11. アーキテクター
ふぅ、とゴミ袋をゴミ置き場に置き、ハルヒサは溜まっていた息を吐き出した。ぼしゃんと降ろしたゴミ袋は全部で8袋あり、それらは例外なく底が濡れていて、下ろすと溜まっていた水が跳ねてハルヒサの足元にとんだ。
ゴミ捨て場は玄関前の階段を降りて行き、出入り口を左に曲がってすぐのところにある細道にあり、大きなゴミ箱がいくつも置かれている。分別とかを考えずにゴミ箱の中に放り込んだことを少しだけうしろめたく思いながら、ハルヒサはようやくキッチン周りとリビングの机の掃除が終わったことに安堵し、腰に両手を回した。
大きく海老反りになり、背中を後ろへ向かって曲げると、自然と青い空が目に入った。深い青がにじんだ雲ひとつない空だ。冬場の寒空を思わせるそれを見ながら、不意にハルヒサは故郷のことを思い起こし、そういえば、と心の中で吐いた。
異世界転生か、異世界転移かはわからないが、とにかくこの世界に来る前は春だったけど、こっちは冬っぽいな、と。
別に元の世界と異世界とで四季がリンクしている必要とかはないが、まるっきり環境が違うといかんせん、気になってしまう。ただでさえわけのわからない世界なのだから、余計に情報を欲してしまうのはきっと脳みそがまだ混乱し続けているのだろう。
「掃除でもして気ぃ、紛らわそう」
そう決心し、細道から出るとおや、とハルヒサに話しかけてくる人物がいた。古めかしい出立の老婆だ。
「先生のとこの子じゃないか。なにしてんだい、ゴミ出しかい?」
「まぁ、そんな感じ、ですーね!」
「ああ、そりゃいいことだ。なんせ、あの先生ときたらゴミ出しはしない。ご飯は作らない。掃除もしなけりゃ、洗濯もしない。おかげで何度異臭騒ぎがあったか、わからんよ」
「それは、なんというか。色々と迷惑をかけたようで」
身につまされる感覚になり、ハルヒサは申し訳なさから、老婆に謝罪した。それを老婆は別にいいよ、と片手を左右に振った。
「これからはあんたがちゃんと掃除とか洗濯とかしてくれるんだろ?期待してるよ!」
そう言って老婆はハルヒサの胸のあたりを左手でつき、その場から去っていった。よし、と気を引き締めハルヒサは再び階段を上り、三階のリビングへと舞い戻った。
どうにかしてフロアの残り掃除を終えると、次は個々の部屋の掃除の時間だ。埃とかが溜まってるんだろうな、と思いマスク代わりの布を口元に巻き、ハルヒサはリビングの左側に見える三つの扉を睨んだ。そのうち左側にある扉はキスタの部屋で、なんだか怖かったので見なかったことにした。
「おりゃぁああ!!!!」
だから彼が真っ先に突入したのは真ん中の部屋だった。
扉を開けると、まず溜まっていた埃が宙に舞い、マスクをしていたにも関わらず、ゴホゴホと彼は咳き込んだ。涙目になり、中を見ると、無数の大小の木箱が山のように積まれていた。
「物置部屋か?」
木箱の中を見てみると緩衝材がパンパンに詰め込まれていて、その中に不格好な木像が入っていた。別の箱を開けてみると、古い時代の拳銃っぽいものも入っていた。
よくわかんないものだらけ、というのが第一印象で、物置部屋というのなら、今すぐには掃除しなくていいようにも思えた。少なくとも、この部屋の中にあるもののどれが必要で、どれが不必要かを断じることがハルヒサにはできなかったし、できるようになりたいとも思わなかった。
勝手に捨ててしまってもいいが、そうするとあとが怖い。元の世界では夫のプラモデルを捨てた妻、なんていうのがバラエティで紹介されていたし、ハルヒサ自身もライトノベルの山を母親に捨てられそうになった過去がある。そういった過去から、手を出すのは憚られた。
