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  作者: Yonohitomi
一章
78/167

81.共に


霧が淀む中、蓮次と黒訝はじっと動かずにいた。


二人の視線は、縦へ、横へ。

上を見て、辺りを見回す。慎重に。


目の前にあるのは単なる岩壁なのか、それとも何か仕掛けがあるのか。

何かを見落としているのではないかと警戒する。


足元を確かめ、再び上空へと視線を向ける。

蓮次の眉間に皺が寄り、黒訝もまた静かに唇を引き結んでいた。


蓮次は先ほど、横がダメなら縦へと言った。

その様子を見ていた烈炎が、ニヤリと口の端を持ち上げる。


「そうだ蓮次、よく気付いたじゃねぇか。早く上がってこいよ」


彼は面白がるような声音で言うと、片手を腰に当てながらさらに続ける。


「グズグズしてると置いて帰るぜ?」


蓮次と黒訝は反応しない。階層が異なるから聞こえないのだ。

ただ慎重に足元を見つめる蓮次と黒訝。

黒訝の指先がわずかに動き、蓮次の爪先がゆっくりと岩をなぞる。二人とも、まだ迷っていた。


「上だ、上! 何やってんだ、早くしろよ」


烈炎の声が再び響く。今度は先ほどよりも少し真剣な響きを帯びていた。


その横で、耀は小さく目を伏せた。


烈炎の声が、やけに耳に障る。もともと喧しい男だが、今日の耀には少しばかり堪えた。

身体の内側に、どこか鈍い違和感がある。とはいえ、耀は表情には出さない。

ただ静かに立ち、二人を見つめる。だが――


「うるさい」


ぽつりと漏れた言葉。

烈炎がちらりと耀を見た。


「おぅ、悪ぃ」


軽く肩をすくめるように言いながら、その瞳が耀をじっと見つめた。

察しのいい烈炎は、すぐに耀の異変を感じ取った。


烈炎はさりげなく辺りを見回す。

座って休めそうな場所はないかと探すが、ここにはそんな都合のいいものはなかった。


耀はそんな烈炎の動きは気にせず、再び蓮次と黒訝に視線を戻す。

そして、静かに口を開いた。


「上に、とは言っても……二人には無理だろう、この場所では……」


言葉は淡々としているが、どこか沈んでいる。


「蓮次様もまだ不完全だ。どうやってここを……」


耀が続けようとした時。

黒訝がわずかに動いた。


その動きを察知し、烈炎が反応する。耀も思わず顔を上げた。

二人とも、黒訝を見つめる。


――何かが変わった。


黒訝の瞳の奥に、今までとは違う何かが宿っている。

決意か、覚悟か、それとも別の何か。

烈炎は口元を引き締め、耀も静かに見つめている。


黒訝の手が、蓮次の腕をぐいっと強く引いた。


――何かが起こる。


そう思った矢先、黒訝の背中からそれが生えた。


漆黒の大きな翼が、空気を切り裂くように広がる。まるで夜の闇を凝縮したかのような羽。

柔らかくも力強く揺れた。


烈炎が目を見開き、ぽかんとした顔になった。


「なんだあれ……」


一拍の沈黙。


そして、すぐに口の端を持ち上げ、ニヤリと笑う。


「どうした黒訝、鴉にでもなったか?」


面白がるような調子だが、その目は興味と驚きに満ちていた。

耀もまた、静かに息を呑む。


――知らなかった。


耀は朱炎の近くにいる身であり、朱炎の息子である黒訝の能力についても、ある程度は把握しているつもりだった。しかし、この黒い翼は見たことがない。


耀の表情に変化はないものの、その瞳には明らかな驚きが宿っていた。


黒訝自身は何も言わない。ただ、蓮次の腕をしっかりと掴んだまま、翼を広げたのだった。


風が舞う。


烈炎が、口笛を吹いた。面白がるようでいて、どこか感心したような表情を見せている。


「へぇ……そりゃまた派手なもんを隠してたな」


耀は無言で黒訝を見つめていた。彼の目が、一瞬だけわずかに細められた。


黒訝は静かに息を吐き、翼を一度強くはためかせた。


そして、蓮次と共に。

上へ、空へ、飛び立った。



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