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18. 監視機

 「あーあ。なんでオレがハルヒサのお守りをしなくちゃなんないんだか」


 シッター通りを離れ、ガタゴトと揺れる地下鉄の車内でシトラスはぼやいた。


 ぼやくシトラスをハルヒサは見つめた。別に彼女に対して負い目を抱いているわけではない。ただその格好がこれまでの彼女と比べて、おしゃれだったから少し面食らっていた。


 シトラスが着ているのはオーバーサイズのパーカーだ。彼女のサイズよりも一回りか二回りはある灰色のパーカーだ。それはおなかのあたりにポケットがあって、胸の辺りにハルヒサの読めない文字で絵柄とロゴが入っていた。


 下は赤いチェックのミニスカートで、裾口に黒い装飾品が付けられていた。加えて黒タイツに厚底靴という現代的な服装にハルヒサはここが異世界であることを一瞬、忘れそうになった。おまけに彼女は大きめのバッグを両腕に抱えていた。


 元の素材がいいからか、シトラスがおしゃれな格好をしていると、一層際立って見える。そのせいか、彼女の繰り言もあまり耳には入ってこなかった。


 「ねぇ、聞いてる?オレ、怒ってるの、わかる?」

 「え?ああ、うん。聞いてる聞いてる。大変だったんだな」


 聞いてねーじゃん、とシトラスは口を尖らせた。ハルヒサも答えをミスったな、と自覚していた。急いで話題を変えようと、別の話題を振った。


 「それでこの地下鉄はどこに向かってるんだ?」


 キスタから送り出されたハルヒサはシトラスに連れられるがまま、地下鉄に乗車した。その時は地下鉄の存在に驚いていて、ろくにシトラスの話を聞いていなかった。


 だからだろう。シトラスは頬を膨らませ、ハルヒサの脛を踵で蹴った。


 「いって」

 「これから向かうのは20番街ネセト通り。そこの監視機を操作して、街全体の監視機に侵入する」


 脛を押さえるハルヒサをよそにシトラスは淡々と目的地とその目的について話した。それを聞いてハルヒサはシトラスを半眼視した。


 「監視機に侵入ってそれって、ハッキングか?」


 「はっき?何を言っているのかわからないけど、監視機を違法に操作するっていう意味なら、うんそうだよ?」


 まじかよ、とハルヒサは呆れた。だが思い返してみれば初めて会った時、シトラスはアスクライド・ファミリアの事務所前の監視カメラをハッキングしていた。あれと同じことをすることができるのは自明で、妙な説得力があった。


 「けど、そんなの市警がもうやってるんじゃないか?」


 服のポケットからストーリャ・クラッシュの写真を取り出し、ハルヒサは首をひねった。


 ハルヒサが聞いたストーリャ・クラッシュの情報は大別して二つだ。壊滅したファミリアの事務所から彼女だけが忽然と姿を消したこと、そして一週間近く経った今も、その所在はつかめていないということだ。


 アスクライド・ファミリアの事務所は20番街ネセト通りにある。その周囲を警察が探したが、成果は出ていないのが現状だ。それなのにどうして民間の自分達が見つけられるとシトラスが考えるのか、不思議でならなかった。


 「あー。そっか。そういやハルヒサお兄ちゃんは知らないのか、街区ひとつがどれくらい大きいとか」


 おもむろにシトラスはバッグの中からタブレットサイズの水晶端末を取り出し、そのスイッチを入れた。写しだされたのは航空写真だ。映し出された写真にハルヒサは見覚えがあった。


 「えっと事務所の前?」


 「そ。で、これを縮小していきまーす。ぐぐぐっとね」


 画面をつまみ、シトラスはどんどん航空写真を縮小していく。あっという間に事務所の姿はなくなり、その周りの建物がまばらに写っていった。普通の航空写真ならもう海なり見えてもおかしくないのに、なおも都市は続いていった。


 どこまで続くんだとハルヒサ驚いていると、不意にシトラスが縮小する手を止めた。見ると、写真には赤線が入り、それはバームクーヘン一斤の形を形成していた。


 「これが大体街区一つの大きさだよ。人手がいくらあっても足りないって思うでしょ?」


 「どんくらいの大きさなんだこれ?」


 ポケットからスマホを取り出し、ハルヒサはぽちぽちとてきとうに計算してみた。計算と言っても特殊な計算式を使ったわけではない。ただの乗算、和算だ。


 事務所の底面積を500平方メートルと仮定し云々。通り一つの面積が大体これくらい云々というどんぶり勘定的な計算だ。


 「一街区、大体20万平方キロメートルくらい、か?」

 「きろ、めー。それがハルヒサの世界での単位なわけ?」


 自分で出した数だが、その巨大さにハルヒサはめまいを覚えた。日本の面積の大体66パーセントがひとつの街と言われ、混乱しないわけもない。


 それが20以上とかどんだけ広いんだよ、と突っ込みたくなった。


 しかしそうとなればシトラスの言葉にも納得がいく。日本の66パーセントを人力で捜査するのは確かに難しい。


 「ふふん。だからオレの出番ってわけ。この天才アーキテクターのオレ様にまかせなさい!!」


 胸を張るシトラスをハルヒサは冷ややかな目で見つめた。シトラスは自分のお守りと言ったが、実は自分がシトラスのお守りをすることになるんじゃ、と。


 地下鉄を降り、シトラスに連れられるがまま、ハルヒサはとある建物の近くに立った。知らない建物だ。というか、ネセト通りの建物すべてが見慣れない意匠で、奇怪な雰囲気を感じさせていた。