とりあえず後回しにしよう、と木箱の蓋を閉め、彼は部屋の出口へと向かった。その時、不意にガタゴトと木箱が揺れる音が聞こえ、ギョッとして彼は振り返った。
直後、黒色の塊がポーンと木箱の隙間から飛び出て、ハルヒサの顔面にそれは直撃した。不思議と痛みはなくしかし突然の出来事にハルヒサは驚いて倒れ込んだ。
なんだよ、と自分の顔面にくっついたそれをハルヒサが力任せに剥ぎ取ると、それはどこかで見たことのある拳大のサイズの黒い塊だった。剥ぎ取られると同時にそれはピョンと瞳をひらき、ハルヒサを見つめ、笑顔を浮かべた。
直後、それはブワッと体を青く燃やした。驚いてハルヒサは思わず、その黒い塊を窓ガラスめがけてぶん投げた。それは窓を割るようなことはなく、窓に叩きつけられてもすぐに体を起こし、ピンピンしていた。
「カーバンクル……?」
事務所に来た時に似たような黒い塊を見た。しかしあれは青ではなく、赤い炎を纏っていたんじゃなかったか、とどうでもいいことにハルヒサは脳みそのリソースを使った。
彼がそんなどうでもいいことを考えている間に、木箱の中や隙間からは続々とカーバンクルは現れた。彼らが纏う炎の色は様々で、青や赤はもちろん、黄色、緑、紫色、桃色と取り止めがない。
それらは全員、ハルヒサを見つめ、彼の近くに跳ね寄ってきた。驚く彼をよそにカーバンクル達はなお群がり、それが怖くなって、彼は踵を返して逃げ出した。
「うぁあああ!!!」
悲鳴をあげて、リビングの玄関口から見て右手側にある二つの扉のうち、左手側にある扉をつかみ、ハルヒサはそのドアノブをガチャガチャと回す。しかしドアは開かなかった。
ぎょっとしてハルヒサはドアノブを見るが、別に鍵穴があるようには見えない。ただ読めない文字で何かが書いてある看板がぶら下がっているだけだ。つまり、中から鍵がかかっているということなのだが、開けてくれ、と叫ぶ彼の脳裏には部屋の中にいる人物が誰かとかそんなことはどうでもよかった。
バンバン、ガチャガチャ、ドンドン。ドアを叩くこと二十秒と少し、カーバンクルの群れがもうそこまで迫っていた頃、ようやくドアが開き、ハルヒサは中から出てきた部屋の主を押し除け、部屋の中へ囲むと同時にドアを閉め、ガチャンと鍵を締めた。
「はぁはぁあああああああ。なんなんだよ、ほんと」
「——いや、それはこっちの言葉だって。そっちこそなんなんだよ」
不意に後ろから聞こえてきた声にハルヒサは振り向き、そこに立っていた人物に目を向けた。
そこにはワイシャツだけを着た陶磁器のような肌の白い人物が立っていた。長い銀髪、猫のような金眼、華奢な体躯の麗しい外観の少女はハルヒサを睥睨する。
「え、だれ?」
「それはこっちのせりふなんだけど。オレの部屋に勝手に入ってきてさー。いい夢見てたのに台無しだっつーの」
少女はその外見の麗しさとは程遠いぞんざいな口調で問い返す。明らかに気分を害しているとわかる怒気をはらんだ声に気圧されて、ハルヒサはもとからそのつもりではあったが、素直に自己紹介をした。
「俺は瀬奈 春庇。昨日からここに居候している」
「そう。オレはシトラス・プロセッサー。ハルヒサって珍しい苗字じゃん?」
「いや、瀬奈が苗字で、春庇が名前だよ」
「ふぅん。じゃぁハルヒサが名前か。変な並びだね」
初対面の人間にいうようなことじゃないだろ、とシトラスのこぼした言葉に反論したくなったが、それを抑え、ハルヒサは視線を彼女の部屋に向けた。
