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  作者: Yonohitomi
二章
161/168

52.衝突



 背を木の幹に強く打ちつけた耀が、わずかに顔を歪めた。


 その表情を目にした烈炎は、拳に力が入りすぎたと気づく。


(やべっ、やりすぎた)


 だが、目の前の耀は怒りを見せる事もなく、代わりに、どこか沈んだ表情を見せた。


 陰を帯びた目。


(……ちっ、何だその顔)


 烈炎は小さく舌打ちした。謝罪するよりも耀の曇った瞳の方が気になってしまう。


「おい、どうした」


 問いかけても、耀は目を逸らす。そこに寂しさのようなものが滲んでいた。


(……また、朱炎のことか)


 嫌でも勘が働く。胸の奥で、抑えようのない苛立ちが燻る。


 烈炎は我慢できず、耀の顎を掴み、自分の方へと向かせた。


 二人の視線がぶつかる。


 しかし耀は、耐えきれないというように、また視線を逸らした。


「……何があった」


 烈炎の声に怒気はなかった。真剣に、どこか探るような口調で問うた。


 けれど。


「お前には関係のないことだ」と、何も明かされなかった。


 烈炎の眉がぴくりと動く。胸の奥で熱がはぜた。


(関係ねぇ? ふざけんな)


 耀の顎を掴んでいる手に、力がこもる。逃がすものかという勢いで、ぐっと耀の顔を持ち上げた。


 耀の瞳が揺れている。


 見られることを拒むように、彼はそっと目を閉じた。


 烈炎はその反応に息を呑む。思わず力を緩め、顎から手を滑らせた。

 指先は耀の喉元をなぞり、首を包み込むように掴む。


 そのまま、じっと耀の顔を見つめた。


(……また、そんな顔してやがって)


 首を強く締めているわけでもないのに、苦痛を示すような顔。いや、苦痛に酔いしれている顔にも見える。


 吐き出しきれない想いが胸を焦がす。


「お前っ」


 烈炎が唇を開きかけた、その時――


「やめろぉぉぉ!!!」


 甲高い声が空気を裂いた。


 小さな影が烈炎の腕に飛びつく。


「やめろ! 耀がくるしんでる!!」


 蓮次だった。

 蓮次は烈炎の腕にしがみつき、小さな手でぱしぱしと叩く。


 烈炎はびくともしない。


「あ? なんだ?」


 烈炎がそう呟くと、蓮次は勢いをつけて烈炎の着物を破り、逞しい腕にがぶりと噛みついた。


「いってぇっ!」


 さすがの烈炎も声を上げ、反射的に腕を振り払う。


 小さな体が宙を舞う。


「うわぁっ!!」


 耀がとっさに動く。

 落下する蓮次を受け止め、膝をついた。


「蓮次様っ」


「……あ、えっと、耀、だいじょうぶ?」


 蓮次は耀に話しかけているが耀は蓮次の声に耳を貸さない。代わりに烈炎へと視線を向ける。


 瞳には怒りが宿っていた。


「烈炎……お前、何てことを!」


「は? お前があんな顔してたからだろうが!」


「理由にならん! 子を放るとは何事だ!」


 激しく言い合う二人。空気が軋む。


 烈炎の周囲に熱が立ち昇り、耀の周囲には風が渦を巻く。




 そのときだった。


 きんと鋭い音が空気を裂いた。

 耳鳴りのような脳を刺す音。


 耀も烈炎もぴたりと動きを止める。


 耀は咄嗟に蓮次を抱き寄せ、腕の中に隠した。

 烈炎は片腕を伸ばし、二人を庇うように立つ。


 二人して辺りを見回す。


「なんだ今の」


「分からない……」


 木々の間を、風が不穏に走る。

 虫の声すら止み、森全体が息を潜めたようだった。


 蓮次は耀の胸元にしがみついている。耀と烈炎が一瞬にして殺気立ったことで、なにかが起きたと理解した。

 ごくりと唾を飲み込んで、身を縮こませた。


 耀はそんな蓮次を見下ろすと小さな頭にそっと手を置いた。だがすぐに視線を周囲に戻した。


 烈炎もまた、拳を握り締めたまま周囲を探る。


 耳鳴りの余韻は消えた。それでも遠くから何者かに見られているような気配を感じる。


 二人の鬼が、同時に息を詰めた。


 動くべきか、それとも――


  

  

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― 新着の感想 ―
やべっやりすぎたって笑 どれだけ溜まってるんですかもう笑 耀のことが好きなのに\(//∇//)\ そして耀の顔ばっかり見てて好きが爆発してるな。 顎クイ?うひょー 目を閉じてってもう委ねてるのでは。…
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