魔女とツガイが衰弱死から逃れる方法
僕は、魔女になりたかった。
僕の姉さんと母さんは魔女だ。魔女は魔法使いの上位互換。人間の最強種。総じて倫理観が高く、かなりの長寿。争いを嫌い、情に厚く、献身を厭わない。様々な魔法を使い熟し、魔力量が豊富。母さんは少し変わり種なんだそうだけど、僕には分からない。
魔法の才能は僕にだってある。魔力量は魔女並みと言われたこともある。多分父さんよりは使える魔法使いだと思う。魔力量もそこそこあるし、魔法を使い始めたのは物心がつく前。いろんな魔法が使えるし、威力だってデカい。でも魔女には女性しかなれない。だから僕は魔女にはなれない。
その事実を知った当時十歳の僕は泣いた。今では割り切ってるけど、姉さんと母さんはカッコよくて憧れだったから、同じにはなれないと知って酷く悲しかったのを覚えている。魔女にはなれないけど、そんじょそこらの魔法使いよりは使える魔法使いになれそうなのは間違いないと思う。
それよりも何よりも大きな問題があった。それは、魔女と魔法使いの生きる速さが違うこと。つまり、家族の誰よりも早く僕が先に死ぬ。今現在どのくらいまずいかと言うと、まず見た目がとても若い姉さんと僕はほぼ同い年に見える。実際は二十くらいの歳の差があるにも関わらず、だ。
父さんと母さんも実年齢と見た目が違う。父さんは魔女じゃないけど、魔女とツガったから年齢が止まったとかで、同級生の親よりも年上なのにかなり年下に見える。もちろん他にも魔女とツガイの親たちはいるから、そうじゃない親との比較なんだけど。
そもそも僕の両親は元々は違う国の貴族だったらしい。僕が生まれる前にこの東国に引っ越してきたと言ってた。父さんと姉さんが生まれ育った国に行ってみたいとは思うけど、今はまだいいかな。
ああ、僕はヴォルフラム。シュレディンガーの魔女シエルの息子で、アスクレピオスの魔女ローゼの弟、今十七歳。なぜか姉さんと一緒に、双子の姉弟として王立学園に通っているところだ。
入学を数ヶ月後に控えたある日、姉さんが僕を見て言った。
「あー、ヴォル、あなた女難の相が出てるわよ」
顔相占いにハマっていた姉さんは半笑い。心配した母さんが、姉さんは学園中退だったんだからちょうどいいと言い出し、どうやって捻じ込んだのか、翌日には一緒に通うことになっていた。
父さんと姉さんが生まれたのはここから少し距離のある王国で、何かが起こって公爵家の人が王位を継いだらしい。その公爵家の人と一緒に姉さんは学園に通っていたけど、そこで何かしらがあって中退することになったんだそうだ。それ以来魔女の修行に明け暮れて、学園制度のことなど忘れていたらしい。
僕の気持ちは聞かれないまま、我が家の最強魔女二人に押し切られた。しかも毎朝一緒に学園に通うことになってしまった。姉弟で登校とか正直恥ずかしいけど、結局のところ、勝てないんだから仕方がない。
良かったこともあるにはある。自分で言うのもなんだけど、僕は多分見た目が良い。中等部に通っていた頃は思い出すのも嫌な種類の出来事が多々あった。ギラギラした目のお姉さんに追われたり、お菓子を餌に声をかけてくるおじさんがいたり。お陰で魔法が上手くなったから今ではいい訓練だったとは思ってるけど、小さい頃に姉さんと母さんに鍛えられてなかったらどうなっていたかは分からない。マジで怖かった。
とは言え、高等部生にもなって姉さんに守られながら登校するのは不本意だ。けど、凄くありがたいのも事実。誰にも付き纏わられずに学校生活が送れる喜び。邪な気持ちを察知した姉さんがどんどん処理してくれるから、ああいう感情を浴びせかけられない清々しい日々。なんなら姉さんのファンの方が多くて寂しいくらいだ。ただ、食堂でシレッと母さんが食事しているのを見た時は思わず天を仰いだ。しかも違和感がなくて二度見した。
そんな学食での出来事は些細なことだと思うようなこともあった。周辺諸国の歴史を学んでいたら、両親のことが教科書に載っていたのだ。シュレディンガーの魔女シエルの半生。国に貢献したらしい二人の美談。こそばゆい。思わず姉さんを見たら、姉さんはニヤリと笑った。
「知ってたの?」
「知ーらない」
ふーん。いつも僕だけが何も知らない。
母さんに言ったら、
「あー、ティボルトくんの親父さんが編纂に関わってるらしいんだよね」
「ティボルトくんって、隣国の王様と同じ名前なんだけど?」
「そうだよ」
「え? 親父さんって公爵だったって人のこと?」
