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第四話 反撃の狼煙


「け、剣聖クライヴ!? この男がですか!?」


 剣聖クライヴ、今から十年ほど前、単身で一国を滅ぼした大陸一の剣士だ。国を滅ぼした後、行方をくらませていたはずだが――――こんなところに居たのかと驚くザイン。


「……やはり知ってたんだな。坊主、お前一体何者だ?」

「俺は――――剣聖クライヴ最後の弟子だ」


 回帰前、『剣聖』クライヴとはごく短い期間ではあったが師弟関係にあった。出会った時にはすでに余命半年、残されたわずかな時間ではあったが、カインは彼から多くのことを学んだのだ。


「弟子だと? ますます訳が分からない奴だな。だが――――引き受けた以上仕事はきっちりやらせてもらうよ」

「まだ仕事内容を説明してないが?」

「まあ……大抵のことは何とかなるから心配すんな」

「ええ、それは心配していない」


 カインが回帰前出会ったクライヴは、病の影響でもはやまともに剣を振れる状態ではなかった。その的確な指導や経験は特筆すべきものではあったのだが、剣聖としての剣技や奥義を直接見ることは出来なかったのだ。


 回帰前、力が足りないばかりに大切なものを守れなかった。もう二度と繰り返さない、そのためには力が必要だ。敵はカスパーだけではない、今度こそ剣聖の持つ技と力を身に着け、もっと強くなってみせるとカインは強く――――強く心の中で誓っていた。




「それでカインさま、我々は一体どこへ向かっているんですか?」


 剣聖クライヴを雇い入れた後、カインは屋敷へ戻らず馬車を走らせている。


 しばらく黙って様子を見守っていたザインだが、さすがに目的地もわからないのでは部下も困惑するし警護にも支障が出かねない。


「すまない、説明している暇が無かったんだ。これから私たちが向かうのは文字通りの死地だ。父上たちを殺そうと賊に扮した連中が手ぐすねを引いて待ち構えている場所へ行く。覚悟のない者はこの場から離脱しても責は問わない」 

「そういうことでしたか……なるほど、承知いたしました。来るとわかっているならどうということもありません。そのような輩、返り討ちにしてやりましょう」


 さすが隊長以下名門ソルフェリス家の精鋭揃い、ザインをはじめ誰一人臆する者はいない。


「なるべく情報を引き出したい、出来れば何人か生かして捕らえたいがあくまで命最優先だ、決して無理はするな」

「「「「かしこまりました!!!」」」」


 主君の命を狙う卑劣な敵との戦いを前に騎士たちの士気は天を衝くほどに高い。カインは満足そうに頷く。


「坊主、その敵とやらの数と強さはわかっているのか?」


 どうやら早速厄介ごとに巻き込まれそうだとクライヴは苦笑いする。


「いいえ、ですが……父上は強い、それに護衛騎士までいる馬車を襲う計画なわけですから、それなりの人数と強さを持った集団の可能性が高いです。だから先生を雇ったのです。先生なら誰が何人来ようが問題ないですよね?」

「はっ、違いない。高い金を貰っているんだ、その分はちゃんと働かせてもらうから安心しろ。ところで――――その殊勝な口調と先生呼び、一体どういう風の吹きまわしだ?」

「もう一つの依頼ですよ、これから剣を教わるんですから敬意を表しているんです」


 別人かと思うほどに態度が変わったカインを見て、コイツは本当に十歳なのかと訝しむクライヴ。


「ったく……この俺がガキに教える日が来るとは……まあいい、言っておくが俺の指導は厳しいぞ? 貴族だから子どもだからって手加減は期待するな。覚悟はできているんだろうな?」

「もちろんです。あ……それともう一つ」

「なんだ? まだ何かあるのか?」


 カインはニヤリと微笑む。


「この仕事が終わったら、すぐに医者にかかってください」

「はあっ!? なんで俺が……」

「今なら間に合います、困るんですよ……死なれたら」


 


『……来たぞ、ソルフェリス家の紋章だ』

『……馬と御者を狙え、馬車が止まったら一気に襲い掛かれ。皆殺しだ』


 貴族の邸宅が並ぶ王都の一等地は王国内でもっとも安全だとされるエリアで、日中であれば女子どもでも護衛無しに歩くことが出来ることが出来るほどだ。ましてやベイル伯爵は王国有数の実力者、同伴している護衛も最低限であるとの確認が取れている。多勢に無勢、おまけに奥方という足手まといを守りながらでは力は発揮できないだろう。


 黒づくめの男たちは――――一斉に馬車へ襲い掛かるのであった。 




「ククク、ようやく邪魔者を排除することが出来る……これで親国王派は間違いなく弱体化するだろう」

「しかしカスパー殿、相手はあの王国の剣ベイル殿ですぞ、万一仕留めそこなったら……」


 ヴァレンティス家では反国王派の貴族たちが早くも祝杯を挙げていた。


「心配無用だ、何のためにわざわざ帝国から腕利きの暗殺集団を呼んだと思っている? それに――――あの化け物みたいに強いヤツ相手にまともに戦うなど愚か者がすることだ。奴の使用人に潜り込ませた私の部下が攻撃と同時に伯爵夫人を人質に取ることになっているからな!!」


 カスパーは若干不安そうな貴族たちに向かって余裕の笑みを見せる。


「ですが……その潜り込ませた間者が都合よく同伴するとは限らないのでは?」

「こちらが何年かけて準備をしたと思っている? ソルフェリス家の人員ローテーションは完全に把握しているんだ、こっちはベイルを殺すためだけにわざわざパーティーの日程を合わせることまでした。万が一にもしくじることなどあり得ない、あってはならないのだよ」


 カスパーはこの日のために何年も前から念入りに準備し、すでに莫大な費用をかけている。暗殺集団にはこの後、他の邪魔になりそうな貴族を何人か消してもらうことになっている。全ては――――壮大な計画の始まりに過ぎない。


 カスパーはこれから始まる壮大な計画を思い浮かべて暗い笑みを浮かべる。


「当主様、至急お知らせしたいことが――――」

「なんだ?」

「はい、先程ソルフェリス家から連絡がありまして――――急用が入ったため今夜のパーティーには参加できないと……」


 執事の報告に上機嫌だったカスパーの表情がみるみるうちに憤怒の色に染まる。 


「そうか、わかった」


 内心腸が煮えくり返るほど怒り狂っているカスパーだったが、他の仲間の手前なんとか冷静さを取り繕う。確率は低いが想定していたことでもあるし、失敗と言うほどのことでもない。多少計画の変更が必要にはなるが大勢には影響はない。


「仕方ない、先にルーセント子爵を消すか……」


 カスパーはすぐに頭を切り替えて次善の策について考えを巡らせる。ルーセント子爵家は親国王派であり優秀な魔導士を輩出している魔導の名門、王国内で無視できない勢力を誇る魔塔への影響力も大きい。


「ブラッド、連中へ連絡しろターゲットを変更するとな」

「かしこまりました。すぐに手配いたします」


 カスパーは知らない、彼の雇った暗殺集団は――――この時すでにカインたちによって壊滅していた。

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