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33. エピローグ(あるいはネクストプロローグ)

 『それで、結局断罪教会には逃げられたわけですか』


 水晶端末の向こうから聞こえてくる嫌味に、キスタは不満げに半眼を浮かべた。組んでいた足を組み直し、苛立ち混じりに返した。


 「一応、征使徒を一人ぶっ殺したんだから、成果がないわけじゃないだろ」


 征使徒を倒した瞬間をキスタは見ていない。それどころかその場にいたハルヒサやシトラスも見ていない。


 征使徒の消滅を証明したのは状況をすべて見ていた紙の鳥のカーバンクル、アイハトだ。そのアイハトの見たものをキスタや他の人間に伝えたのは何を隠そう伝話の主だ。


 なのに嫌味言いやがってよぉ、とキスタは恨み言を言う。伝話の相手、放浪電算士も悪いと思ったのか、短く失礼しました、と謝意を示した。


 「——征使徒が死に、ついでに行動礼装も失われた。こちらが受けた被害に比べれば、向こうの方が大打撃じゃないか?」


 『そうですね。盤上から失われた駒だけを数えれば、そうかもしれません。ですが、あまりいい戦果とは言えないでしょう?』


 放浪電算士の言葉にキスタはそうだな、と短く返した。


 今回の騒動でさまざまなことがわかった。中でも厄介なのは「呪われた子供を大人に戻す手段」が存在するということだ。


 『キスタさん、この情報は決して軽々に開示していいものではないでしょう。少なくとも、幹部の内に止めるべきです』


 「幹部の内。それもどうかって感じかな。俺としては俺達二人以外に開示すべきじゃない、と思う」


 『その心は?』


 「ラスペンサーですら誘惑されるんだ。他の、年下の奴らが感化されないとも限らない。少なくとも『狩り』よりも後に生まれた奴らには言っちゃいけない」


 伝話の向こうの放浪電算士はしばらく沈黙した後、返答した。答えは、肯定だ。重苦しい熟慮の末の肯定だ。


 『——この先、有力な魔法使いは教会に狙われる可能性があります。年若い魔法使いにとって、これはそれほど重要な甘い蜜だ』


 「そうだろうとも。俺だって一瞬飲まれかけた。けど、こうも考えられるだろう?断罪教会を潰せばその手段が手に入るってさ」


 それを聞いた放浪電算士はため息をついた。頭を抱えたと言ってもよかった。


 『断罪教会は神出鬼没、その根拠地すらわからないのに、よくそんなことを言えますね』

 「これからは違う。俺達はこれから全面戦争をするんだからさ」


 さっきのそれより一層大きなため息を放浪電算士はついた。そして観念したかのようにキスタに言った。


 『とりあえず、何かいい言い訳を考えておきます』

 「ああ、頼むぞ。あ、それと今日はもう伝話かけてくるなよ。今日はこれから忙しいんだ」


 『何するんですか?』

 「わかってるでしょ。宴だよ、宴」


 そう言ってキスタは相手の返答も聞かず、水晶端末を閉じた。役目を終えた水晶端末は乱暴にポイっと机の上に投げ捨てられた。


 その直後、家の玄関の扉を開く音が聞こえた。そして、大きな声がキスタを呼んだ。


 「おーい、キスター。食材買ってきたぞー!!」


 キスタは茶色い紙袋に大量の食材を入れた二人の男女を出迎えた。片や、かつてキスタが袖を通した黒いジャケットを着た黒髪の少年、片や、金の長髪から先端が丸まった長耳を覗かせる可愛らしい少女。二人は出迎えたキスタに笑顔でただいまーと言った。


 「おかえりー。おにーさんもおねーさんもお疲れ様ー。あ、おねーさん、右手の調子はどう?」


 帰宅のあいさつもおざなりにキスタは金髪の少女、ストーリャに右手の調子を聞いた。つい数日前まで彼女の右手は化け物になっていたが、それをキスタは魔法で簡単に治してしまった。


 「ふふーん、この程度、魔法使いには造作もないのだよ」と得意げに語りながら、汗を流すキスタをその場にいた三人は苦笑いをして見守った。余裕などなく、ものすごく大変だったことがその状態からも察せられた。


 元に戻った右手をさすりながら、ストーリャは肩をすくめた。改めて礼を言おうと口を開く彼女だったが、キスタの意識はすでにハルヒサが抱える紙袋に向いていて、彼女が知らずに口にした感謝の言葉など耳に届いてはいなかった。


 「おにーさん、今日は何作るの?」

 「色々作ろうかなって考えてる」


 「へー。めっちゃ楽しみ」


 かくして少年の異世界における新たな日常が始まった。その日常は吉と出るか、凶と出るか。この時は世界の誰もわからなかった。


 これにて「Abridged World」第一章完結です!!


 本作はシティアドヴェンチャー系作品を目指しています。もっと踏み込んで群像劇になれば、個人的には色々と説明描写だったり、主人公達が頭を悩ませるパートでも読者の方々は頭を悩ませたりせずに済むので、第二章を書くことがあったら、そう書きたいな、と思っています。


 第一章では断罪教会側の視点が欠けていたため、説明描写が多めだったり、キャラクターを不自然に動かしたりしている部分があって、終盤の辻褄合わせがひどかったな、と思います。


 それにやたらめったら、用語が多くなったのも失敗だったかな、と感じています。陸都とか、架橋世界とかよくわからないですよね。


 最後になりますが、ここまで長い文章を最後までよんでくださりありがとうございます。第二章を書くことがあったら、もう少しコンパクトな文章にしていきます。


 改めてありがとうございます。

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