「今はこの国に住んでるよ。爵位を誰かに譲って私を追ってきちゃったの。夫婦揃って私の熱心なファンなんだよね。財力もあるしありがたいけどね。ちなみにハルトくん今、ヴォルくんが通ってる学園の理事長」
「あー、だから姉さんが通えるんだ! 変だと思ったんだよなぁ。それにたまに僕と姉さん見に来てたし」
「色々あったのはヴォルくんが生まれる随分前のことなんだけどね。ねー、そんなことより、ツガイ紹介所の件考えてくれた? ツガイの魔女がいないなら仕方ないけど、もしいるなら早いうちにさ。老けてくヴォルくんをお世話する覚悟は決めてはいるけど、ヴォルくんがおっさんになっちゃう前に探してみてくれないかな。魔女の諸々を使いまくって全魔女に登録させてるからそこにいなかったら諦めがつくし、今後の諸々も手配したいし。魔女の遺産と寄付金凄いんだよ。魔女のベーシックインカムシステムちゃんとしてるんだから!」
母さんが言っているのは、魔女が貰える生活資金のことだ。魔女であるだけで貰える生活費。お金を理由に、強い魔法が使える魔女が酷使されないために、長い年月を生きる魔女たちが互いに支え合う為の制度。
多分母さんにとって、それよりも重要なのは僕の人としての時間のことだ。今、家族の中で僕だけが成長する速さが通常通り。ツガイ持ちの父さん、魔女の母さんと姉さんはとてもゆっくりと生きている。彼らは成長が遅く、実年齢よりもかなり若く見える。つまり、このままだと両親を追い越して僕の生が終わる。
理由は分かってないけど、魔女と魔女のツガイがツガうと死へ向かう速さが同じになることが分かっている。僕は魔女にはなれないから、魔女とツガえば生きる速さが母さんたちみたいにゆっくりになる。魔女とツガうなんて簡単に言うけど、魔女なら誰でも良いわけじゃなくて、僕にとっての唯一を探さなくちゃいけない。欠けた何かがピタリとハマる相手がいるんだそうだ。
写真を見たり、直接会ったりすれば分かるらしいんだけど、今のところはその感覚自体が分からないからまだ出会ってないんだと思う。今住んでいる国には魔女が集まっているから、簡単に見つかるだろうと僕は正直舐めていた。生きる速さが遅い人たちは結局他では暮らしにくくなって、この国に集まって来る。今では魔女の街ができていて、世界中で生まれる魔女の情報が入ってくるようになっている。
魔女にはツガイだけが特別。生まれる前に魂を二つに割られた存在で、片方が魔女になり、もう片方がその『ツガイ』になる。魔女の選択肢は一生ツガイに出会わないか、一生そばにいるかの二択。その縛りを対価に魔女は特別な力を得ているのだそうだ。
出会えないままツガイが亡くなってしまっても、またその魂が生まれてくるのを待つ余裕が魔女にはある。代わりに、会ってしまったのに離れていたらいずれ衰弱死してしまうのだと聞いた。期待した分落差が凄いのだとか。
その片割れを探す時間を短縮するために作られたのが『ツガイ紹介所』で、僕はそこへ向かおうとしている。僕みたいな理由でとりあえず探してみる人もいるし、万が一にかけて夢をみる人もいる。まあ、要はいろんな理由でいろんな人が紹介所のドアを叩く。
僕は『とりあえず』だから紹介所に入るのが正直恥ずかしい。周囲に人がいないのを確認して大急ぎで建物に入った。中は意外と殺風景だった。受付にはキレイな女性がいて、その先にはたくさんの個室がある。対応してくれた職員は感じのいい人たちだったけど、個室に通してくれた人、お茶やお菓子を用意してくれた人、お見合い写真を運んできてくれた人、皆別々の人たちだった。後で聞いたら、全員魔女で、ツガイ探しの一環だった。なるほど。
僕はお礼を言って一人になってから、一枚一枚じっくりと写真を見ていく。何か感じる? 違和感はある? 何枚も写真を見ていくと他の人とは明らかに違うと感じられる人がいるんだと、最近ツガイを見つけたという級友が言っていた。彼はもう『彼の魔女』との対面も果たしていて、先日婚約を交わした。もう少し年齢を重ねてからツガイになると言って幸せそうだったあいつ。変われば変わるものだ。魔女のこと色々言ってたくせに。
さて、あいつの事なんかはどこかに放り投げて、僕は一枚一枚ゆっくりと写真を見ていく。みんな美人だ。この人もあの人も魔女。羨ましい。僕がなりたくてなれなかった者。生まれつき定められていた役割。街で見かけただけだと分からないだろうな。
ここには文字情報はなくて写真だけだ。段々と心がザワザワしてきた。前世の僕が出会う前に死んじゃっていたら、ずっとずっと待っててくれた人なのかもしれない。そもそも『僕の魔女』なんていないのかも……。
