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20. 探索者達

 「本当にこの辺で見つかったんだろうなぁ?」

 「そのはずだよ?ハルヒサはオレの言うこと信じない系?」


 柄の悪い通りをハルヒサはシトラスと共に歩いていた。


 シトラスは前に20番街を訪れた時と同じ出たち、対してハルヒサはキスタから渡された服を着ていた。


 キスタから渡されたのは白いワイシャツ、黒い上下のスーツというサラリーマンみたいな服だった。「ネクタイもいる?」とキスタはネクタイでわっかをつくり、指先で回転させたが、ネクタイが好きではなかったハルヒサは丁重にお断りした。


 なぜハルヒサが着替えたかと言えば、それはこの世界に馴染むためだ。もといた地球の服はさすがに目立ちすぎるし、それはこの20番街では喧嘩を売られるくらいの効果しかない。


 特に今二人が歩いているのは20番街のモデルシティならぬ、モデルストリートととも言えるラヴ通りではなおさらだ。スリやひったくりは当たり前。路上にはストリートチルドレンがあふれ、通りの店舗も怪しさしか感じられない。


 通りを歩くハルヒサはどぎまぎしつつ、周りを警戒しながらシトラスに問いかける。


 「そういえば何がきっかけで例の子って見つかったんだ?」


 それを聞き、シトラスは歩みを止めて振り返った。そして微笑を口元に浮かべて答えた。


 「実は近くの通りで子供の集団自殺?集団死亡事故?みたいなのがあったんだよ。その現場の近くにいた監視機にジャジャジャジャーン」


 笑顔でシトラスはタブレットサイズの水晶端末をハルヒサに見せた。それを見た瞬間、ハルヒサは思わず顔をしかめた。


 映っていたのはボロボロのワンピースを着ている少女だ。その少女は髪色が灰色に近い金髪で、身体中から血を流していた。


 ハルヒサが顔をしかめたのは少女の足を目にしたからだ。打撲か、骨折か、膿んで紫がかり、膨らんだ歪な足は怪獣の足を彷彿とさせ、嫌でも目を引いた。


 見た目はだいぶ変わっている。しかし画面の向こうの短髪の少女はやや丸みを帯びた耳があり、写真の少女の面影を感じさせた。


 「一応顔認証もしてみた。で結果はほぼほぼ同一人物。そしてオレは頑張りました。足取りを辿ってみました」


 「それでここら辺で同じ顔のやつがいたって?」


 「その通り!!だからくまなく探そうぜ、ハルヒサ!!」


 ガッツポーズをするシトラスをハルヒサは冷ややかな目で見つめた。どうして機械で見つけられるのにこういう時は人力なんだろうか、と。


 「そこまでやったんならもうあとは警察に任せればいいんじゃないか?」


 警察なら人海戦術が使えると暗に言うハルヒサにシトラスは、それはちょっと、と言葉をつまらせた。


 「なんだよ」


 答えをはぐらかすシトラスにハルヒサは詰め寄った。


 「いやー。ほら、これって監視機をそのー、汚染(ハッキング)して手に入れたわけでしょ?それをお上に提出するのってどうなんかなーと思ってさ」


 気まずそうにシトラスはそう言った。要するに違法に入手した映像を元に警察に援助を求めるのはまずいんじゃないか、と。


 その答えを聞いてハルヒサは納得する反面、呆れてしまった。そんな理由で情報を出し渋っていたなんて、後先考えなさすぎている。


 「じゃぁひょっとして俺らは二人でこの子を探すために街の中歩き回るわけ?」


 「これでも範囲は絞ったんだ。これ以上を絞るのは無理だよ」


 頬を膨らませ、シトラスはハルヒサをしながら半眼視した。その姿をかわいいなぁと思いながらハルヒサはキスタからもらったスマホサイズの水晶端末を取り出した。


 機能は地球のそれとほぼ同じだ。しかし肝心の文字が読めない。直感的にマップのアイコンなどはわかるからハルヒサはため息混じりにマップを開いた。


 そして開いたマップをハルヒサはシトラスに向けた。意図を察したのか、シトラスはため息を吐き、ハルヒサの水晶端末を受け取り、検索欄を開くと「マウト市ラヴ通り」と入力した。すると地図に表示された一部の区画が青く表示された。


 「青く表示されているがラヴ通り。これから念入りに調べていくよ」

 「うわ、結構広いな」


 「まぁ数日かければなんとかなるでしょ。一応、現在進行形でこの辺の監視機を操作して探すからさ」


 そう言ってシトラスはタブレットをふりふりしながら、ウィンクした。可愛さ満点のその表情が少しだけ頼り甲斐があるようにハルヒサには感じた。


 それにしても、とハルヒサはタブレットに映るストーリャと写真のストーリャを見比べた。


 面影があるとは言ったが、本当にちょっとの面影しか二人の少女からは感じられなかった。片や上流階級、片や底辺階級。煌びやかな世界で優雅に高笑いしていそうな少女が、たかだか二週間でこんなにみすぼらしくなるなんて、ちょっと信じられなかった。


