表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/39

第10話 暴虐の婚礼、断罪の激流

 精霊の森南部、火山地帯に建てられた悪趣味な宮殿。

 その巨大な扉が、乱暴に蹴り開けられた。


「おい、結婚式の準備だ! 今すぐにだ!」


 玉座の間に怒号が響く。

 帰還したばかりの火の氏族長ヴォルグは、担いでいたシルフィをゴミのように床へ投げ捨てた。


「きゃっ……!」

「指輪は『隷属の首輪』と同じ術式の特注品を作らせろ。逃げ出せないように、たっぷりと呪いを込めてな!」


 ヴォルグは興奮冷めやらぬ様子で、玉座にドカと腰を下ろした。

 息つく暇もない。彼は勝利の熱に酔いしれ、一刻も早くこの「戦利品」を自分のものにしようと急いでいた。


「衣装はどうする? そうだ、風の里の生き残りどもに作らせろ。父親の墓前で、同胞が涙ながらに縫ったドレスを着て俺に抱かれる……傑作だろう?」

「っ……! 悪趣味な……!」

「髪を下ろせ。戦士の顔などするな。これからは俺好みの、ただのメスになれ」


 ヴォルグがシルフィの結い上げた金髪を乱暴に解く。

 シルフィは悔し涙を流しながらも、抵抗できなかった。人質に取られた里の民や子供たちの命が、彼女の双肩にかかっているのだ。


「……ふん。少しはマシになったか」


 ヴォルグは興味を失ったように視線を外し、部屋の隅を顎でしゃくった。

 そこには、鎖に繋がれた水の氏族長、ルルが引きずり出されていた。


「おいルル。朗報だぞ。……お前の頼みの綱、ゼファーは死んだ」

「え……?」


 ルルの瞳から光が消える。

 彼女にとって、最強の精霊使いであるゼファーだけが、この暴君を止められる唯一の希望だった。


「嘘……嘘よ……」

「本当だとも! 俺がこの手で焼き殺してやった! ガハハハハ!」


 ヴォルグの高笑いが響く。


「何が『終わり』だって? 終わったのはテメェらの未来だ。ここに来れる者は、もうこの森には誰もいねぇんだよ!」

「ああ……そんな……」


 ルルが崩れ落ちる。シルフィもまた、唇を噛み締めて俯くしかない。

 完全な絶望。

 この閉ざされた森で、彼女たちを救う者など存在しない――はずだった。


「――ヴォルグ様!!」


 その時、部下のサラマンダーが慌てて玉座の間に飛び込んできた。


「大変です! ひ、飛行艇が接近! 白銀の船です!」

「あぁ? さっき帰ってきたばかりだぞ」

「違います! 我々の船とは形状が違う……それに、速すぎます! あっという間に防空圏内に!」

「なんだと?」


 ヴォルグが眉をひそめた瞬間。

 ズズズズズ……と、宮殿全体が微動するほどの重低音が遠くから響いてきた。


「チッ、いいところで……。どこのどいつか知らねぇが、返り討ちにしてやる」


 ヴォルグは不機嫌そうに杯を投げ捨てた。


「シルフィ、そこで待ってろ。余興に、侵入者が燃え尽きる様を見せてやる」


 彼はマントを翻し、宮殿の外に停泊させてある旗艦『イノセント・アーク』へと向かった。


                ◇


 上空。

 『天駆けるリヒト・フリューゲル』は、ヴォルグの護衛艦隊に向け、一直線に突っ込んでいた。


「撃てぇッ! 落とせぇぇッ!」


 宮殿を守るように展開していた旧式艦隊から、無数の火球や砲撃が放たれる。

 だが、それらは船体に触れることすらなく空中で弾け飛んだ。


『はんっ、砂粒みてぇな攻撃だな! 俺の結界を抜けると思ってんのか!』


 地の精霊が展開した【絶対防御結界】が、船全体を黄金色の輝きで包み込んでいる。

 傷一つ付かない船体を見て、ブリッジで腕を組むユートは鼻を鳴らした。


「……ノックにしては乱暴だな」

「下方ヨリ、巨大熱源接近。……宮殿カラ上昇シテキマス」


 オートマタの警告と共に、眼下の宮殿から白い巨体がせり上がってきた。

 ヴォルグが乗る旗艦『イノセント・アーク』だ。


「雑魚どもめ、俺が出るまで場を持たせろと言っただろうが!」


 上昇してくる船の甲板で、ヴォルグが怒号を飛ばす。

 彼は両手に膨大な魔力を収束させ、こちらに照準を合わせた。


「高エネルギー反応。極大魔法が来マス」

「水、やれるか?」

『当たり前だ! 汚ぇ火だ、消え失せな!』


 ヴォルグが巨大な炎の塊を放つと同時に、こちらの船首からも光が放たれた。

 水の精霊の魔力をダイレクトに変換した、超高圧の水流レーザーだ。


「【断罪の激流ジャッジメント・ストリーム】――発射!」


 ズドォォォォォォン!!