ある一枚の写真を見た時、ついにそれは起きた。急に懐かしさで胸がいっぱいになって、涙が溢れてきた。写真を見せてもらう場所が個室な理由が分かった。こんな自分を不特定多数に見られたくない。後から後から涙が溢れてきて、例の級友に貰ったタオルが役立った。紹介所へ行くと言ったら渡されたタオル。
あいつもこんな風に泣いたのかな。父さんもきっと。こんな、まだ会ったこともない女性に対してもう愛おしいと考え始めた自分が不気味だ。一目惚れとは片付けられないような、自分じゃない誰かの記憶なのか、肉体という入れ物に入った魂の歓喜なのか。二つに割られた魂が片割れを見つけた喜びなのか。
念のため残りの写真を全部見た後、最初からもう一度全部見直してみた。やっぱり彼女だけが特別だ。感情が落ち着くのを待ってから部屋を出て、紹介所の職員に僕の魔女が見つかったかもしれないと告げた。職員の女性は心底嬉しそうに微笑んでくれた。
「おめでとうございます! ツガイの可能性のある方が見つかってよかったですね。では、手続きをしますね」
ツガイが見つかっても稀に一緒になれないこともあると聞いて驚いた。少なくともこの紹介所に登録をしているんだから結婚の意思はあると思っていた。それなのに一緒になれないってどういうことなんだろう。
「ご家族の稼ぎ頭の場合、金銭的に揉めたり、魔女の性質を無視して嫁ぎ先を決めてしまう場合があるんです。それを止めるまでの権限は我々にはなく、本人の意思だと言われてしまえばそれまでなんです。あとは、要求された結納金が高額で払えないということもありました」
職員の女性は寂しそうに笑って視線を落とした。
「ツガイ以外の方と結ばれた場合、どうなるんでしょうか」
「二人が出会わなかった場合、男性は一般の方と同じように年齢を重ねて魔女とは関係のない暮らしを。魔女はまたその男性が生まれてくるのを待つことになります。魔女は長命ですから待てるのですが、ツガイを待つ間、しがらみに囚われることも多々あるのです。最長三百年待たれた方もいらっしゃるそうです。戦時中でしたけど」
魔女ではない家族と暮らすうちに、その一族が集り始めることもあるのだそう。毎月支払われる例の生活費が狙いだ。何度制度を整えても穴を突く。その上元々情が強い魔女は見捨てられずに献身を続けてしまうらしい。無意識に、ツガイがそばに居ない苦しさから逃れるためでもあるのだとか。
さて、僕が見つけた僕の魔女候補の女性は今三十代で両親と弟と暮らしているらしい。見た目は僕と同じくらいなのに、年齢は倍くらい上。僕がもう少し成長してからツガイの儀式を、となると彼女は待てないだろうか。まだ出会ってもいないのにその先のことを考えるなんて、自分もだいぶ毒されているようだ。
「あ……」
職員の女性が書類を見て小さく声を漏らした。
「ご家族が、厄介なお相手かもしれません」
心配そうに僕を見る。
「彼女のご両親はすでに亡くなられていて、今一緒に住んでいるのはご親戚のようです。彼女の収入を当てにして生活している可能性があります。私たちだけに分かる厄介な家族の印が付いていました。ご存知だとは思いますが、魔女であるだけで、先人が残した遺産などから毎月生活費が貰えるんです。魔女の能力を使って高収入の仕事もできますし、情も深い。こちらに結婚後も扶養したい、と記載されています。結納金も相場よりも高額です。先方への連絡は止めておきますので、まずはヴォルフラム様のご家族とご相談されることをお勧めします」
僕は彼女にお礼を言って、『僕の魔女』に関する書類を持って紹介所を出た。ただ、名前はまだ分からない。対面を申し込んだ時に教えてもらえるんだそうだ。どんな名前なのかななんて考えながら駅に向かって歩いていると、前方から写真の彼女が歩いて来た。間違いない! 彼女だ! 視線が一瞬合ったような気がしたけど、驚きが強くてうっかり見送ってしまった。親戚らしき人に連れられて、紹介所に入って行くところだった。彼女は初等部生くらいの男の子を抱いている。親戚と思われる男女二人は仲良が良さそうだが、彼女への配慮がなさそうに感じた。
ああ、写真を見た時以上に彼女を独占したくて堪らない。抱きしめたい衝動が湧き上がる。凄く彼女に触れたい。こんな気持ちが僕にもあるのだと驚いた。ただ一人、彼女だけに生まれる激しい気持ち。多分こんな感情を抱くのが初めてで、そもそもまだ触れたことがないから、暴走せずに耐えられたんじゃないかと思う。
