18.孤独な夕暮れ
蓮次が目を覚ました時、空はすでに夕暮れの色に染まっていた。
久しぶりに深く眠れた気がする。
目の前に広がる空の色はどこか冷たく、心に孤独感を残すような淡い橙色をしている。
蓮次はその空模様を見て、屋敷に帰りたいと強く思った。
兄や弟とのわずかな会話や、父が剣の稽古をつけてくれた記憶がふと蘇り、蓮次の心を曇らせる。
けれど、ここで感傷に浸っている場合ではない。
父に命じられた任務を果たさなければ、屋敷に戻ることなど到底叶わないのだから。
そう自らに言い聞かせると、蓮次は気を取り直し、再び街へと向かった。
夜の帳が降りる頃、蓮次は街の中でひっそりと歩みを進め、意識を集中させて周囲の気配を探った。
すると、ほんのかすかだが、前日とは違う種類の気配を遠くに感じ取ることができた。
蓮次の心は緊張で跳ね上がり、自然と歩みが速まる。
(あの気配……)
恐ろしいまでの殺気が漂っている。
昨日とは異なる存在のようではあるが⋯。
蓮次はその気配を追いかけ、夜の街の中をさまよいながら、ついに気配の源へと近づいた。
そして、暗がりに目を凝らすと、薄闇の中に一際異質な影がぼんやりと浮かんでいた。
緑色の肌に、鋭い目。
昨日と同じか?
よく見ると、その頭には角が生えている。
昨夜は隅々まではっきりと見えなかったが、今夜、その姿を初めてはっきりと視界に捉えた。
思わず戦慄が走った。
それはまさに「鬼」だった。
不気味な緑色の肌を持ち、荒々しい気配を漂わせたその鬼は、夜の街で何かを探すように歩き回っている。
蓮次は息を詰め、しばらくその場で身動きもせずに様子をうかがった。
その異様な存在に対する恐怖を押し殺し、蓮次は小刀を握り直して、再び心を固める。
(追いかけなければ……あれを、見逃すわけにはいかない)
そう心に決めた蓮次は、鋭い視線で鬼の姿を見据え、そっと一歩を踏み出した。




