き乱れる。

 そこにあるのは、愛する人を守るためだけに研ぎ澄まされた、美しくも冷酷な刃だった。


                ◇


 その光景を、瓦礫の影で震えていた聖王騎士たちは呆然と見ていた。

 圧倒的な数の暴力を前に、たった一人の少女が前線を支えている。


「あ、あの子……たった一人で……」


 若い騎士が呟く。

 その言葉を聞いた騎士団長は、ギリッと唇を噛み締め、己の剣の柄を握り直した。


「……恥を知れ!!」


 団長の怒号が、騎士たちを打った。


「国を守る我らが震えてどうする! うら若き女性が、命を懸けているのだぞ!!」

「っ……!」

「騎士団、抜刀! あの少女を死なせるな! 我らの意地を見せろぉぉぉ!!」


 騎士たちの瞳に光が戻る。


「うぉぉぉぉ!! 続けぇぇ!!」


 数百の騎士たちが一斉に瓦礫を乗り越え、リリィの援護に向かって突撃を開始した。

 リリィは彼らを見なかったが、少しだけ口元を緩め、背中を預けたまま淡々と敵を斬り続けた。


                ◇


 空中には「不動の船」。

 地上には「無双するリリィ」と騎士団。


 鉄壁の布陣によって攻撃を阻まれた魔王は、苛立ちを頂点に達させていた。

 巨人は首を傾げ、自慢の熱線が通じないことを理解できないように唸る。


「グルルル……」


 そして、ニヤリと歪な笑みを浮かべた。

 魔王は熱線を止め、その丸太のような太い腕を振り上げた。

 魔法が通じないなら、単純な質量で叩き潰せばいい。

 原始的だが、最も回避困難な物理攻撃だ。


「チッ、物理かよ……!」


 コクピットのユートは、迫りくる巨大な拳を見て叫んだ。


「オートマタ、地精霊の加護をリンク! 衝撃耐性用意!」

『イエス。衝撃、来マス』


 ビル一つを粉砕できるほどの巨大な拳が、空中の小船めがけて振り下ろされる。

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