驚きが強過ぎて動揺していたおかげで直接的な行動をしなくて済んだ。そもそも、突然初対面の男に抱きしめられたら怖いだろう。冷静な自分を褒めてやりたかった。でも同時に疑問が湧いた。彼女が僕に反応しなかったことだ。お互いがツガイだったら分かるものなのでは? 僕は速足で家を目指した。今日は父さんも母さんも家に居るはずだ。早く話が聞きたい。
「おかえりー」
ちょうど二人がお茶をしているところだった。
「ツガイを見つけた。しかも帰りにすれ違ったけど向こうは気付かなかったみたい。なんで?」
「あら、おめでとう」
「……ありがと」
「まあ、まずは座れ。昼食は食べたのか?」
「あ、忘れてた」
父さんが僕の席を指差した。
「ツガイを見つけて動揺したんだろう。今日は赤ビーツのシチューと古代麦のパンだ」
父さんがシチューとパンを僕の前に置いた。湯気が上がっていく。
「いただきます」
僕の家に伝わる食前の挨拶をする。『命をいただく』という意味なんだそうで、級友に何の呪文なのかと聞かれた時にそう説明したら僕の周囲でしばらく流行っていた。他にも知っていた人がいたのか流行りが外に出たのか、全然知らない人が街で言っていたのを思い出した。
「ごちそうさまでした」
両手を合わせて感謝をする。食器を流しに運んだらそのまま洗う。その間両親は静かにお茶を楽しんでいた。
「お待たせ。これがツガイの書類。ちょっと厄介なんだって。帰りにすれ違ったけど無視されちゃったんだよ」
父さんが書類を見ながら眉間に皺を寄せている。母さんは魔法を使って彼女の状況を読んでいる。遠隔で状況を探る、かなり珍しい魔法らしく母さんは知識があったからできるんだよーなんてサラッと言ってたけど、例え知っていても膨大な魔力量がないと使えないんだと姉さんが言っていた。
「あー、なるほどねー」
「結構な苦労を背負っている娘のようだな」
父さんが険しい顔で母さんを見た。
「うん。愛玩子と搾取子ってやつっぽい。あー、彼女は愛玩子の男の子の従姉ね。この愛玩子の父親の姉の娘がヴォルくんのツガイちゃん。この娘、何か飲まされてるんじゃないかしら。魔道具かな? それとも、ヴォルくんに迷惑をかけると思ってのポーカーフェイス。どっちだろ?」
「母さんごめん、ぽーかーなに?」
母さんは知らない言葉をよく使う。姉さんが言うには異世界からこの世界に来たからなんだそうだ。
「えーっと、感情を悟られないように表情を作るってやつね。これは本人に会わないと分かんないけど、ヴォルくんの記憶を覗かせてもらえば何か分かるかもだけど、その時のヴォルくんの感情の奔流も分かっちゃうから流石にやりたくないかも」
「あー、止めておいていただけると助かります」
気まずい。父さんが笑顔で僕の肩に手を置いた。これはバレてるやつだ。男同士分かり合えたのは嬉しいけどなんか気まずい。母さんは珍しく考え込んでいる。
「直接会いたいな。薬物使用があったら保護対象だし、違法魔道具の場合もあるし、後見人制度も見直せるかもだし、ちょっと時代が動くきっかけになるかも。その家に生まれた娘が一族最初の魔女だった場合、その娘の家族は降って湧いたような収入におかしくなる事が結構あるんだよね。世界的には稀有な魔女を保護する名目で生活費が渡されるけど、その不労所得に親は舞い上がっちゃう。簡単に家族と引き離す訳にもいかないし、両親が集る場合もあるし、心配した両親が託した後見人が集る場合もある。難しーよね」
「彼女、ってまだ名前も知らないや。僕、彼女のために何ができる?」
「正面突破もありだし、根回しして裏側からってのもありだけど、ヴォルくんはどうしたい?」
「父さんは母さんと出会った時どうだったの?」
「俺? おれ、は……」
「その場で口説かれたよ」
「シエルちゃん、やめてよ」
「ジーくん、動揺してるよ」
「そりゃ、するでしょ」
「ジーくん、ヴォルくんのお父さんのジークヴァルトくんは、母さんの魔道具のお店に来て、母さんと目が合った途端跪いて魔法で花を出して即求婚。母さんもすぐに分かったからそのまま。その後ローゼが生まれた後、色々あって母さんだけ未来に飛ばされちゃってね。その間ジーくんはずっとローゼを育ててくれてた」
「ローゼがいたからなんとか生きていられた。俺がいる世界にシエルちゃんの気配がないんだ。心を削ぎ落とされたような、空っぽの自分。あんな苦しみは誰にも味わわせたくなんかない。俺が武人で愛おしい娘がいてくれて、それで何とかやっと生きながらえたんだ。シエルちゃんの気配を感じたあの日、泣き崩れたよ。王宮で会議中だったんだけどね。デリンガー公爵が俺の異変に気付いてくれて、シエルちゃんを探しに行ったんだ」