 顔認証では同一人物とわかっているから、同一人物なのだろうけど。


 「それじゃぁまずはそうだな。この小さな小路あたりから」


 「——否定です。それは推奨しません」


 「え?うわぁ!!」


 不意に背後から聞こえてきた声にハルヒサは驚き、シトラスも瞠目した。


 見ればそこには銀髪の少女が立っていた。


 髪の長さはショート。耳にピアスを付けた顔立ちの整った少女だ。肩口にフリルが付いた白い長袖のシャツを着ていて、その下にはベージュ色の短パンを履いていた。


 治安の悪い20番街区にあって、その小綺麗な姿はどこか異質で、得体の知れない雰囲気を漂わせた。端的に言えば場違いだった。


 少女の背丈は160にほど近い。顔立ちが幼くなければ成人女性と見間違えていたかもしれない。


 突然の登場に驚く二人をよそに少女はズボンのポケットから一冊の手帳を取り出した。それはハルヒサにも見覚えがあるものだった。


 「わたしはノクターン・エスティメイトと言います。マウト市警の捜査員をしております」


 見せられたそれは大体二週間前にハルヒサを連行した二人の市警が見せた警察手帳だった。それと同じものを目の前の銀髪の少女もハルヒサらに見せた。


 とっさにシトラスはタブレットを隠した。警察の前で堂々と違法行為をしていたなんて知られて緊張しない犯罪者はいなかった。


 しかしノクターンと名乗った少女はそれを気にする様子はなく、平然と話を進め始めた。


 「あなたのことは上司から聞いております。セナさん、ですね?」

 「え?ああ、そうだけど」


 「感謝です。このめぐり合わせに深く感謝します。さて、早速ですがセナさんと、そちらのお嬢さんのお話を失礼ながら、聞かせていただきました」


 ノクターンの言葉にシトラスは表情をこわばらせ、おもむろにタッチペンを取り出した。早まるな、とハルヒサは目で訴える。


 シトラスの持つタッチペンは電撃を流す。一種のスタンガンのようなもので浴びれば気絶するかもしれない。


 あまつさえそれを警察に向ければどうなるか。考えたくもない、とハルヒサはシトラスと少女の間に割って入った。すると少女は手帳をしまい、ため息を吐いた。


 「心外です。わたしはそこまで狭量ではありません。今はストーリャ・クラッシュを探すこと、それが至上命題ですから」


 「へー。警察なのに柔軟なんだね、おねーさん」


 ハルヒサの影に隠れながらシトラスが毒付く。しかしノクターンは気にする様子はなく、ハルヒサに視線を向けた。


 「話を戻しましょう。わたしはストーリャ・クラッシュの居場所に心当たりがあります。いえ、正確にはあなた方の会話を聞いていて、心当たりができたという感じですが」


 抑揚のない声でノクターンは語る。どういうことだ、と聞くハルヒサにノクターンは応える代わりに反対側の通りを指差した。


 車道を行き交う車の隙間から見えたのはやはり反対側の通りを歩く人々だ。そしてその足元で物乞いをするボロをまとった子供達だ。


 「え、こども?」


 「肯定です。彼らはいわゆる浮浪児です。マウト市のいたるところで彼らを見ることができます。そして浮浪児は往々にして縄張りを持ち、集団で集まっているものです」


 冷淡にノクターンは言う。それが日常、当たり前と語られ、ハルヒサは唇をわずかに曲げた。


 「わたしは彼ら浮浪児が寝泊まりする場所に心当たりがあります。それを手がかりにして探してはいかがでしょうか?」


 ノクターンの提案にハルヒサは考え込むそぶりを見せ、数秒後にわかった、と快諾した。


 当てもなく探すより、警察同伴の方がいいだろう、という打算だ。


 「感謝です。この巡り合わせに感謝です」


 そう言ってノクターンはおもむろに両手を持ち上げようとした。しかしすぐ、何かに気付いたのか、その手を下げ、代わりにズボンのポケットから自身の水晶端末を取り出した。


 「こちらに市警の持つ情報があります。全部で八箇所。一番近い場所はこの道をまっすぐ行き、右折した先です」


 「市警ってそういうのも把握してるんだな」


 「肯定です。少年犯罪の温床にもなりますから」


 ふぅん、と空返事をしながらハルヒサは通りの端に視線を向けた。そこではひったくりをした子供が大人に折檻されていた。助けないのか、とノクターンに問うと彼女は涼しげな顔でこう返した。


 「肯定です。業務外ですから」


 冷たく言い放つ彼女にハルヒサはむっとする。警察なのに、どこか犯罪に大して他人事のようだ。


 表情をこわばらせるハルヒサの袖をシトラスが引いた。


 「あのさ、あのさ。警察って言ったって別に犯罪全部を取り締まるわけじゃないんだ。それにあれはまぁ子供の方の自業自得だし」


 「そうだけどさ。ちょっと冷たくないか?」


 「そういうもんなんだよ。ハルヒサが今までいたところ(もといた世界)がどうかは知らないけど、こんだけ大きい街で路上の喧嘩騒ぎを取り締まるほど警察も暇じゃないのさ」


 軽く言うシトラスの言葉にハルヒサは嫌な気分を覚えた。他人事と言えばそれまでで、自分が同じような目に遭うとは考えていない野次馬根性に一抹の嫌悪感を感じた。


 それって自分が同じ目に遭ったとき、同じこと言えるのかって。


 「日常だよ、日常。誰だって雨が降ることに疑問を覚えないし、猫がネズミをくわえてても嫌悪するだけでしょ?あれもそういうのと同じだよ。敢えて助けようなんてしてもなんの実りもないんだ。だからさ」


 シトラスはハルヒサの手首をつかみ、タッチペンを彼の腹に刺した。


 「動こうとしないでね?キスタから聞いてるよ?お兄さんはすごい正義感の持ち主だって」


 実際、ハルヒサは動こうとしていた。考えなしに子供を痛めつける大人を殴ろうとした。


 「疑問です。何をしているんですか?」


 動こうとするハルヒサを止めるシトラス。その二人を見るノクターンの眼差しはひどく冷えていた。


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