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  作者: Yonohitomi
一章
64/165

67.闇の焔に染まる


赤と紫が交錯し、沈黙が訪れた。

そして、静寂は破られる。


黒訝の拳が、空気を裂くように蓮次へ迫る。

蓮次は最小限の動きでそれを避けた。

風が頬をかすめ、地面が抉れる。


「俺はお前と戦う気はない!」


蓮次は叫んだ。しかし黒訝は応じない。

言葉はもう意味を成さなかった。ただ無言のまま、怒りを拳に込めて襲いかかる。


蓮次はただ避けるだけだった。しかし、黒訝の攻撃が激しさを増すにつれ、その動きに変化が現れる。


足を踏み込み、力を受け流す。

僅かに腕を動かし、攻撃を防ぐ。


最小限の防御は、徐々に応戦へと変わりつつあった。


森に、負の気配が広がる。それに呼応するように、さらなる負が集まり始めた。



この山には朱炎一族の鬼が棲み、一族を守るために多くの鬼が配置されている。


彼らは外敵――余所者の鬼の侵入を防ぐための戦士であり、内輪で争うことはない。

だが今、この森の奥で、一族の者同士が戦っている。


蓮次と黒訝。


黒訝の怒りが膨れ上がり、負の力となって周囲へと広がっている。

それはまるで炎が枯草を舐めるように。

やがて、その負の力に引き寄せられた者、異変を察知した者たちが次々と集まってきた。


烈炎も来ていた。


「おお、蓮次! いい動きすんじゃねぇか!」


彼は笑っていた。まるで楽しむように。

二人の戦いを見つめている。


耀もまた、この場に来ていた。

彼はただ静かに、冷静にその場を見守っている。


二人の戦いの速度は昨夜よりも遥かに速い。

拳が空を裂き、足が地を揺らす。力も増している。

耀はその変化を見逃さない。


耀が真剣な表情で二人を見つめる中、烈炎が問いかける。


「どうする?止めるか?」


しかし、耀は沈黙したままだった。

烈炎は肩を竦め、「まぁ、いいか。本当にまずけりゃ朱炎様が来んだろ」と呟いた。


しかし、状況はすでに「まずい」ものになりつつあった。

黒訝の怒気は瘴気のごとく広がっていた。


鬼たちの本能が刺激される。

負が伝染する。

低級の鬼が次々に互いへと牙を剥き、喧嘩が始まった。

それは単なる小競り合いではなかった。本能のまま、喉を食いちぎる勢いだ。


烈炎の目が鋭くなる。腰の武器に手をやる。


「悪鬼が出るぞ」


その言葉の直後、低級の群れの中で何かが蠢いた。

人の形を保てなくなった鬼が現れる。身体がねじれ、目が狂気に染まっていた。


「ちっ……!」


烈炎はすぐにその悪鬼へと駆けた。

刃が閃き、悪鬼の首が宙を舞う。しかし、一体斬ったところで事態は収まらない。別の場所で、また別の悪鬼が生まれていた。


耀も動く。


「低級を止めろ!」


中級の鬼たちがそれに応じる。しかし、低級を止めるはずの彼らの中にも、次第に狂気が広がり始める。


いつしか、負の伝染は、もう誰にも制御できないほどに膨らんでいた。


「……まずい」


耀は烈炎と共に悪鬼を斬りながら、なおも戦況を見極める。

しかし、黒訝と蓮次の戦いはさらに激しさを増していた。


黒訝の拳が、怒りと憎しみを帯びて蓮次を襲う。その瞳は、すでに正気のものではなかった。

悪鬼に落ちる寸前のような荒れた気配。


蓮次は、もはや避けるだけではなく、完全に応戦していた。黒訝の拳を受け流し、蹴りを弾き、時折その腕を弾き返す。


「そんなに怒ることないだろ!!」


蓮次が叫んだ。

しかし、黒訝はもう届いていない。彼はただ、殺すために殴る。壊すために蹴る。


あの赤い目は、もう、狂気の目だ。


中級の鬼たちの中でも、喧嘩を始めるものが出始めた。

烈炎や耀、上級の鬼たちが悪鬼を斬り捨てていくが追いつかない。

斬っても斬っても。

新たに生まれる悪鬼の数の方が増えていく。




耀は決断した。

このままではいけない。


「烈炎!!ここは任せる!!」


耀は朱炎のもとへ向かった。

(朱炎様……なぜ放置なさるのか)


朱炎ならば、この状況をすでに把握しているはず。

なのに、なぜここに現れないのか。

耀は、その答えを求めて駆けた。


二人の戦いは、もう誰にも止められない。


朱炎でなければ——




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