「母さんは事故で未来に来ちゃっててね、その事故から未来に現れるまでの期間、ジーくんはツガイを失った状態だったわけよ。ストレス耐性が高かったのもあるとは思うけど、かなりの苦行だったと思うよ。一度でも出会ってしまったら代わりの何かがない限り離れているのは無理なの」
「可能な限り早く、そのツガイの女性を保護することを勧めるよ。彼女も苦しいはずだ」
父さんが心配そうに僕を見た。
「紹介所の人に厄介な親族がいるからよく話し合えって言われた」
「ヴォルくんの父さんは精神が強い武人だし、母さんは最強の魔女って言われてんのよ? 大丈夫。どんな親族でもなんとかしてみせる。彼女の安全に配慮するからちょっと時間はかかっちゃうかもだけど、できるだけ早く迎えに行こ」
「うん……あり、がと」
急に涙が溢れ出た。知らなかった感情と突然の困難。知らなかった両親の物語。感情が入り乱れる。情報過多。幸先不安。それでもこの二人がいれば怖いものはない、なんて安心してた。まだ名前も知らない僕のツガイ。彼女が抱えていた問題は平民の僕には大きかった。
翌日、両親と共に紹介所へ。職員の女性は母さんを見て目を見開いた。
「シエル様! え? シエル様のおぼっちゃまだったのですか? まあ! なんてこと!」
その女性が言うには、昨日僕のツガイ候補の家族と本人が来て、ツガイ斡旋申し込みを取り下げたのだそう。
「あの時、声をかけておけば……」
母さんが僕の肩に手を置いて首を横に振った。
「何の準備も無しに対応するのは難しいから、ベストな判断だったと思うよ」
「本来なら、紹介所の業務はここまでなのですが、彼女のためにも、私はこれから独り言を呟きます」
母さんがパチンと指を鳴らして、防音した。職員の女性の独り言は僕達にしか聞こえない。
「彼女のお名前はカリーナ、カリーナ・エビングハウス伯爵です。領地経営は代官に任せているようですが、財産を思うままに使っているのが叔父の家族。その叔父によって先程ツガイ紹介の申し込みが取り下げられました。叔父が懇意にしているという貴族の息子さんと結婚させようとしているという情報があります。彼女が恋に落ちたと言っていました。紹介所とは言え、ツガイとの出会いを手助けする場所です。魔女のツガイへの思いを無視した非人道的な行為で、我々は皆怒りが……」
職員の女性は涙が溢れて話し続けられなくなってしまった。
「大体分かったから、安心して。あとはシュレディンガーの魔女であるあたしがなんとかするから」
母さんはタオルを職員の女性に手渡した。
「あり、がとう、ございばす。私、悔しくって……」
母さんは職員の女性の肩を抱いてゴシゴシと擦った。
「職業意識が高くて好きよ。良い報告ができるように頑張るね」
職員の女性はひたすらに頷いていた。
「ジーくん、ハルトくんとパトリシアちゃんに協力してもらおう。連絡してくれる?」
「分かった」
そう言うと父さんは紙とペンを取り出して何かを書いた。それを母さんに渡すと、母さんはパチンと指を鳴らした。その紙は鳥の形に変わり、青空へ飛んで行った。
「素敵です。シエル様の魔法をこんな間近で見ることができるなんて! 幸せです!」
急に顔を輝かせ職員の女性はキラキラとした笑顔を見せた。
「ちょっとでも元気になってもらえたんなら良かった。じゃあ、私たちは行くね? ちょっと急ぐから」
母さんは職員の女性に手を振って、また指を鳴らした。
僕たち三人はどこかのお屋敷の中。玄関らしき場所に立っていた。向こうのほうからガタイの良いおじさんが走ってくる。勢いがあり過ぎてちょっと怖い。あ、理事長だ。
「シーエールーさーまー!」
近付くにつれて大きくなっていった声は玄関を揺らした。
「ハルトくん久しぶりー! ちょっと困っててさ」
「これはこれはお揃いでよくいらしてくださいました。まずは奥へどうぞ」
ハルトくんと呼ばれたガタイの良いおじさんは例の理事長で父さんのお友だち。四人でよく転移して隣国の学園の食堂へ通っていたこともあるほどの仲良し。ふーん。僕は転移酔いしてたから連れて行ってもらえなかったらしい。知らなかった……。
こちらの理事長、ブルクハルト・デリンガー元公爵は父さんの幼馴染なんだそうだ。でも父さんは魔女のツガイになってから成長と言うか、老化が遅くなったから、今では親子くらい違いがあるように見える。一見年齢差がありそうに見える二人が身分の差も越えて楽しそうに揶揄い合う姿を見るのは不思議な感覚だった。