 極太の蒼い閃光が、ヴォルグの放った炎を一方的に呑み込み、蒸発させる。

 その勢いのまま、光は『イノセント・アーク』の左舷を消し飛ばした。


「な、なんだあの出力は!?」


 甲板にいたヴォルグは、衝撃で吹き飛ばされながら悲鳴を上げた。

 自分の最強魔法がかき消された? ありえない。

 船が傾き、墜落を始める。


「くそっ、この船はもう駄目だ! お前ら、特攻して時間を稼げ!」

「えっ、ヴォルグ様!?」

「俺は宮殿に戻る! 死んで止めろ!」


 ヴォルグは部下たちを盾にし、自分だけ宮殿のテラスへと飛び移り、逃げ込んでいった。


「……逃げたか」


 ユートは冷徹に戦況を見つめた。


「水、残りの船も片付けろ」

『あいよ!』


 再び放たれた蒼い閃光が、空に残っていた敵艦隊を次々と撃ち落としていく。

 空の驚異は去った。


                ◇


 ブリッジ。

 ユートはオートマタに問いかけた。


「宮殿内の構造を解析してくれ」

「……ピピピ、走査完了……。」

「そこに、エルフの反応をあるか?」

「検索……。宮殿最上階ノ広間ニ、エルフ一名ト、火の氏族多数ノ反応アリ」

「一名……シルフィか」


 無事だ。ユートは拳を握りしめた。


「それト、地下牢ニ別種族ノ反応ガアリマス。コレハ……水ノ眷属デス」

『なんだと!?』


 その報告に、水の精霊が怒りの声を上げた。


『あいつら、俺の可愛い眷属を……! こんな乾燥した檻に閉じ込めてやがるのか!』

『おい火の! やっていいよな?』

『ああ。森を焼くような馬鹿は、俺の眷属じゃねぇ。思う存分、冷や水を浴びせてやれ』


 精霊たちの意見は一致した。

 ユートはニヤリと笑い、席を立った。


「よし。……火と風と地は船を守れ。俺とリリィ、そして水で突入する」

「入り口ハ、正面大扉デスカ?」

「必要ない。正面から行けば、向こうも人質を盾にする準備をするだろう」


 ユートは宮殿の構造図を表示させた。

 玉座の間へ続く廊下の外壁。ここなら人質を巻き込む心配はない。


「……道を作るぞ」


                ◇


 甲板に出たユートたちの眼下には、ヴォルグが逃げ込んだ宮殿が見えている。


「行くぞ!」


 ユートの号令に合わせ、まず水の精霊(分体)が動いた。


『オラァァァッ!』


 虚空から大量の水流が噴出され、宮殿の外壁へ向けて一直線に伸びる。

 直後、リリィが扇子を一閃させた。


「【氷結界・氷道アイシクル・ロード】!」


 水流が一瞬にして凍りつき、船から宮殿の壁へと直結する、巨大な「氷の滑り台」が形成された。


「しっかり捕まってろよ!」


 ユートはリリィと精霊を抱え込むと、自身の周囲に強固な結界を展開した。


「【多重防護円メアファッハ・シュッツクライス衝角形態ラムシュポルン・フォルム】!」


 何重にも重ねられた光のドームが、衝角形態へと変化する。

 ユートは氷のレールを蹴った。


「強行突入ッ!!」


 ヒュンッ!!

 物理法則を無視した加速。

 結界を纏ったユートたちは、生ける弾丸となって氷の上を滑走した。

 目標は玉座の間のすぐ外、廊下の壁だ。


 ズドォォォォォォォン!!!


 轟音と共に、分厚い石壁が紙細工のように粉砕された。


                ◇


 宮殿、玉座の間。

 逃げ帰ってきたヴォルグが、息を切らしてシルフィの元へ戻ってきた直後だった。

 突然の衝撃と轟音が宮殿を揺るがす。


「な、なんだ!? 何が起きた!?」


 入り口の扉が、内側からの爆風で吹き飛んだ。

 舞い上がる土煙。粉々になった瓦礫の山。

 廊下の方角から、光が差し込む。


「壁が……ぶち抜かれた!?」


 唖然とするサラマンダーたちの前で、土煙がゆっくりと晴れていく。

 そこには、悠然と立つ影があった。


「……随分と楽しそうじゃないか」


 瓦礫を踏みしめ、ユートは冷徹な瞳でヴォルグを射抜いた。


「だが、そのふざけた宴もここまでだ。……引導を渡しに来てやったぞ」


 リリィが優雅に扇子を開き、水の精霊が殺気を放つ。

 断罪の時が来た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