1〜3話
——熱い。
焼けつくような痛みが、容赦なく全身を貫く。
骨が砕け、血が広がる。肉が潰れる音が耳に残る。
これは罰なのか、それとも試練——。
数えることすら無意味。
もはや痛みと再生を繰り返すことに慣れ始めていた。
終わりは来ない。
目の前には、暗く深い憎悪を纏った巨大な鬼が立っている。
その鬼は冷たく蓮次を見下ろしている。
そして、じわりと手を伸ばしてきた。
鬼の手が触れ、胸が灼かれるように痛む。
「ッ……!」
呻きが喉でせき止められ、息ができない。
意識は曖昧になる。
ただひとつ、確信を持てることは——。
「助けに……来ないでください……」
父だけは、絶対にここに来てはならない。
これは自分ひとりの戦いだ。耐え抜かなければ。
——グシャッ。
視界が真っ赤に染まり、すべてが闇に落ちた。
目が覚めた。
「はぁっ……はぁっ……」
天井を見つめ、肩で息をする。額から汗が滴り落ちる。胸の奥には焼けつく痛みが残っていた。
——夢、か。
小窓の向こうでは、朝の光が庭の緑を照らしている。眩しすぎるほどに。
剣が交わる音が届く。兄の息遣い、弟の焦った足捌き、そして父の重みある声。
意識して耳をすませば、細かな音まで拾えてしまう。
ここまで聞こえるものだろうか?
蓮次はふと自分の手を見た。指先は血の気を失っている。
死人のような手に、気持ち悪さを感じた。
暗がりで目立つ、白。それが自分。
蓮次が過ごすこの小さな部屋には、光が差し込むことはほとんどない。
「影にいるほうが、お前にとってはいいのだ」
これは父の言葉だ。
肌は異常に白く、日に焼ければすぐに爛れる。
目もまた光に弱く、明るいところに長く居られない。
だから、この暗がりこそが味方になる。
「お前には特別に役割を与えよう、夜の見廻りだ」
そう言われ、蓮次には仕事が与えられた。
蓮次には、生まれつき相手の存在を瞬時に察知する異常な感覚がある。
わずかな音や匂いからでも他者を感じ取れる。父はそこに価値を見出したのだ。
蓮次はその期待に応えようと懸命だった。
役目を果たせば父は褒めてくれる。
夜に生きる。
そうは思っても——
夕暮れになれば家族の楽しそうな声がする。
自分も、あそこにいたならば——
ふとそんな思いがよぎり、蓮次はそっと目を伏せた。
自分には家を守る役目がある。
兄たちにはできないことを自分が担っている。そう言い聞かせる。
だが胸の奥には、閉じ込められたような窮屈さが消えずに残った。
はぁ、とため息をついた。
その時。
不意に冷たいものが背筋を撫でた。
慌てて振り返る。
(誰かに見られている……?)