母さんが概要を説明すると、デリンガー元公爵、ブルクハルト様は考え込んだ。奥様だと紹介してもらったパトリシア様と難しい顔で話し始めた。僕と父さんは大人しく出してもらったお茶とお菓子を楽しんで待っていた。正直なところ、ものすごく美味しい。こんなに美味しいものを食べ逃していたってことだよねー? なんか悔しい。
「我々は爵位を捨てて、この国に来ました。息子が王になったのに、ティボルトを支えることを諦めたのです。ティボルトの妻、現王妃殿下のご実家のアーチボルト侯爵家に華を持たせるためです。もう陞爵したので公爵でしたね」
「なるほどねー。権力のバランスって難しいのね」
「ティボルトは喜んでローゼリンデ様の助けになることでしょう。しかしながら、今回の件にティボルトを絡ませると、ローゼリンデ様のご負担になるのではないかと懸念がございます」
「まーたハルトくんはすーぐそうやって難しく考える。なるようにしかならないんだから。『今』のことだけ考えよーよ。派生して出てくるローゼの問題はローゼが考えるから」
「姉さんに迷惑かけちゃうの?」
不安になった僕は母さんの服を引っ張った。
「ローゼが放置して逃げた問題だから、ヴォルくんは気にしなくていいの。時が解決することもあるし、結果的には収まるとこに収まるから大丈夫」
母さんは全てを見通すような眼差しで笑った。
「そう言われても、姉さんが嫌な思いをするのはちょっと……」
「んー。そういうのじゃないから」
「それならいいけど」
「まずすべきなのはヴォルくんのツガイちゃんの保護ね。彼女をハルトくんに呼び出してほしいんだけど、何とかできそう?」
「そうですねぇ。パトリシアの方が適材かと思います。女性同士の方が疑われにくいですし」
ブルクハルト様は帯同した女性に視線を送った。パトリシア様は年相応で美しい。国母がこんな所にいていいのかは疑問だけど、笑顔が優しいおばさま。孫がいるなんて信じられない。ま、孫って言っても王子と王女だけどね。はは。
「お茶会にお招きしてもなかなかいいお返事がもらえないと聞いています」
さすが元公爵夫人。現役を退いた上に他国なのに情報収集をしっかりしていて凄い。
「ツガイちゃんを連れて行きたくなるようなお茶会かぁ。パトリシアちゃん、ツガイちゃんのお名前教えてくれる?」
「はい。カリーナ・エビングハウス伯爵ですわ」
「あ、紙とペンもらえる? えっと、かりーな、えびんぐ、はうす」
母さんは僕には読めない文字で紙に彼女の名前を書いた。その名前っぽい文字を円で囲う。
「オッケー、読めたー。えっと、ヘルミーナって人のお茶会なら断れないみたい。誰なのか分かんないけど、パトリシアちゃんはこのヘルミーナって人にご縁がある?」
「ヘルミーナ、と言いますと、ゴスリヒ公爵家ですわね。エビングハウスと領境が隣接していますから、その関係かしら」
「ううん。金銭トラブル。エビングハウスがゴスリヒに借りてる。ゴスリヒにちょうどいい男の子がいれば、円満だったんだけどね。ヴォルくん、ゴスリヒに養子に入ったら簡単かも」
「え」
「冗談だってばー。やば。ローゼに叱られちゃうから言わないで! お願い!」
「はいはい。そう思うなら言わなければいいのに」
「言わないでいるのは難しいんだってば。とりあえずゴスリヒ公爵に会いに行こっか。ハルトくん、仲介できる?」
「もちろんです! 我々は狩猟仲間ですから」
「さすがだねぇ〜」
「お褒めいただき光栄です!!!」
「では先触れを出しておきますので」
「しごできじゃーん」
「過分なお言葉をいただき恐縮です」
ブルクハルト様は大きな体を縮こませた。初めての場所であっても、知っている人がいれば転移できる、と母さんがゴネた。要は元デリンガー公爵たちにゴスリヒ公爵家に先に入ってもらい、そこへ颯爽と転移したいらしい。インパクトが大事なのよ! とかなりゴネたが、みんなで行った方が速いから、と諭され渋々一緒に行くことになった。常識の範囲の違いってやつだきっと。
居た堪れなくなった僕が元デリンガー公爵に謝罪すると、滅相もないとかえって慌てさせてしまった。母さんとのやり取りがこの上ない幸福ですと言っていた。かなり長いこと母さんのことを崇拝しているのだと聞いてとても複雑な気持ちになった。
ゴスリヒ公爵家の方々は端的に言って『いい人』だった。母さんが言うには、執事がシゴデキなんだそうだ。育ちの良い方々はそのままに、使用人が彼らの生活を守り続けてきたのだとか。確かに愛すべき方々。敬愛する気持ちがあると聞いて納得できる人の良さ。表面上は。
