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  作者: Yonohitomi
一章
69/177

76.凍りゆく心


蓮次の意識はもう、ほとんど霞んでいた。


熱い。痛い。苦しい。それだけしか考えられない。


黒訝に抱えられたとき、蓮次の肌が黒訝に触れてしまった。焼けつくような熱は黒訝の肌にも伝わったはずだった。

それでも黒訝は何も言わず、顔をしかめることなく、ただ前を向いて走っていた。


蓮次は、かろうじて残る意識の中で、自分の身体が黒訝に当たらないように気をつけた。

それが蓮次にできる唯一のことだった。


また、助けられている。


そう思うと同時に、違和感が生まれた。助けられているはずなのに。


もう無理かもしれない。


身体の感覚はほとんどなくなり、意識が遠のいていった。


情けない。


心が折れそうだった。

肌の内側で燃える炎。目を閉じても赤い炎に囚われている。


もう早く意識が途切れてほしい。


そう思った時、急に黒訝の足が止まるのを感じた。

蓮次はかすかに目を開けた。


――冷たい。


熱さで焼かれ続けた肺が、ひと息吸うだけで救われるようだった。炎に包まれる苦しみから解放される、そんな気がした。


だが、次の瞬間。


全身が宙に投げ出される。


唐突な衝撃とともに、蓮次の体は氷のような池へ叩き込まれた。


冷たさが一瞬で全身を貫き、呼吸が止まる。

熱さに慣れきった身体には、あまりにも急激な変化だった。思考が追いつかないまま、蓮次は池の底へと沈んでいく。


息ができない。


冷たすぎる水が喉を塞ぎ、反射的にもがいた。水面を目指し、力の入らない体を必死に動かす。


やっとの思いで顔を出し、咄嗟に空気を吸い込む。

そして、池の淵に向かって泳ぎ、腕を伸ばした。


上がらなければ、また沈んでしまう。


そのとき、視界に黒訝の足が映った。

次の瞬間、蓮次は強く引き上げられ、そのまま地面へと投げつけられた。

乱暴に投げ出された衝撃で、視界が揺れる。顔を上げた先に、黒訝の背中があった。


助けられた。けれど、こんなふうに放り出されるとは思わなかった。


蓮次はぐったりと横たわったまま、荒い息を整える。

燃えるような熱はすっかり消えていた。

焼け焦げるような痛みも苦しみも、すべて冷たい水が洗い流してくれたようだった。


なのに、心は静まらない。


助けられたことに安堵しながらも、胸の奥に小さな棘が残った。


黒訝の背中を見つめながら、息を整える。

荒々しさと乱暴さに、どこか朱炎と似たものを感じた。


これが、強いということだろうか?


これが、鬼というものだろうか?


(……もう……いいかな……)


ありがとうと伝えるには、あまりに疲れすぎていた。心も、身体も。


もう、限界。


蓮次はゆっくりと目を閉じる。




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