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  作者: Yonohitomi
一章
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24.近づく黒と広がる闇



 蓮次が意識を失った後、その場に控えていた朱炎の側近が一歩前に進み出た。


 彼の名は「耀よう」といい、朱炎の数少ない信頼を得た上級の鬼であり、その聡明さと冷静な判断力は他の鬼達からも一目置かれている。


 耀は蓮次を乱雑に扱わず、慎重に両腕を支え、横たわらせる。

 疲労に打ちひしがれ、崩れ落ちる蓮次を見下ろしながら、彼は落ち着いた仕草で蓮次の乱れた髪を払い、少しでも安らぎを与えるように体勢を整えさせた。


 改めて蓮次の体を確認する。

 鬼に変えられた影響で、幼い子供の体は急成長を遂げている。大人と呼ぶには未熟さが残るが、青年らしい体格になり、端正な顔立ちに変貌を遂げていた。


 さらに耀は、蓮次の目元に顔を寄せ、まるで薬師が病の理を探るように瞳を観察した。


 片方の瞳は、かつての人間だった頃の紫の影を残し、もう片方の瞳には鬼の赤い輝きが宿っている。

 対照的な瞳の色が、蓮次が未だに鬼として完全ではないことを如実に物語っていた。


 耀は静かにため息をつきつつも、彼の指は蓮次の右腕へと移り、その再生した腕の質感や筋肉の状態を慎重に調べた。


 右腕は人間の形状に近づいたものの、鬼としての特徴を微かに残し、皮膚にはかすかな冷たさと異質な力の痕跡が感じられた。


 他の手下達も、耀の姿勢に倣い、蓮次を乱雑に扱うことなく、静かに見守っている。


 彼らは皆、朱炎の考えを理解しており、蓮次をただの駒や玩具のようには見ていない。むしろ、朱炎が蓮次に特別な期待をかけていることを知っていたため、無駄な干渉をせず、耀の指示に従って蓮次に異常がないかを確認する役割に徹していた。



***



 その頃、意識を失った蓮次は、暗い闇の中で孤独にさまよっていた。


 闇は深く、手を伸ばしても何も掴めず、ただ広がる虚無である。

 混乱と恐怖が渦巻く心の中で、彼は目の前で繰り返される幻影に怯えていた。


 鬼にならないと必死に拒んだものの、自分の体が変えられていく感覚がまだ肌に残り、腕が切り落とされ、再生し、また変えられる…そのすべてが痛みとともに記憶にこびりついている。


 どうして…なぜ、俺がこんな目に…


 心の中で問いかけても、返事をする者はいない。逃げ場のない恐怖に閉じ込められている感覚に、絶望を染み渡らせた。


 夢であればいいと何度も願った。

 けれど痛みがそれを現実であると知らせる。


 ただ、静かな涙を流しながら、終わりの見えない暗闇の中に沈んでいく。



***



 石畳の壁が圧迫感を放つ、朱炎屋敷の地下の一室。

 耀は鎖に繋がれた蓮次の様子を冷静に見守っている。

 蓮次の体からは鬼と人間の境界を越えきれない不完全さが漂っていた。


(まだ、完全な鬼とは言えないな)


 蓮次の痛々しい姿に、耀は静かに目を伏せる。


 灯が淡く部屋を照らし、壁には影が映る。その影が、突如としてざわめくように揺れ始めると、軋み音とともに、扉がゆっくりと開かれた。


黒訝くろが」が姿を現した。


 彼は父・朱炎が連れ帰ったというこの「人間」の噂を耳にし、好奇心というよりも何か言い知れぬ違和感と不満を抱いてこの部屋へとやって来たのだった。


 黒訝は、部屋の片隅で横たわり鎖に縛られた蓮次の姿を一瞥し、不機嫌そうに眉をひそめた。そこには、父に対する疑問と苛立ちが色濃く浮かんでいる。


 なぜこんな半端な人間を、わざわざここに連れてきたのかと。

 黒訝の心中で不満が膨らんでいく。


 父である朱炎は、長い年月を生き抜き、揺るぎない強さと威厳を誇る存在であった。

 しかし、最近になって父が人間に執着しているように見えると感じることが増え、それが黒訝には理解しがたかった。


 人間は弱すぎる生き物。それを父がどうしてここまで気にかけるのか。


 黒訝は内心で吐き捨てるように思いながら、無意識に鼻をつまむ仕草をした。


 蓮次から漂ってくる独特の半端な香りが鼻をつくように感じられ、不快だったからだ。


 この不完全な鬼の香りには、人間の未練のようなものが混じっており、黒訝には醜く未熟な存在に映った。


 しかし、部屋の中の朱炎の手下たちは蓮次を見守るような目をしている。

 まるで蓮次が朱炎の期待に応えられることを願っているかのように。蓮次に対して少なからずの敬意を含んだ視線を向けている。


 それが、さらに黒訝の苛立ちを募らせた。


 こんなものに、何を期待しているんだと不満が渦巻く。


「黒訝様」

 耀は黒訝の視線と、その隠しきれない不満を察し、静かに声をかけた。

「どうかあまり気になさらぬように。この者は、朱炎様にとって……特別な存在かもしれません」


 その言葉に、黒訝の表情はさらに険しくなった。彼は鋭い視線で耀を睨むように見たが、すぐに興味を失ったように顔を背けた。


「理解できないな。ただの人間に過ぎないのに」


 そう呟くと、黒訝は足早に去って行った。その背中には、朱炎への不信と疑念がにじみ出ていた。



 黒訝が去った後、耀は再び蓮次に視線を戻し、その体調を丁寧に確認していった。


 彼の呼吸は弱く、不安定な状態だった。

 脈を確認し、瞳孔を確認する。


 瞳に宿る色合いは、朱炎が期待する「鬼」としての力には遠く及ばないものの、どこか不完全でありながらも強い意志が感じられた。

 

 続いて、再生して間もない右腕に触れ、腕の筋肉や血管に異常が出ていないかを確かめる。


 鬼の力が宿りながらも、人間としての脆弱さが同居する腕。今はまだ変色して不安定な状態だが、そのうち真っ白な肌になるだろうと予測できた。


 それは、かつて存在し、今は伝説と言われている

 あの「最強の鬼」のように――



***



 暗い意識の闇の中で、蓮次は鬼が自分に触れていることを微かに感じていた。

 乱雑に扱われない事は救いだった。けれど蓮次の心は深い絶望の闇に囚われている。


 これから、どうすれば良いのだろう。もう、目を覚ましたくはない。

 目を覚ませば、再び鬼の力を送り込まれると分かる。


 あの悪夢の通りであれば、延々と鬼の力を送り込まれるはずだ。

 苦しみ、声が枯れるまで絶叫しても繰り返される拷問。

 

 嫌だ。

 もうこのまま、この闇に居たい。


 

 








黒訝くろが

黒髪短髪、赤い瞳の鬼。

朱炎の息子。鬼と人間のハーフ。

人間の血が混じっているが朱炎の強大な力を受け継いでいるので周りからは立派な鬼として認められている。

数年前に生まれたばかりだが、鬼の成長は早く、もうすでに青年の体つき。すべて力で解決できると思っている。



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