状況を読む時の眼差しの鋭さにビビった。豹変するんだもん。やはりただ朗らかなだけでは貴族は務まらないのだと思う。僕にこの生活ができるだろうか。僕の魔女が伯爵。そんな未来があるとは思ってもみなかった。貴族として生きるのか、自由人として生きるのか。そもそも彼女とどこかへ逃げるのか……。
「ヴォルくん、お茶会の日程が決まったよ」
母さんに言われて顔を上げると、僕を慈しむような目で見ている大人たちが心配そうな顔をしていた。
「ごめんない。自分のことなのにボーッとしちゃって」
思わず謝罪すると、皆泣き笑いのような顔をした。
ゴズリヒ公爵夫人が僕の手を取った。
「せっかくツガイが見つかったと言うのに、すぐに共に居られないなんて、不安になって当然よ。心がどんどん疲弊していくと聞いたわ。すれ違っただけとは言え、実際に会ったのでしょう? よく耐えていると思うわ。カリーナさんにも異変が出ててもおかしくないの。あなたたちは一刻も早く出会う方がいいのよ。私、引き裂かれたツガイを看病したことがあるのだけれど、他人がどんなにお世話をしても心が満たされないのよ。あなたを怖がらせたいわけではないんだけど、人は、例え魔女であっても、心を無視して生きていくことはできないのよ。一刻も早くお茶会を開催するわね」
ゴスリヒ公爵夫人が僕の手を握って励ましてくれた。どうも僕はすでにおかしくなり始めているらしい。全く自覚がなかったけど、周囲の人に言わせるとボーッとしていることが増えたそうだ。食事の量が減り始めるとどんどん衰弱していくから、とゴスリヒ公爵家でお世話になりながら規則正しい生活を管理されている。両親は共働きだし、使用人がいない家だから、とゴスリヒ公爵夫人のお言葉に甘えさせてもらった。
今日は邸内が少し騒がしい。例のお茶会の準備が始まったからだ。エビングハウス家には無事お茶会の招待状が届けられた。カリーナの義理の両親も、彼らの息子も招待されている。彼らの息子の将来を考えたら来ないという選択肢はないらしい。もし仮にカリーナを連れて来なかったら、その時は僕たちが直接カリーナを保護しに行く。
公爵家からの誘いを無碍にするなんて考えられないけれど、カリーナが動けない場合もあるのだと聞いた。心配で心が張り裂けそうだった。まだ一度も言葉を交わしてもいない彼女のことをなぜそんな風に愛おしく思うのか。理由は僕と彼女の魂の成り立にあるのだと母さんが言った。
魔女とそのツガイは元々一つの魂。一つを二つに割って作ったから、一つになりたくて壊れていくのだそうだ。僕は今はまだ正気を保っているらしいけど、離れたままでいるといずれボロボロになってしまう。そういう対価があるから魔女は魔女として存在できるし、耐性の高い女性しか魔女になれないのだと聞いて胸が痛い。
僕の魔女が、そんな苦しみを対価に魔女になったのに他人から搾取されているのだとしたら、救う以外に道はない。もし彼女が僕との生活を望まなかったとしても、僕はその過酷な日々を生き抜いてみせる。そんな決意が胸に去来した。できれば二人で幸せに暮らしたい。でも最優先は彼女に幸せになってもらうこと。僕は拳を握りしめた。
お茶会の会場に、彼女は来なかった。ゴスリヒ公爵夫人は残念そうな顔を一瞬だけ僕に見せて、すぐさま貴婦人の仮面に戻った。僕はゴスリヒの暗部の方々とエビングハウス伯爵家へと向かった。道中の木々は紅葉していて僕たちの哀しみに寄り添おうとしてくれているかのようだった。彼女と、カリーナといつか一緒に見てみたい。
現実は無常だった。カリーナは地下牢に捕えられていた。しかも意識朦朧。痩せた手足、傷んだ髪の毛、閉じられた瞳。僕は彼女を抱え上げた。彼女を牢に括り付けていた鎖は、暗部の方々が壊す前に僕の魔力で砕け散った。新しい鎖を用意した暗部の方々がカリーナの代わりの人形を置いた。亡くなったと思わせて時間を稼ぐのだと言っていた。
僕はその人形を見ない方が良いと言われ、先に馬車に戻る。毛布でカリーナを包んで、僕の魔力を彼女に流す。頬に手を添えて、やったこともないのに少しずつ魔力を流していく。僕の存在を彼女に知らせ、僕で彼女を満たす。そんな気持ちからだった。処理を終えた暗部の指示役が馬車に戻ってきて、驚いたように僕の手を掴んだ。
「気持ちは分かりますが、今はそこまでです。お二人で生きていたいのですよね? でしたら、徐々に。ヴォルフラム様の魔力が回復してからでないとあなたが空っぽになってしまいます。今はここまでです」
彼の真剣な眼差しを見て、ああ、僕はいけないことをしたんだ、と思った。後から思えば、僕は周りが見えなくなっていた。自分のことも、将来のことも。