少女の部屋はそれなりの広さで、その片隅には無数の伝照板が置かれた机があり、その近くにはグォングォンと音を鳴らす特徴的な直方体の機械がいくつも置かれていた。
部屋の中にあるものはそれ以外ならば、大きなクローゼットとベッドがある。ベッドにも伝照板が置かれ、その手前にはキーボードのようなものが置かれていた。
だが何よりも目を引いたのはその部屋の至る場所に置かれた無数の瓶だ。大人数で宴会でも催したかのようなくらい、大量の瓶が置かれ、そのほとんどがコルクで栓がされていて、しかしいくつかは栓がされておらず、こころなしか、不穏な匂いが漂っていた。
「えーっと。シトラスはここで何をしてるわけ?」
デイトレーダーです、と言われれば納得してしまうような部屋だ。あと単純に瓶の中の液体については聞きたくなかった。
「オレがやってるのは建築だよ、建築。ここで図面を引いてんの」
「けん、ちく」
予想外の答えにハルヒサは目を丸くした。
「そ、建築」
そう言ってシトラスは机の上の伝照板見せた。ハルヒサが伝照板を覗き込むと、青白い画面には建物の設計図らしきものが写っていた。キーボードの隣には液晶タブレットに似た板があり、それにも同じような設計図が写っていた。
もっとよく見ようとハルヒサが身を乗り出すと、それをシトラスは遮り、伝照板と液晶タブレットの画面を消してしまった。残念そうに唇を尖らせるハルヒサに、シトラスははぁ、とため息をつき、すぐに出てけ、と言ってきた。
「いや無理無理。外にカーバンクルがいっぱいいてさー」
「はぁ?何言ってんの?」
シトラスは眉を顰めながら伝照板を操作する。少しして映し出されたのは鮮明な扉の前の映像だ。相変わらずドアの外には様々な色の炎を身に纏ったカーバンクルがドアに体当たりを繰り返していた。しかしその衝撃音はドアに耳を当てても聞こえない。どんだけ力がないんだよ、と呆れるハルヒサに、いやとシトラスは首を横に振った。
「オレの部屋の扉は衝撃を吸収する術式で覆われてんの。だから普通のカーバンクルがいくら体当たりしても衝撃も音も来ないよ」
へーさすが異世界、と感心するハルヒサを他所にシトラスはキーボードを操作して、何かの装置を起動した。すると伝承版に写っていたカーバンクルは現れた吸気口のような装置に吸い込まれていった。
瞬く間に外にいたカーバンクルは除去され、ドアの前には綺麗にしたばかりのまっさらな木床があらわになった。おお、と感嘆の声をもらすハルヒサが褒めようとシトラスの方へ向くと彼女は得意顔で鼻高々に胸を張っていた。胸を張っても、絶壁であることは変わらないが。
「いやー。万が一のために吸気システムに細工しといてよかったよー。あいつらほんとどこにでも出るからさー」
「いやほんと、なんなのあれ?」
「んー?キミさー、それって冗談?」
奇異の目を向けるシトラス。ハルヒサはやべ、と咄嗟に口を手で塞ぐがすでに遅く、シトラスは手元にあったペンのペン先を向けていた。
立ち上がり、扉へ向かってハルヒサは走り出す。そして扉のドアノブへ手をかけようとした直後、シトラスの声が飛んだ。
「『バリ』」
直後、ドアノブから電流が走り、たまらずハルヒサはドアノブから手を離した。不思議に思っているとその首筋にシトラスはタッチペンを押し当てた。
色々話してもらうよ、と言外に言っているシトラスの独特な圧に気圧され、ハルヒサはべらべらと自分のことを明かした。キスタの同居人だから問題ないだろう、という打算も多分に含まれてはいたが。
