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  作者: Yonohitomi
二章
159/166

50.新しい家族(4)


 


 空気が澄み、静けさに包まれた森の奥。烈炎と蓮次が向かい合う。


「さあ、来い」


 烈炎が組んでいた腕を大きく広げた。対して、蓮次は獣のように四肢を沈める。そして、一瞬にして飛びかかる。


「やぁーっ!!」


 勢いはあるが遅すぎた。

 烈炎は向かってくる小さな体を、ひょいと片手で軽くいなした。


 蓮次の体は宙を舞う。


「うわっ……!」


 どすんと鈍い音が響いた。だが、地に背を打ちつける寸前、蓮次は回転して衝撃を逃していた。


 烈炎の口元がわずかに緩む。


(ほう、受け身を覚えやがったか?)


「今のは悪くねぇな」


「うん!」


 息を整え、蓮次はまた飛びかかる。

 烈炎は鼻を鳴らし、軽く腕を動かして再び蓮次を宙に放った。


 しかし、今度の蓮次は違っていた。空中で姿勢を整え、すっと軽やかに着地した。


「へへ」と、得意げに立ち上がる。


 もう、飛ばされることにも慣れてきた。地面に落ちる前に身を翻せば、強い衝撃を受けなくて済む。これなら、我が身だけなら守れそうだと、目をきらりと光らせた。


「よし、だいじょうぶ……」


 その時。

 ふと視線が横に逸れ、あるものを見つけた。

 木陰の向こうに、小さな青が揺れている。


 蜘蛛の巣に絡め取られた、青い蝶。


 左右には二匹の蜘蛛が張り付き、睨み合うように、あるいは協力し合うかのように蝶を狙っていた。


 蓮次は思わず足を進める。


「たすけ……たほうがいい、かな」


「おい、どうした」


 烈炎が眉をひそめて近付いてきた。

 蓮次は振り返る。


「これ……たすけたほうがいいよね?」


 蓮次の指さす方を見た烈炎。


「…………」


 目に入った光景に怪訝な顔を示していた。

 これは舌打ちをせずに居られない。


「そりゃあもう、手遅れだ」


 そう言うなり、烈炎は蓮次を抱え上げた。


「よし、帰るぞ。そいつらはほっとけ」


「え? いやだ! まだかえりたくない!」


 蓮次がばたばたと手足を動かして抗うが、烈炎が構うことはない。


 それよりも烈炎の意識は別の方へと向いていた。


 考えれば苛立ちが募る。その原因はいつだってあの青い蝶だ。

 蝶はいつも蜘蛛の巣に囚われている。これが許せないのは何故なのか――と。知りたくもない感情に静かに蹴りを入れている。


 烈炎の目はどこか遠くを見ていた。


 



***





 火土丸と紅土が、土に潜ろうと身構えた時――。


 ピシリと空気が裂ける。結界がほどけ、轟音と共に爆風が吹き荒れた。

 熱を帯びた砂塵が舞い上がり、二人の体は飛ばされる。


 地面に転がり落ちる二人。


 火土丸と紅土は咄嗟に互いの無事を確認すると、改めて前を見た。


 二人は目の前の状況に息を呑んだ。


 視線の先には、地に倒れている耀。そして、その傍らに立つのは、橙の艶やかな着物をまとった女。

 

 耀は咄嗟に起き上がり、はだけた着物を正そうと慌ただしく背を向けた。

 その様子を艶めいた笑みで見つめながら「うふふ」と上機嫌に笑う女鬼。


 彼女は「さあ……」と言って、火土丸と紅土に向き直った。


「おいで、子どもたち……」


 不思議なほどに優しく穏やかな声音。

 火土丸と紅土は戸惑いながら互いを見やる。どう動くべきかと。

 しかし、怪しさよりも、不思議な安堵が胸に広がりつつあった。


 柔らかな空気を纏い、朗らかさに満ちている、この場を支配する女性とは――


「我が名は紅葉。ここで、新しい家族となろう」


 二人は、その言葉に惹かれてしまう。


 母――。


 火土丸と紅土が薄らと望んでいた存在だ。だが、すぐに動く事はできない。期待と不安が入り混じり、二人はその場で固まっていた。


 紅葉が目を細める。


「お前達、名は?」


「……火土丸」


「……紅土」


「火土丸、紅土……良い名だ。さぁ……」


 優しく呼ぶ声。抗い切れず、導かれる。二人はおずおずと歩み寄った。


 紅葉は膝を折って二人に視線を合わせた。そして、改めて両腕を広げる。


「おいで」


「……紅葉、様」


「紅葉様」


 まだ母と呼ぶには時間が必要のようだった。しかし、火土丸は頬を緩め、紅土も微笑んで紅葉に抱きつく。


 新しい家族が誕生した。



 一方、背後の耀は――。


 


 

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― 新着の感想 ―
最初「?」となってしまった笑 あ、蓮次くんお疲れ様。 烈炎、青い蝶をみて手遅れって笑 朱炎様と紅葉様2人に好き勝手されてしまいましたからね。。 いっつも囚われててそれを悦んでるかのようで嫉妬しちゃって…
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