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  作者: Yonohitomi
一章
54/177

61.鬼の集会



 蓮次は今、鬼の集会が開かれるという広間にいる。

 そこはもうすでに、異様な熱を孕んでいた。


 朱炎一族の各館から集まった高位の鬼たちが続々と姿を現し、その場の空気をより一層重く沈ませる。


 老いた鬼は、年輪を刻んだ岩のような威を放ち、

 若き鬼は、刃のように研ぎ澄まされた気配を隠そうともしない。

 見慣れぬ鬼の姿も少なくない。


 朱炎一族の鬼の多くは、耀を除けば赤か黒の髪を持つ。

 だがこの日は青、緑、桃、橙――

 鮮やかな色を纏う鬼たちが集う。


 おそらく、朱炎一族と交流を持つ他の一族の者たちなのだろう。その者達は単なる使者ではない事も分かる。


 皆が皆、圧倒的な強者の気配を纏い、広間の空間そのものを圧迫している。


 広間の奥。

 すでに席に着いて待ちわびている一般の鬼たちとは明らかに異なる場所。玉座のような大座椅子がいくつも用意されている。

 まるで神々の領域に達する者たちのために用意された場所のよう。


 見慣れぬ鬼の中でもより強い気配を纏う者は、その奥の間に向かっている。

 他の一族の長か、それに準ずるほどの実力者たちと見えた。


 蓮次は黒訝とともに、その奥の間から少し離れた位置に座らされている。


 ――視線が、痛い。

 周囲の鬼たちが、隠すことなく蓮次を見ている。

 値踏みするように、探るように、這い回る視線。


 蓮次は俯き、小さく息を吐いた。

 好奇と猜疑が混じった眼差しが、ひどく鬱陶しい。

 気色が悪い、とさえ思ってしまう。


 ふと不安が首をもたげた。

 人間の匂いを、悟られているのではないか。

 背中に、じっとりと嫌な汗が滲む。


 その時、広間の扉が開き、耀と烈炎、そして朱炎が姿を現した。蓮次の不安は、霧のように掻き消えた。


 奥の中央にゆったりと腰を下ろした朱炎は、まるでこの世の理、そのもののよう。

 どんな鬼よりも圧倒的な存在感。


 ――まるで神のようだ。


 思わず、蓮次は息を呑んだ。

 その刹那、脳裏を霞のようなものが掠める。

 微かな既視感。遥か遠く、手の届かない記憶の残滓。


「……?」


 思考が形を成す前に、視界の端に見覚えのある姿が映った。

 朱炎と共に旅をした折に出会った、朱色の髪の鬼と、黒髪の鬼だ。

 二人は蓮次に気づくと、揃って笑みを向けてくる。

 朱色の鬼が、剽軽な仕草で指を弾いた。

 ぱち、と小さな稲妻が走り、肌に軽い痛みが走る。

 思わず睨み返したが、相手は悪びれるどころか、楽しげだ。

 これが鬼なりの挨拶なのだろうか。

 蓮次は小さく息を吐き、受け流した。

 ――だが、とにかく、圧が強い。

 

 鬼たちの威圧感が絡み合い、広間に充満している。

 虚勢、剥き出しの敵意、今にも噛みつきそうな殺気。

 それら一つひとつが重く、蓮次の体調を確実に削っていく。

 早く、部屋に戻りたい。

 顔色が悪くなるのが自分でも分かる。視界が霞み始めている。


 ふと、横から鋭い視線が突き刺さる。

 黒訝だ。

 隠す気もない敵意。

 怒りの念が、刃のように胸を抉る。

 ――もう、いい加減にしてほしい。

 そう思いながらも、黒訝の心情が分からないわけではなかった。

 本当は、話してみたい気持ちもある。

 だが、今はそれどころではない。


 体が、意識が。

 限界かもしれない。


 話し合いが始まり、各一族の動向や人間の動きについて報告が行われる。意見が交わされ、場が次第に熱を帯びていく。


 蓮次は冷や汗を滲ませていた。

 さらに意識が霞んでいく。


(早く終われ!)


 遠くから、ふと耀の視線を感じた。

 気にかけてくれているのだろうか。

 だが、それすらも、もう捉えきれない。

 黒訝の怒りが、絶え間なく突き刺さり、

 脈打つ頭痛に重なっていく。


 目の前の景色が、ざらりと崩れた。まるで砂埃が舞っているかのように。


(もう……無理……)


 堪えきれず、蓮次は額を押さえ、その場に崩れ落ちる。


 広間の空気が、凍りついた。


 

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