ゴスリヒ公爵家に戻った僕たちを出迎えた母さんは、僕の顔を見るなり悲壮な顔をした。『ごめんね』と聞こえた気がした。僕は魔法で眠らされたらしい。次に僕が目覚めた時には数ヶ月が過ぎていて、カリーナと並んでベッドに寝かされていた。あのままゴスリヒ公爵家でお世話になっていたんだそうだ。隣で寝ているカリーナは見違える程健康そうになっていた。僕はそっとベッドから抜け出した。
「ああ、おはよ。よかった。もう大丈夫だね」
母さんが続きの書斎で作業をしていた。
「おはよ。あれからどうなったか聞いていい? カリーナはどうなの? 一度くらい起きた?」
「それよりもまずは食事! ヴォルくんは母さんの魔力で生きてたから、体の方はリハビリが必要だよ。消化のいいものから食べないとね。東国に来てて良かったよ。この国にはお米があるからね。母さん特製のお粥、懐かしいでしょ?」
亜空間収納庫からお粥を取り出した母さんはテーブルに置いた。
「いつでも食べれるようにって作っておいたんだよ。ゆっくり食べな。はい、スプーン」
「いただきます」
子供の頃風邪を引いた時を思い出す。あの頃は母さんに食べさせてもらうのが嬉しかったっけ。
「おいし。ホントに長いこと寝てたんだな。染み渡るよ。母さん、ありがと」
母さんは何も言わずに僕の頭を撫でた。
「あの、すみません。ここはどこですか?」
遠慮がちな女性の声。彼女だ! 初めて声を聞いたのに懐かしくて嬉しくて、涙が込み上げてきた。
「カリーナ」
振り返って涙声で彼女の名前を呼ぶ。ハッとして両手で口元を隠した彼女の頬を涙がつたう。
「まさか!」
僕は立ち上がって彼女の近くへ歩いて行った。無意識に両手を広げる。彼女が僕の胸に飛び込んできてくれた。壊さないように優しく抱きしめる。
「あなたが、私のツガイ? よかった。生きてた」
「はじめまして。ヴォルフラムです。よろしく」
「カリーナです。こちらこそ」
僕は嬉しくて嬉しくて、泣いてしまった。声は我慢できたけど、体が揺れてしまって泣いていることは誤魔化せなかった。
「やっと、会えました」
カリーナはしっかりと僕を抱きしめてくれた。
彼女の養い親に、僕は病気なのだと聞かされていたそうだ。治療中で会えないが、天涯孤独の身の僕の治療費を捻出するためにと言われたカリーナは仕事をいくつもこなして養い親に渡していた。領地の経営は優秀な代官が領地にいて彼女は魔女の仕事に専念できたのだそう。念のため不正がないかなどは毎月確認していた、と遠慮がちに言う。
母さんはすっかりカリーナのことが気にいったようで、僕よりも何かと距離が近い。流石に娼館での仕事は断った、と聞いた母さんがカチコミとやらに行くと息巻いた時は姉さんを呼んで止めてもらった。その時は意味は分からなかったけど、本能的に止めた自分を褒めてあげたい。
ついでに姉さんとの対面も果たし、魔女同士気が合ったようで、二人で遊びに行くようになってしまった。夜は僕のところへ帰ってきてくれるので今のところは寛大な心で見送ることができている。
カリーナの養い親は当然逮捕された。違法魔道具を使ってツガイの出会いを妨害したことが重要視されて、殺人未遂で裁かれることになった。他国ではここまで厳しい判断にはならないのだと姉さんから聞いた。あの時のカリーナは魔道具のせいで僕が分からなかったものの、本能的には理解していたからどんどん窶れてしまったのだと聞いた。許すまじ。あの弟はうちで引き取って養育することになった。しっかりと教育し直すと母さんが息巻いていた。無事であれ。
ちなみに姉さんは例の王様に会ってきたらしい。彼は姉さんのツガイではなかったんだけど、その息子さん、第二王子がツガイだったそうで、なんと王子をお持ち帰りしてきた。こちらの国には祖父母もいることだし、とあっさり送り出されたんだと聞いた僕は眩暈がして倒れた。まだ本調子じゃなかったのもあったかも。
それから瞬く間に僕たち家族が快適に暮らせる家も用意されてしまった。両国に跨るように用意された広大な土地に数軒の家が並ぶ広大な居住区が作られた。どちらの国も魔女の恩恵が得られるようにとの国際的な配慮なんだとか。
両親の家、僕ら夫婦の家、姉さん夫婦の家、元デリンガー公爵夫妻の家、使用人たちの家。保育園や学校、病院、図書館、次々に建設されていく。そのうち、新し物好きの他の魔女も住みはじめた。うん。街だね。街の外には商店街ができて新しく魔女の店も何軒かできた。
木漏れ日の中、僕とカリーナは手を繋いで紅葉が舞い散る公園を散歩している。僕が彼女に微笑んだら、嬉しそうに笑い返してくれた。ああ、幸せだ。
完