 支柱に絡みつく蛇、それと同じ意匠がどこの建物にも見られ、厳かな雰囲気を漂わせるシッター通りと比べると毒々しさを感じさせる。


 心なしか、表通りに面した建物もいかがわしさと怪しさのオンパレードだ。


 怪しげな露天、やたらアンダーグラウンドな雰囲気を漂わせるドラッグストア、派手なアドバルーンを揚げる品のないビル。通り全体から溢れ出すこの違法な雰囲気は否応なしにハルヒサの警戒心を刺激した。


 一方、シトラスはけろりとした様子で例の建物の正面にある何もない壁をさすっていた。通りすがりの人間が奇異の目でシトラスを見るが、気にするそぶりは見せない。


 「何やってんだ?」


 「んー?監視機を探してんの」


 「監視カメラだから固定されてんじゃないのか?」


 「いや違う違う。そんなんじゃすぐ壊されちゃうでしょ?」


 せせら笑いながらシトラスはバッグから大きめの虫取り網を取り出した。どうやって入ってたんだ、と突っ込みたくなったが、ここは異世界だ。色々とあるんだろう、と無理やり自分を納得させた。


 「おりゃぁ!!」


 しばらく首を左右に向かって回した後、唐突にシトラスは壁に向かって虫取り網を振り下ろした。網の中には何もない。何をしてるんだ、とハルヒサが呆れていると、不意に網の中からカタカタという音ともにその網がモコモコと一部が隆起した。


 ぎょっとしていると、シトラスがハルヒサにこれ持ってって、と虫取り網を押し付けた。受け取った虫取り網の中で何かが暴れているのは明白だった。


 「ちょ、これ力つよ!!」


 虫取り網の中で何かが暴れる中、シトラスはポケットからタッチペンを取り出し、それを網の穴から中へと差し込んだ。


 「『バリ』」


 直後、ペン先から青白い閃光が放たれ、中で暴れていたものに直撃した。電気の一撃を受け、暴れていたものはその動きを停止した。


 「うん、もう虫取り網取ってもいいよ」


 言われるがままハルヒサは虫取り網を持ち上げた。直後、色が落ちたかのように、それまで何もなかった空間から黒色の虫みたいなものが現れた。


 大きさは500mlペットボトルくらいだ。八本足で、とにかく黒い。カメラのようなレンズが頭部にくっついていて、昆虫の羽のような折りたたみ式のパーツが背中にくっついていた。


 「なにこれ?ゴキブリ?」


 「あははは、そんなんじゃないよ。これが監視機」


 ひょいっと監視機を拾い上げたシトラスはそれの足と羽をむしっていった。なにやってんの、とハルヒサが聞くと、逃げられないようにしてんだ、と笑顔でシトラスは答えた。


 こわい、と素直に思った。


 「さーてと、それじゃぁ色々みせてもらいましょーか」


 ノリノリでシトラスは手持ちのタブレットに監視機を接続した。


 場所は人気のない小さな公園。遊具が壊れ、子供も寄り付かない寂れた場所だ。その寂れた場所にアンテナを立て、シトラスは鼻歌混じりに捕獲した監視機になんらかの捜査を行なっていた。


 気になって何やってんの、と聞いてみるとシトラスは特異顔でこう答えた。


 「霊子菌(れいしきん)を監視機の情報交信網に流してるの。そうだねー。まる1日もすれば20番街のすべての監視機に霊子菌が感染するんじゃないかな」


 「情報交信網ってあれか?無人回送車の」


 「そーそー。仮装人格のやりとりね。それと同じと思っていいよ。要は監視機同士が情報をやりとりするときに用いる、通信網を汚染しちゃおうって話だね」


 元いた世界風に言い直せば、同じネットワークでつながっているコンピューターをウイルスで汚染してしまおうという話だ。恐ろしいことを考えるものだ、ハルヒサは関心した。


 だがある疑問を覚えた。


 「それってわざわざ監視機を捕まえないとダメなのか?シトラスって外部から監視カメラハッキングしてただろ?」


 「え?あー。えっとね。あれはちょっとちがうんだ。あの監視機の映像はアーキテクターの仕事として仕掛けてた裏口(バックドア)を使っただけ。監視機そのものに霊子菌を流すにはこうやってその街区のやつを直接汚染(ハッキング)するしかないんだ」


 「なんていうか、色々不便なんだな」


 「不便さ、そりゃ。でなきゃこんな真っ昼間から虫取りなんていうガキっぽいことしないよ」


 半眼になりながらシトラスはタブレットを操作し続ける。その作業が終わったのはそれから大体30分後くらいだった。


・陸都に関する基本設定(1)


 マウト市をはじめとした陸都は面積約600万平方キロメートル、高度8,000メートルの地点に存在している大陸級の大都市です。赤道に四つ、南北の極点に一つずつの計六つの都市があります。人口は大体11億人程度で、マウト市は陸都の中では人口が少ない方です。

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