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連載版 回帰の剣 ~滅びの王国を救うために俺はもう一度やり直す~  作者: ひだまりのねこ


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第二十一話 同盟締結


「なんと!! 海賊の本拠地まで落としたのか!!」


 イスタール王は王宮に届いた報告に喜ぶ。


「はい、それだけではありません、海賊が保有していた船百隻以上と帝国型軍船を数隻、建設中の要塞、各種インフラに加えて莫大な軍需物資と食糧、奪われた金銀などもすべて丸ごと手に入りました。大変な戦果です!!」


「そうなると我が国も覚悟を決めねばならないだろうな……帝国の顔色を窺うのではなく、もう一歩踏み込む覚悟が」 


 島を自国領として要塞化するのであればもはや帝国との衝突は避けられない。だが、こちらの意図とは関係なく帝国は着実に侵略の手を伸ばしていたのだ。このまま受け身でいれば近い将来帝国の版図に組み込まれることになる。だが、王国から提案されたワラキアを含めた三か国同盟が実現すれば――――帝国に対抗することが出来るかもしれない。


 イスタール王の姿勢が同盟へ前向きとなったのは、カインとイヴァリスの存在が大きい。強さだけではない、その人間性に触れ、この者となら共に戦える――――そう思わせたのだ。


 これまで決断に踏み切れなかったのは、イスタールが無能だったからではない、むしろその逆だ。ヴァラステリア王国の状況が不透明で信用しきれない状況でそんな決断をしていれば、今のサルヴァリアの状況は悲惨なものになっていた可能性が高い。しかし、懸念だった国王の体調も回復し、王女イヴァリスとカインという次世代を担う天才剣士の力をこの目で確かめた今、同盟に踏み切る障害はほぼ無くなったと言って良い。


「宰相、カインたちが戻ったら同盟締結のためにヴァラステリア王国へ向かう。秘密裏に準備を進めてくれ」


 イスタールは久しぶりに全身の血が滾るのを感じていた。戦士としての己が告げるのだ、この国の未来のために立ち上がれと。


「はっ、かしこまりました」


 歴史が動く瞬間というのは、その時には誰もそのことに気付けないものだ。大陸の片隅で――――静かに動き出した運命の歯車。


 その音を聞くことが出来る者がいたとすれば、それは神か――――あるいは未来を知るものだけであっただろう。




「カイン殿、イヴァリス殿、この度の戦い実に見事であった!! 現時点で公には出来ぬが、イヴァリス殿には――――我が国特産のフルーツ一年分とラファエル島を褒賞として贈ろう、また将来カイン殿とイヴァリス殿の戦士像を『栄光の回廊』に建立することを約束する」


「ありがたく頂戴しますイスタール王」


 半分サルヴァリアの血を受け継ぐとはいえ、他国の人間に領土の一部を贈るというのは公に出来ないということを割り引いたとしても相当な褒美だ。それにサルヴァリア産のフルーツは王国では高級品なのでこちらもちょっとした財産になる。また金銭的なものではないが、『栄光の回廊』に戦士像が建立されるというのはサルヴァリアにおいて最高の栄誉、いかにイスタール王が今回の成果を評価しているのかわかろうというもの。


「そして――――カイン殿、貴殿の働きはまさに一騎当千、サルヴァリアの英雄として相応しい働きであった。よって――――アストラを与える!!」


「ありがたく頂戴しますイスタール王」


 反射的に返事をしてしまったが、アストラってなんだろう? 土地の名前だろうか? カインは一瞬悩む。王女と同じ名前なのだからおそらく良いものなのだろうなどと考えつつ隣のイヴァリスに視線を送る。


「良かったなカイン、アストラを手に入れるとは。これでお前をサルヴァリアへ連れて来た目的が達成できた」


 どうやらイヴァリスがカインを連れて来た目的は、アドリアン王子の件だけではなかったらしい。ともあれ目的が達成されたというのであれば、それはめでたいことである。


「ありがとうイヴァリス。ところでアストラってなんだ?」


「私だよ!!」


 後ろからカインに抱きついてきたのは第一王女のアストラだった。


「……え?」

「なんだその表情は? 嬉しくないのか?」


 アストラはイマイチ反応が薄いカインの様子に頬を膨らませる。


「あ、いや、褒賞で王女を与えるとかあり得るのかと思って」


 普通に考えたらあり得ない。イスタール王が娘を道具扱いする人物ではないと知っているから尚更だ。


「サルヴァリアの男にとって最高の栄誉は戦果をあげて美女を娶ること、サルヴァリアの女性にとって最高の幸せは強い男の妻となることだ。だが、若くして王国一強い私は国内で幸せになることは出来なかったんだ。私がカインの妻になりたい――――そう父上に望んだのだ。その……迷惑だったか?」


挿絵(By みてみん)


 アストラは文句なしに魅力的だ。サルヴァリア海のような碧い瞳は肉食獣のように鋭く美しい。海風になびく金色の髪と日焼けした小麦色の肌、健康的で肉感的な肢体に目を奪われない男などまずいないだろう。そしてなにより――――従姉妹だけあってイヴァリスとよく似ている。


「そ、そうか……それなら良いんだ」


 だが、カインがアストラから目を逸らしたのは、その容姿に目を奪われたから――――彼女が眩しすぎたわけでもない――――

 

 あまりにも目のやり何処に困ったからである。


「あ、アストラ、その格好はさすがに――――」


 普段の凛々しい正装ではなく、今はサルヴァリアらしい透け透けの衣装を着ているアストラ。肝心なところは布地で隠れてはいるものの、王国基準では下着姿よりも露出が多い。


「んん? なんだカイン、恥ずかしがる必要など無いのだぞ? 私はお前のものなのだから好きなだけ眺めるが良い」


 さすが従姉妹同士だけあってイヴァリスとアストラは本当によく似ている。容姿や性格、剣の才能まで――――俺とリリアンよりもよほど双子らしいとカインは思う。


 だが、そんなことよりも――――イヴァリス一人だけでも振り回されているのにアストラまで加わってしまったらどうなってしまうだろう……カインはひとり頭を抱えるのであった。




 その年の冬、ヴァラステリア王国とサルヴァリア王国は秘密裏に対帝国軍事同盟を締結した。


 これによってサルヴァリアだけでなくヴァラステリア王国もまた覚悟を決めることとなった。


 

「俺たちがワラキアへ?」

「ああ、対帝国軍事同盟はワラキアあってのものだ。だが、王国の大臣クラスが動けば帝国にその動きを察知されかねない。その点私たちは未成年で学生に過ぎないわけだ。さらに都合の良いことに私とアストラという二か国の王代がいる。今回の同盟締結任務にはうってつけというわけだ」


 現在、帝国がわりと大人しいのはワラキアとの戦争が有利に展開しているからだ。まずはワラキアを攻略することに注力しているからこそ王国もサルヴァリアも時間が稼げている。だが、このまま挽回不可能なほどにワラキアが押されてしまえば――――仮に同盟が成ったとしても効果は半減、厳しい戦いを強いられることになる。


 つまり――――ワラキアと正式に同盟を結び共同作戦を実行するならば時間はもうあまり残されていないと考えるべきなのだ。戦闘が小休止に入っている冬の間にワラキアとの同盟を成立させるには、たしかに今をおいてないだろう。カインたちが適任だということにも異論は無い。


 カインとしては留守中のことが気になるが、結局帝国を何とかしなければすべて終わるのだ。優先順位を間違えるわけにはいかない。そして、こちらが先手を打つことで、未来の悲劇を防ぐことが出来るかもしれないという期待もある。

 

「わかった、行こうワラキアへ!!」

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