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  作者: Yonohitomi
一章
62/167

65.繋がる力


黒訝の後ろ姿を見送った耀。


耀はゆっくりと膝を折り、倒れた蓮次の体をそっと抱き起こした。肌に触れると、かすかに温もりを感じる。意識はないが、顔色はそれほど悪くはない。まるで深く眠っているかのようだった。


耀はわずかに目を細める。


首筋に走るひび割れ。

蓮次が限界を迎えるたびに、それは現れていた。


先ほども生じたその傷は、今はすっかり塞がっている。


静かに指先で触れてみた。


「良かった。だが、あまり、無理はさせられないな……」


耀は短く息を吐く。


「しかし、まさか、黒訝様が……」


黒訝は治癒の術を持たない。それは耀も知っていた。彼には繊細な術は使えない。


力がすべて。


やはり、朱炎の息子であり、朱炎の意志を強く継ぐ者だ。

黒訝を形作るのは、父譲りの強大な力。

今はまだ、使いこなせていないようだが。


そして、蓮次のひび割れを治した術。

あれは焦りの中で偶然誘発したものに違いない。


黒訝が蓮次の傷に手を当てた直後、彼の気配にはわずかな揺れが生じていた。

しかし、それはすぐに強く、揺るぎないものへと変わっていった。


黒訝が蓮次に与えたのは、ただの「気」ではない。

おそらく——「力」だ。


鬼の力を、黒訝は蓮次に与えた。


その瞬間に耀は理解した。


朱炎がここ最近、蓮次に力を与えなかった理由を。


(やはり、すべてお見通しだったか)


胸の奥に熱が灯る。


耀は静かに手を胸に当て、心の中で名を呼んだ。


風がざわめき、烈炎が現れる。


血相を変えて現れた烈炎だったが、一目で状況を悟ると、「ああ、またかよ」と呆れた声を上げた。


「何回倒れりゃ気が済むんだ?」


「烈炎、声が大きい。蓮次様がお休みだ」


耀の低い声に、烈炎は舌打ち混じりに肩をすくめる。


「ああ? 慌てて来てみりゃこれだよ。……で、なんで呼んだ?」


「見ての通りだ。蓮次様が倒れた。運んでくれ」


耀が静かに言うと、烈炎は大げさにため息をついた。


「……ったく、いいように使いやがって」


そう言いながらも、烈炎は躊躇なく蓮次の体を抱え上げる。

その仕草には、慣れたものがあった。


「お前だって運べるだろ」


「お前と話がしたくなった。いけなかったか?」


耀が微笑んで見せる。


それは、普段の耀には似つかわしくない、どこかぎこちない微笑だった。

だが、烈炎はその意図を察して、わざとらしく頭を掻いた。


「へいへい……」


屋敷へ向かう道すがら、耀は静かに口を開く。


「黒訝様の力が、蓮次様の首のひび割れを塞いだ」


烈炎は無言で聞いている。


「偶然とはいえ、朱炎様と同じことを、黒訝様もなされた」


朱炎は全てを計算し、見据えている。

その確信が、耀の胸の内に深く根を張っていた。


あの方の見通す未来に、死角など存在しない。

どこまでも先を見通し、揺るぎなく道を敷く。


「朱炎様は……本当に、すごいお方だ」


耀の声は、普段よりどこか柔らかだった。


烈炎は黙ってそれを聞いていた。横目で耀を見つつ、深く考えるでもなく、適当に相槌を打つ。


「で? 話したかった事ってそれか?」


「……蓮次様は、きっと……」


烈炎は呆れ顔で話を聞いている。

耀は気にせず歩みを進めていた。


風が静かに吹き抜け、言葉の余韻が流され消える。


屋敷はもう、すぐそこにある。


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