72.奥底の記憶
人間たちの叫び声が耳をつんざくように響いていた。
「早く殺せ!」
「首を斬れ!」
「駄目です!首を斬っても、斬ったところから繋がります!」
「ならば燃やせ! 燃やしても死にません!」
「次はどうしますか!!」
怒号が飛び交っていた。
焼けるような痛みが、幾度も蓮次を襲った。
人間たちは焦燥の声をあげ、次々と方法を試した。
やがて錫杖が突き立てられた。
いくつもの錫杖が体に突き立てられ、そこに雷が落とされた。
何度も、何度も。
身体が砕ける。粉々になる。それでも、再生する。
終わらない。
どれほど肉を刻まれても、どれほど骨が砕かれても、すべてが戻った。痛みが消えぬまま、繰り返された。
ただ、死ねない苦しみだけを刻まれ続けた。
それでも蓮次は――悪鬼に落ちることすらなかった。
どれほどの苦痛を受けても、死ねない。
蓮次の魂は、それを知っている。
奥底に封じられたはずの光景。
これはきっと“彼”の記憶。
――蓮次!! 蓮次!!
遠くで黒訝の声がする。
蓮次はハッと目を開けた。
視界に広がるのは、揺らめく赤黒い大地。
この場所は、朱炎が作ったという。
恐ろしく見えていた炎は、今は違う。
蓮次の目には、どこか、哀しげに映った。
鬼が安らかに死ぬための場所、だと黒訝は言った。
ここで燃える炎は、ただの殺戮の火ではない。
蓮次は地面を触ってみた。
これを、あたたかいと言うのだろうか――。
蓮次は、しばらく黙っていた。
「……黒訝」
低く呟き、大地を見つめる。
「……鬼のことを、教えてほしい」
小さな声だった。
黒訝は黙って蓮次を見る。
やがて彼はふっと視線を逸らし、「屋敷に戻るぞ」とだけ言って歩き出した。
蓮次も、その背を追った。
景色は変わらなかった。
足を進めても、焼け焦げた岩と滲み出る炎が広がるばかり。
風は熱く、匂いは常に焦げ臭い。
どこに向かえばいいのか――
五感を研ぎ澄まし、周囲の気配を探る。しかし、まともに捉えることができない。
蓮次はさらに神経を研ぎ澄ませた。
黒訝が遠ざかっていることには気づいていたが、それよりも周囲を探る事に集中した。
息を潜め、より慎重に。
その時。
地の底で、何かが動いた。
足元、深い裂け目の底。
うねる、何か。
地の奥底で蠢き、ゆっくりと迫り上がってくる。
目には見えない。
だが、感じる。
これは――“出てくる”。
蓮次の目が見開かれた。
黒訝が危ない。
「黒訝!!」
叫びながら、蓮次は瞬間移動を試みた。
だが――。
発動しない。
――ここでは、使えない。
蓮次はすぐさま判断した。即座に足を踏み出し、全速力で黒訝へと駆ける。
「黒訝!!避けろ!!!」
一瞬のことだった。
蓮次は黒訝を突き飛ばす。
その刹那――。
轟音とともに大地が弾ける。
裂け目が開き、地下から赤黒い炎が噴き上がった。
蓮次の身体は、完全に炎に包まれた。