すべてを話し終えると、シトラスは納得顔になり、考え込むそぶりを見せた。自分のゲーミングチェアに座り、キーボードを操作すると伝承版には何かの映像が写った。
映像に写っていたのは赤髪の少年、それと対峙する複数人の男性、そしてそんな両者を見つめるハルヒサだ。画質は荒いが、キスタが例の五人組を蹂躙している一場面だ。
「なるほど、これがキミがキスタに助けてもらった一場面か。ふーん、キスタがカーバンクルを使うなんて珍しいね」
何かを確認するようにシトラスは映像を何度も再生を繰り返す。そして何かを理解したのか、再びハルヒサに向き直り、微笑を浮かべた。
「えっと、キミ。キミは色々と難しい立場にいるみたいだね。そういえば、キスタって今どこ?」
「なんか朝早くに出てったけど?」
「なるほどねー。まぁキスタなら大丈夫か。それにしてもキミも難儀だねー」
なにが、と聞き返すハルヒサにシトラスはやんわりとした笑みを浮かべて答えた。
「いやーだってそうでしょ。《《あの》》アスクライド・ファミリアに喧嘩を売ったんだから」
どういうことだよ、とおうむ返しのごとく再び聞き返すハルヒサに、シトラスはだってさ、と前置きをして答えた。
曰く、アスクライド・ファミリアというのはマフィアである、と。
「このマウト市で最大の暴力団だよ。街の闇って言っても過言じゃないね。表向きは運輸会社だけど」
そんな連中の裏取引を目撃したから追われているのだ、と説明されると不意に両肩に寒気が走った。マフィアといえば捕まえた人間を拷問したり、陵辱したりで定番な連中だ。
今に思えば「バラす」というのもあながち、脅し文句ではなかったのかもしれないなんて過去を回想するハルヒサはぅう、とうめき、震える左右の二の腕を抱き寄せ、うずくまった。そんなハルヒサの肩に手を置き、大丈夫だよ、とシトラスは笑いかける。
笑いながらシトラスはカタカタとキーボードを操作し、伝承版にどこかの家の玄関前を映し出した。どこだよ、とハルヒサが聞くと、シトラスは笑顔のままアスクライド・ファミリアの事務所、と答えた。
「はぁー?なんでアスクライドのファミリアの事務所が監視カメラに映ってんだよ」
「監視、かめ、ら?何言ってるかわかんないけど、まぁほらオレってアーキテクターだから」
「そのアーキテクターってなんなんだ?建築家とか?」
「ああ、そっか。キミは異世界人だからアーキテクターがなにかとか知らないのか」
これは失念していた、とシトラスは頭をかきながら、改まってハルヒサに向き直り、ニヒっと白い歯を覗かせた。
「アーキテクターってのはただの建築家じゃない。オレみたいなかわいくて、モテモテな人間しかなることのできない超特別な役職だよ」
「はぁ。超特別な役職ねー」
「キミって冗談とか通じないつまんない人?まぁいいけど。アーキテクターは建物を建築するにあたって、魔術を使うんだ。建物の接合面とかを魔術で補うことで、より一層堅牢で独創的な建物を造れる、まさにこの陸都がほこる最高の設計士にして建築家にして建屋職人にして魔術師!それがオレさ!」
「あーつまり、かいつまんで言うと?」
「ノリ悪いな、お兄ちゃん。要するに魔術が使える建築家を総称してアーキテクターって呼んでるの。いちおう、資格がいる仕事なんだぜ?」
軽いノリで自慢するシトラスにハルヒサは冷ややかな視線を向けた。とにかくアーキテクターというのが特定の職業を指すことはわかったが、そうしている間にまた一つ、疑問が沸いてきた。
魔術ってなんだ?
