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  作者: Yonohitomi
一章
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7話




 夜が深まる。

 

 蓮次は音もなく動き出した。

 父から与えられた初の任務――敵の屋敷に忍び込み、武器や見張りの情報を探ること。


 胸は緊張と不安でいっぱいだ。だが父に応えたい。その一心で足を止めない。


 冷たい夜風が着物をかすめる。

 息を潜め、草一本踏み違えぬよう進む。屋敷は近い。見張りの目をすり抜け、闇に紛れる。


 ふと立ち止まった。

 草の音、木の軋み、風の通り道。どんな小さな音も聞き逃すまいと耳を澄ます。自分は音を立てない。


 やがて見張りの二人が現れた。

 蓮次はすぐに身を伏せ、影に隠れる。首をすくめ、浅い呼吸のまま通り過ぎるのを待つ。


 心臓の音だけがやけに大きい。


 ――絶対に見つかってはならない。


 失敗は許されない。父に認められるためにも。


 だが静寂は破られた。

 一人の見張りが立ち止まり、周囲を警戒する。


 蓮次の体が固まる。冷や汗が背を伝う。

 足音が近づく。逃げるか、潜むか。選ばねばならない。


 彼は体を縮め、ただ祈るように待った。


 その時、遠くで物音。

 男は顔をそちらに向けた。


 足音が遠ざかる。

 蓮次はようやく息を吐いた。膝が震え、緊張が抜けていく。


 その後も危機は続いた。

 息を殺し、身を低くし、夜の闇を泳ぐように進む。


 任務は重い。敵の戦備を探り、父へ正確に伝えること。まだ幼い彼には荷が勝っていた。


 疲労と緊張が身体を蝕む。呼吸は乱れ、思考も鈍る。それでも蓮次は前を見据えていた。


 父の命を受けた者として。武家の子として。

 彼はひとり、闇の中を進み続ける。





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