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第4話 崩壊する天空都市

 成層圏を突き抜ける速度で、魔王の足――『骸骨機甲ネクロ・ギア』は上昇を続けていた。

 コックピットの中で、賢者ゲイルが悲痛な演技で涙を拭うふりをする。


『……ああ、なんと嘆かわしい。風の精霊が泣いております』

『ああん? どうしたゲイル』


 操縦桿を握るザスターが問うと、ゲイルは雲の切れ間から見えてきた巨大な影を指差した。


『ご覧ください、あの美しい都市を。……実はあそこには恐ろしい噂があるのです』

『噂?』

『あの都市は、封印を維持するために、定期的に民を生贄に捧げているとか……』


 ザスターの眉が吊り上がった。


『なんだと!? 罪のない民衆ファンを燃料にしてるってのか!?』

『左様。特にあの中央にそびえる塔……あそこが「処刑台」です』


 ゲイルの言葉に、ザスターの義憤が爆発した。


『許せねぇ……! そんな湿っぽい儀式は、俺のロックで吹き飛ばしてやる!』


                ◇


 雲を抜けると、そこには白亜の巨大都市が浮遊していた。

 天空都市『ビルデング』。

 だが、ザスターにとってそこは「人々を囚え、生贄にする監獄」でしかなかった。


『行くぞ! 「生贄」解放ライブの開幕だぁぁッ!』


 骸骨機甲が急降下を開始する。

 都市の防衛システムが反応し、無数の警備ドローンや迎撃ビームがザスターを襲った。

 だが、今の彼にはそれすらも演出にしか見えない。


『おおっ! なんて派手なレーザーライトだ! ずいぶんと熱烈な歓迎じゃねえか!』


 ザスターは操縦桿を強引に倒し、光の雨を回避しながら突っ込んでいく。


『ブラウン、衝撃に備えろ! ステージ・イン(墜落)だ!』

『ごばぁっ……(白目)』


 戦士ブラウンはGに耐えきれず、既に失神していた。

 アリスだけが「天からの降臨……神話的です!」と祈っている。


 ズドォォォォォォォン!!


 骸骨機甲は都市を覆う防護結界を物理的にぶち破り、広場のアスファルトを削りながら派手に着陸した。

 土煙が舞い上がる。


 プシューッ!

 肋骨のキャノピーが開き、煙の中からザスターが飛び出した。


『ヘイ、天空の囚人たち(生贄予備軍)!』


 魔法のマイク(拡声器)を片手に絶叫する。


『もう怯える必要はねぇ! この俺が「檻(都市)」をぶっ壊して、自由にしてやるぜぇぇ!!』


 広場にいた市民たちは、空から降ってきた異形の骸骨と、絶叫する男を見て悲鳴を上げた。


「ひぃぃ! 骸骨が降ってきた!」

「あ、悪魔だー! 警備兵を呼べー!」


                ◇


 パニックになる市民たちを見て、ザスターは頷いた。


『怯えるなと言っても無理はないか。まずは準備運動ダンスで心を解きほぐしてやる! 手拍子をくれ!』


 ザスターは足元に魔力を集中させた。


「【爆縮跳躍ブラスト・ジャンプ】!」


 ドォォォン!

 爆発的な脚力で跳躍。彼は歌いながら、高層ビルの壁面を蹴り、屋根から屋根へと飛び移るパルクールを開始した。

 だが、その威力は「移動」の域を超えていた。


 ガシャーン! バリーン! ドゴォォォン!


 ザスターが着地するたびに壁が砕け、蹴り出した反動で窓ガラスが粉々に散乱する。


『いい音だ! そのガラスが割れる音こそ、支配からの解放のファンファーレだ!』


 破壊音を「ビート」として取り込み、ザスターのテンションは最高潮へ達する。

 しかし、この都市は繊細な浮遊魔法のバランスで成り立っていた。

 ザスターが主要な高層ビルの支柱を蹴り砕いたことで、致命的な連鎖が始まる。


 ズズズズズ……ッ!


 傾いた高層ビルが、隣のビルへ倒れ掛かった。

 それを皮切りに、巨大なビル群が将棋倒しのように連鎖崩壊を始める。


「きゃああああ!」

「落ちる、落ちるぅぅ!」


 傾斜が三十度を超え、道路に駐車されていた高級な飛行車や、逃げ遅れた市民たちが、悲鳴を上げながら雲海(下)へ滑り落ちていく。

 地獄絵図だ。

 だが、ザスターは崩れゆく街を見て、感涙していた。


『見ろアリス! 街が踊っている! 俺のソウルに共鳴して、邪悪な建物システムが自ら崩れ去っていく! これぞ奇跡だ!』

『素敵です勇者様! これぞ「破壊と再生」の神聖劇ですわ!』


                ◇


 一方その頃。

 古代飛行艇『天駆けるリヒト・フリューゲル』は雲海を抜け、成層圏近くの「浮遊大陸エリア」へ到達していた。

 ブリッジで、ユートとリリィはレーダーの反応を見つめていた。


「魔王の頭があるってことは、古い遺跡か、魔物の巣窟だろうな」

「そうですわね。誰も人が寄り付かないような場所でしょうし」


 二人は「無人島」や「危険なダンジョン」を想定して身構えていた。

 だが、船が雲を抜けた瞬間――二人は言葉を失った。


「……は?」

「これは……」


 そこにあったのは、荒野ではなかった。

 白亜の塔が林立し、無数の小型飛空艇が行き交う、超高度な魔法文明都市だったのだ。


「おいおい、嘘だろ……。こんな高い所に『国』があるなんて聞いてないぞ」


 地上では失われた技術が生きており、地上よりも遥かに発展している。


「想定外だ。……魔王の頭は、ただ落ちているわけじゃなさそうだ。この国が管理している可能性が高い」


 その時、都市の一角で爆煙が上がった。

 高層ビル群が、まるでドミノのように倒れていくのが見える。

 その中心には、飛び跳ねる馬鹿の姿。


「……着いて早々、始めてやがる」


 ユートは舌打ちした。

 事態は緊急を要する。


「オートマタ、光学迷彩展開! 船を雲の中に隠せ!」

『了解』

「リリィ、行くぞ!」


 ユートとリリィは風精霊の加護を受け、ハッチから飛び出した。

 眼下では、ザスターが崩れゆくビルを足場にして、都市の中枢である「中央塔」へ向かって大ジャンプを開始していた。


『さあ、ラストナンバーだ! あの中央塔で、全ての元凶を引っこ抜いてやる!』


 その目線の先、塔には、混乱に乗じたゲイルが既に侵入しているはずだ。


「リリィ! お前は中央の塔へ向かえ! ゲイルとザスターを止めろ!」

「承知いたしましたわ。マスターは?」


 リリィの問いに、ユートは落下しながら、崩壊するビル群へと両手を向けた。

 逃げ遅れた人々が、雲海へと落ちていくのが見える。


「俺は、こっちの崩壊を食い止める!」


 ユートは深く一つため息をつき、乱れた前髪を無造作にかき上げた。

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