第十六話 魔法の才能
「剣聖殿、もう一本頼む!!」
イヴァリスの剣術は騎士としての王国式正剣術とサルヴァリア式重剣術が高レベルで融合した実戦に特化したスタイルだ。見た目は十四歳の少女だが、中身は王国騎士団長であり実戦豊富な王国の剣である。
精鋭揃いのソルフェリス騎士団ですら歯が立たず、ついには剣聖クライヴが直接相手をする羽目になっている。
「ったく、カインといい王女さまといい、この国の子どもはどうなっているんだ!?」
カインとイヴァリスはその才能に関しては甲乙つけがたいものがある。それに加えて回帰前のアドバンテージまであるのだ。剣聖クライヴとて油断すれば不覚を取りかねないほど二人の実力は上がってきている。
「はあ……また負けてしまったか」
「当たり前だ、十四歳の女の子に負けたらさすがに立ち直れんぞ」
悔しそうにしているイヴァリスを見ながら、クライヴはなまった身体を鍛え直そうと密かに決意する。
イヴァリスはクライヴの指導を受けてまだ日が浅いのだが、性格が真っすぐで強さに対して良い意味で素直なため成長速度が異常なほど早い。カイン一人だけでもしんどいのに、イヴァリスの相手までするとなれば身体が持たない。
「よし、次は俺の番――――」
「カインはもう教えることは無いから次はエリオットだな」
「ええっ!? 僕ですか……わかりました」
日々鍛錬に励むカインやイヴァリスに影響されて最近はエリオットも訓練に加わるようになっている。いざという時リリアンを守れなくてどうすると奮起したのだ。ちなみにエリオットもカインたちとは比べられないが、なかなかの才能を持っているというのがクライヴ評である。
「はあ……俺だけ除け者か……」
カインはクライヴからもうこれ以上教えることはない、後は実戦で場数を踏むことだけだと言われてしまった。どうしようかと周囲を見渡せば、リリアンが手を振っている。
「カイン、私と一緒に魔法やろう?」
リリアンは現在ヴァレリアから魔法の指導を受けている。母サリアに似て、リリアンは魔法の才能が高いからだ。
「魔法か……たしかに使えたら戦術に幅が出そうだが……俺に使えるかな?」
カインは回帰前も含めて魔法の訓練を受けていない。中途半端に手を出して剣の腕が落ちてしまったら本末転倒だからだが、今のカインにその心配はない。
むしろ、たとえばカインがもし母サリアのように治癒魔法が使えたら――――戦闘に直接役に立たずとも戦場においてその恩恵は計り知れないわけで、より強くなりたい彼にとって挑戦しない手はなかった。
「うーん……双子のリリアンさまが魔法適正めちゃめちゃ高いからカインさまも全然可能性あると思いますけどね、とりあえずやってみます?」
「ああ、頼むよヴァレリア」
他にやることもない。カインは魔法の指導を受けることになった。
「本当は時間をかけて魔力を感じる訓練をするんですけど、私が直接魔力を流し込んだ方が早いんで。あ、たぶんめちゃめちゃ痛いと思いますけどカインさま鍛えてるから大丈夫ですよね!!」
カインも多少は魔法のことは知っているが、ヴァレリアのやり方は全身筋肉痛どころかズタズタに切り裂かれるような激痛で数日は身動きが取れなくなると聞いたことがある。本当に大丈夫なのかと不安に思いながらカインはヴァレリアに身を委ねる。
「問題ない、頼むよ」
「じゃあ行きますよ~、えいっ!!」
「ぐわあああ!?」
凄まじい痛みにカインは思わず声を上げる。説明するのは難しいのだが、鼻の穴に丸太を無理やり突っ込まれるような痛みだ。本来魔力をゆっくり体に馴染ませて少しずつ回路を作ってゆくべきところ、いきなり大量の魔力をぶち込まれたのだ。カインでなければ間違いなく気絶していただろう。
「な、なるほど……これが魔力か……」
だが――――カインは瞬時に魔力の特性を理解し、体内を循環させてみせた。一流の剣士というのは無意識に少量の魔力を使って身体強化しているとはいえ、大量の魔力――――しかも異質な他人の魔力をコントロールするのは本職の魔法士であっても難しいのだが。
「カインさま……すごいですね、この方法に耐えただけじゃなくて一回で魔力の感覚掴んじゃったんですか!? もうこれ変態的ですよ」
