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  作者: Yonohitomi
二章
157/168

48.新しい家族(2)





 耀は全速力で森を駆けていた。


(急がねば、紅葉様の魂が消えてしまう)


 大きな岩を飛び越え、川を渡り、さらに進むと、土の匂いが濃い場所に出た。


 土――。


 閃いて、思考が繋がる。


(そうか……火土丸と紅土は、このために!)


 火土丸と紅土。彼らには親がいない。土から生まれた、特殊な鬼だ。


 耀の脳裏に、ある日の光景が蘇る。


 ――朱炎は、無念を宿した二つの魂を捉えていた。近づく耀に言葉一つ告げず、淡々と土塊を呼び寄せる。やがて土塊が人型になると、その中央に光の玉を置き、掌から一滴ずつ血を垂らした。


 紅のしずくが土へ染み込む。

 光はゆっくりと溶け込み、形を成した。


 土から鬼が誕生した。


 それがあの二人、火土丸と紅土だ。鬼としては異端な出自――朱炎の試みの成果である。


(朱炎様……やはりあなたは、常に先を見ておられる)


 昂る気持ちで、耀は足を速めた。


(もうすぐだ……)


 屋敷に到着。

 屋内に駆け込むや否や、耀は息を切らしながら叫んだ。


「火土丸! 紅土! 急げ、女の体を今すぐ作れ!」


「はぁぁ!??」


 床に寝転がっていた火土丸と紅土が飛び起きた。


 耀は焦っている。


「話は後だ! 早くしろ!」


「ねぇ、どういうこと?」と紅土が首を傾げる。


 すぐに動かない二人に、耀は短く説明する。


「土を盛れ。お前達の母となるお方だ」


 そう言いながら、手から溢れる光を見せた。

 耀の言葉に、二人は目を丸くし、次の瞬間には顔を見合わせる。


「行くぞ!」


「うん!」


 屋敷の外に飛び出した二人。

 土を掻き寄せ、必死に盛る。


「もっとこう、こうだろ! いや違う、腕が変だ!」


「やだ! 下手くそ!」


「うるせぇ!」


 泥遊びのような光景だが、二人の動きは真剣そのものだ。耀はその様子を見守りつつ、掌の光に意識を集中させていた。


「……あと、少しです」


 耀はこの状況に、改めて思う。やはり朱炎様の先見に狂いはない、と。





「――出来た!!」


 火土丸と紅土が、同時に声を張り上げた。


 耀はすぐに駆け寄る。


 目の前にあるのは、泥と土を積み上げただけの粗い像。人の形を模してはいるものの、まだ不格好で、首や腕の線は崩れかけている。だが――充分だ。


 耀は両手に抱えた橙の光を、そっと近づけた。


「紅葉様……どうか、ここへ」


 光はふわりと漂い、土の女の胸もとへ吸い込まれていった。


 次の瞬間。


 ――ぼうっと、橙色に輝いて広がる。


 ただの土塊。それはひと呼吸のあいだに、滑らかな肌に変わり、黒髪がするすると肩に流れた。


 やがて――そこに現れたのは、裸身の一人の女。


「うわぁぁぁぁっ!?」


 火土丸は、真っ赤になった顔を両手で覆うと、そのままずぶんと土に潜った。


 一方で紅土は、目をまん丸に輝かせたまま呟く。


「きれい……」


 きらきらと喜びを溢れさせながら眺めていた。


 息づくように光を放つ女――鬼女紅葉。


 耀も息を呑んで眺めていた。


(やはり……朱炎様は、ここまでを見越しておられた……)


 耀は目を閉じ、朱炎を思い出す。

 それが、隙となり、仇となる。


「――っ!?」


 どん、と強い衝撃。耀は地面に打ち付けられた。

 続いて橙の光が爆ぜる。


 結界が張られたのだ。


「耀!」


 紅土が慌てて駆け寄り、結界を叩く。


「耀! 大丈夫!?」


 返答はない。

 一体なにが起きたのか。


「な、おい、何だ今の!?」


 火土丸が、土の中からぽんと顔だけを出した。


「分かんないよ! 見えないの!」


「おい紅土! 何とかしろよ!」


「わ、私に言われても……!」


 紅土は結界の中をじっと見つめる。

 火土丸は頭を抱えて地面に転がった。


「くそっ、どうすればいいんだ!? 耀が、あんな美人に……押し倒されて……」


「なに言ってんの! 馬鹿なの!」


「そう見えたんだよ!」


「はぁ!?」


 結界の中で何が起きているのか。


 耀は無事なのか。


 それとも――。




 





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― 新着の感想 ―
火土丸くんと紅土ちゃんは朱炎様が生んだのか(言い方) なんでも血液垂らすんだな。。 そして紅葉さん復活٩̋(ˊ•͈ ꇴ •͈ˋ)و 耀は目を閉じ、朱炎を思い出す。それが、隙となり、仇となる→朱炎様妄…
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