キスタは魔法使いと自分のことを呼んだ。ハルヒサを追っていたアスクライド・ファミリアの構成員はカーバンクルを使うキスタを見て、彼を魔法使いと呼んだ。じゃぁ、カーバンクルを使う人間が魔法使いなのか、と納得しかけていたハルヒサは、しかし魔術という言葉に首をひねった。
「魔術と魔法って何か違うのか?」
「そりゃ、もちろん。魔術と魔法は」
その違いをシトラスが言いかけた時、不意にビービーという警報音が鳴り、シトラスの伝承版に玄関付近の映像が映し出された。
なにごとだ、と二人は伝承版に顔を近づけ、玄関前に現れた青い服の男達を視界にいれた。それを見た時、ハルヒサはきょとんとし、シトラスはうげっと嫌そうに顔をゆがませた。
「うーわ、市警だ」
「市警ってアレか?例の都市警察ってやつ」
「そーだよー。てかなんであいつら、ここにいるんだ?」
結界が機能してるだろ、とシトラスはつぶやいた。しかしすぐハルヒサに向き直ると、彼に市警と対応するように言った。
「なんで、俺が」
「オレ、あの人たちと話したくないの」
なるほど、とハルヒサは納得した。シトラスの行動を見れば、アングラなことに手を染めていてもおかしくないと思ったからだ。
言うが早いかシトラスはキーボードを操作し、伝照板に映っていた映像を消去し始めた。カーバンクルはどうすんだよ、とハルヒサが尋ねると、もう消えてるよ、とシトラスは即答する。彼が見せた伝照板の映像では確かに外のカーバンクルがいなくなっていた。
マウスのようなものも用いて何かの操作を行うその後ろ姿を見送り、ハルヒサが部屋の外へ出ると、バンバンという音が玄関の方から聞こえてきた。覗き窓から外を見ると、青い制服を人間が二人いた。
「はいはい。すぐ開けます」
そう言ってハルヒサが扉を開けると、その青い制服に身を包んだ市警が二人立っていた。一人は大柄な男性、もう一人は短髪の女性で、男の方は人間ではなくデーマンであることが左右のこめかみにある染みから見てとれる。デーマンは形態変化をするというのは実際に見てよく知っている。
ハルヒサが扉を開いてすぐに市警の二人は室内に上がり込み、それに続いて複数の青い制服を着た市警の人間が段ボールを持って現れた。驚くハルヒサを他所に彼らはデーマンの男の指示に従い、手当たり次第に室内のものを段ボールで包み出した。
「ちょ、ちょっと。なんなんだよ、あんたら!!」
「こちら、家宅捜査の差し押さえ令状です。こちらのお宅のあらゆる物品が事件の証拠品扱いとなりますので、ご留意を」
そう言って女の市警はよくわからない字で書かれた一枚の書類をハルヒサの前に突き出した。それを見てもわけがわからず、ハルヒサは女に食ってかかった。
「いや、事件って。一体なんの話だよ!それを一から説明してくれ」
「捜査に支障がありますのでお教えすることはできません」
頑なに固辞する女の市警にハルヒサが苛立ちを募らせる中、バンという音を立ててシトラスが自室から飛び出してきた。彼の手元にはラップトップサイズの伝照板が握られており、ハルヒサの前にそれを突き出した。
「ねぇねぇ、これ見て!」
「ちょ、シトラス!?今、それどころじゃ、ぁあ?」
突き出された伝照板を剥がそうとしたハルヒサは、しかしそれに映っていた映像を見て目を丸くした。時刻は大分前のようだが、そこには市警と、その市警によって拘束されたキスタが映っていた。
「へー?なんでー?」
「おい、お前ら。なんだ、この映像は!」
うろたえる二人の間に割って入ってきたデーマンの市警は目の色を変え、鋭い眼差しを二人に向けてきた。その視線はシトラスへ、次いでハルヒサを突き刺した。
「失礼ですが、おたくら。市民証は持っていますよね?」
「市民、証?」
なんだそれは、とハルヒサが狼狽えると、持ってないんですか、とデーマンの市警はハルヒサに詰め寄った。そしてハルヒサに市民証がないことを確認すると、彼に代わって捜査員達を監督していた女の市警を呼んだ。呼ばれた彼女はおもむろに手錠を取り出した。
「えぇ!?」
「なら、都市滞在許可証は?」
首をひねるハルヒサを見ると、デーマンの市警をため息を吐き、直後に女の市警が有無を言わさずに手錠をハルヒサの両腕にかけた。ガチャン、と。
「えぇ!?」
「午前11時54分。容疑者宅にて一名、不法居住の容疑で逮捕。ですね、先輩」
「よし、署まで同行してもらうぞ」
ハルヒサの驚きを他所に女の市警は彼を連れて階段を降り始める。異世界生活二日目、いきなりの逮捕にハルヒサはただただ混乱するしかなかった。そしてなにより、この状況を作り出したキスタにただただ怒りを覚えた。
「きぃいいいいいいすたたああああああああ!!!!!!!!おまえ、ざっけんなよぉおおおお!!!!!」
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