「そうなのか?」
「そうですよ、それに――――治癒魔法準備してましたけど必要なさそうですね」
天才であるヴァレリアですら想定していなかった状況に苦笑いする。そもそも普通に動けている時点でおかしい。
「じゃあ早速始めましょうか」
初心者向けということで、リリアンはニコニコしながら横で二人を見ている。
「魔法はイメージが重要になります。これは個人差というか得意不得意があります。私は氷とか水系の魔法が得意ですけど……カインさまは多分火……かなあ? なんか魔力がすでに赤いですし」
通常魔力そのものに属性は無い、あらゆるものに変換出来得るのが魔力の特性であり魔法の持つ可能性だ。カインのように魔力に色がついて見えるのはかなりレアであり、その者が持つ適性が極端に偏っている場合に起こる現象だ。
「魔力を特定の現象に変換するのはイメージさえ出来ればそう難しくはないのですよ、ウォーターボール!!」
ヴァレリアは手のひらの上にスイカ大の水球を創り出す。
「難しいのはどれだけ魔力制御の精度を上げられるかです。力任せにやっていると魔力なんてあっという間に枯渇しますし、派手なわりに威力がお粗末なんてことにもなりかねません」
ヴァレリアはウォーターボールを飛ばして近くの木に当てる。
「今のウォーターボールは限りなく魔力消費をゼロにしてますから、威力はバケツで水をぶっかけたのと大差ありません。ダメージは期待できませんが、ほぼ無限に発射出来るので、火事の消化や敵の気を逸らす、目くらましなどには使えます。そして――――ウォーターバレット!!」
次にヴァレリアが出したのは小指の先くらいの流線型の水の塊。
「これはさっきのウォーターボールと同じ魔力量しか使ってませんけど、魔力制御によって目一杯凝縮してます。小さいですけど威力は抜群、金属製の鎧や盾ごと貫くことだって出来ちゃいます」
ヴァレリアが放ったウォーターバレットは、目にもとまらぬ速度で近くの岩を貫通する。
「たとえば温度を下げれば氷になりますし、逆にお湯にすることも出来ます。蒸発させて霧のようにすることも出来ますし、攻撃だけでなく防御にも使うことが出来ます」
ヴァレリアは出した水を凍らせたと思ったらみるみるうちにお湯にして最後は蒸発させる。かと思えば盾や鎧のように身体を覆ってみせた。
「ちなみにこんなことも出来ますよ」
「おお!! 氷の剣……か!!」
「ただの剣じゃないです。自由自在に伸ばしたり縮めることも出来ますし、鞭のように使うことも出来ますからカインさまのような達人がもし使えたら凄いことになりますよね?」
カインは言葉を失っていた。魔法の有用性は知っていたつもりだったが、その認識が完全に打ち砕かれたのだ。
「ヴァレリア……ちなみに魔法士というのは皆ここまで凄いのか?」
剣士こそ最強だと思っていた。決して魔法士を軽んじていたわけではないのだが――――接近戦ならともかく、ヴァレリア相手に遠距離戦となれば相当苦戦することになるのが容易に想像出来てしまう。
「そんなわけないじゃないですか~。自分で言うのもなんですけど、私みたいな天才だから出来るんですよ」
それを聞いて安堵するカインだったが、敵にヴァレリアのような天才魔法士がいてもおかしくない。常に最悪の可能性を想定しておく必要がある。
「ヴァレリア、俺だけじゃなく、皆にも魔法と魔法士との戦い方を教えてくれないか?」
「うーん、カインさまが王都デートしてくれるなら良いですけど……」
「わかった、デートしよう」
「わーい、王都デート!!」
「ふふ、たまにはこういうのも悪くないな」
「ありがとうございます、ずっと研究所に籠っているから気分転換したかったんですよ」
「おかしい……なんでこんなことに?」
「どうしたんだヴァレリア? せっかくの王都デートなんだから楽しまないと損だぞ」
最初は二人きりで来るつもりだったのだが、王都デートと聞いてリリアンがめちゃくちゃ喜んでいたのでとても言い出せず、あれよあれよという間に全員で行く流れになってしまったヴァレリアであった。




