表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

殺人キャンセル界隈

作者: 華城渚

僕はどこにでもいる学生だった。

朝早く学校に向かい、授業を受け、帰宅して予習して寝る。

本当に何の変哲もないどこにでもいるような人間だ。


親からは将来のことは早めに考えたほうがいいとよく言われるが、正直よくわかっていない。

自分が将来何になっているか想像がつかない。 想像したくもない。

学生のままでずっと生活していたい。楽していたいってずっと思っていた。


そんな僕でも趣味くらいはある。 それはネットの海に潜ること。

ネットにはいろんな情報が泳いでる。 ネットを見れば今の情勢も手に取るようにわかるんだ。


あの日はいつものように家に帰宅した後、ネットを泳いでいたかな。

一つの投稿が目についたんだ。


それは「キャンセル界隈」という言葉。

例を挙げるなら風呂に入らないことを風呂キャンセルと言うらしい。

聞くだけでちょっと汚いって思ってしまうけど、多くの人が共感したり、反応して盛り上がっている。


こういう世界もあるんだなって思った。 ちょっと興味が湧いてきたんだ。

僕も何か広めてみたいって思うけど、何も思いつかない。

だって基本的にはキャンセルって何かをしないってことだから普通の人からすれば、よくない意味になることが多いって思うからね。


だからよく考えたんだ。 普段何にも興味を示さない僕が必死に考えた。


そうして思いついたんだ。 広めてもよい意味にしかならないもの。


「殺人キャンセル界隈」


文字通り殺人をキャンセルする、つまり殺人はやめようってことを広めるってことだ。

僕ながらいい案が思いついたって思ったね。


殺人がなくなれば世界は平和になる。

誰も争わずに手を取り合ってみんなが笑顔で暮らすことができるって。


でもそんな世界はありえないってわかってるし叶わないんだろうなってことも知ってる。

だって世界には殺人が蔓延してるから。

殺人がなければ救うことができないものもあるから。


必要な犠牲ってよく言うけど僕はそういうのも嫌いだった。

僕は殺人が大嫌いで、血を見るとかそういった描写を見るのも無理だった。


どうにかして殺人をこの世界から消す方法ってないのかなって考えた。

でも僕の権力じゃ何もできない。 だからまずは僕の地位を上げることにしたんだ。


まずは両親を洗脳した。

殺人がない世界を創るためにどんなことでも協力してくれるように改造したんだ。


ああ、安心して? 改造って言ってもロボットにしたとかそんなんじゃないんだ。

ただ僕に逆らわず、僕を崇拝するような思考回路にした。 ただそれだけ。


ネットにあった情報を元に洗脳してみたけど、意外と何とかなるもんだね。

これで自信をつけた僕は次に学校の友達を洗脳した。


友達を洗脳した後はその友達がほかの友達を洗脳する。

そうやってどんどん洗脳していったよ。

はたから見たらまるでパンデミックが起きてるようだろうね。


こうして僕は学校と学校の関係者すべての支配者となったわけだ。

ここから入学していく人も卒業して就職する人もいるだろう。

それによってどんどん洗脳される人が拡大していくことになる。


自動的に少しづつだけど人々を洗脳できるようになった後、僕はネットの海に飛び込んだんだ。

学校の様子を映し出し、「殺人はよくないことだ。」 「殺人は悪だ。」って広めたよ。

そしたらその投稿が多くの人に影響を与えることができた。


ネットの投稿は「殺人キャンセル界隈」の話題で持ちきりになった。

洗脳効果のある動画を少し混ぜたのがよかったかもね。 いわゆるサブリミナル効果ってやつだ。


ネットに広まったってことは、世界に広まったと同義だった。

僕のアカウントのメールboxには日々数々の言語で感謝のメッセージが届く。

「殺人なんていらないですね!」とか「戦争をやめます。」とかね。

大統領からメッセージが来ることもあったよ。


これで僕は今の地位、つまり世界中の支配者になったわけだ。

別に世界をまとめるつもりなんてこれっぽっちもなかったのにね。

ただ殺人がよくないってことを広めたかっただけなのにね。


でもこれで終わりじゃないんだ。 次にやるべきは情報を遮断する事。

僕の洗脳が効いているうちにありとあらゆる殺人に関するものは排除した。


ネットはもちろん外交問題とかもなくしテレビとかも放送禁止にした。

みんなに自給自足の生活をするように思考を入れ替えることにしたんだ。


それに言語も統一させた。

新しい言語を創り、普及し、不自由をなくすことにした。


ああ、これが僕の求めていた理想郷だったんだ。 そう確信したね。




でも排除しすぎたせいで、みんなからよく言われることがあるんだ。

この世界には娯楽がないって。


最初は娯楽なんていらないって思ったよ。

でも、みんなのストレスを軽減するためには必要だってわかったから一つだけ創ることにしたんだ。


「今から呼ばれる人は前に出てきなさい。1011番、4921番。」


「「はい。創造主様。」」


「あなたたちには今から死合をしていただきます。よろしいですね。」


「「はい。創造主様。」」


娯楽って言うのは人の本能を呼び覚ますものだと僕は思っている。

だから一番本能を呼び覚ますものって何だろうって考えたんだ。


それは死合。 試合じゃないよ? それじゃつまらないもん。

殺し合いが最もみんなを湧き立てることができるって気づいたんだ。



ねぇ......これっておかしなことだと思う?

僕は殺人が嫌いでそれを世界から無くしたのに、また殺人を生み出してるってこと。


だったら最初から僕が広めたことは無意味だったかもしれないね。

これを読んでる人がいたら気を付けてほしい。



人はいとも簡単に流される。

軽い気持ちで流した情報が、とんでもないことになるかもしれない。



僕と同じ間違いをしないようにするんだよ?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