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  作者: Yonohitomi
二章
134/166

25.結界の外 -烈炎の気持ち-





 烈炎は、結界の外にひとり取り残されていた。


 夜の静寂が周囲を包む中、彼の視線は屋敷の奥――耀が消えていった方角を追っていた。


 命令されたから残っている。そう、それは間違いではない。だが本当のところは、それだけではなかった。


 耀の、あの表情が、頭から離れなかったのだ。


 ――壊れそうな目をしていた。


 あれは焦燥か、羞恥か、それとも怯えか。耀にそんな顔をさせたのは誰だ? 朱炎か? それとも、自分か。


 烈炎はその場にしゃがみ込み、土をつまみ上げた。赤い破片とともに。


 朱炎が握り潰して耀に見せた赤い破片――あれは、もしかして自分が残した“熱”なのではないか。そう思えた。


 胸の奥に微かな痛みが走る。


 あの時、耀の髪に触れた。繊細な青。闇に月光を混ぜたような群青。


 ほんの一瞬だが、耀の表情が崩れそうになっているのを見て、「このまま触れたら本当に壊れてしまうのでは」と思えた。


 試してみたくなったのだ。それはとても衝動的に。


 それを朱炎が読み取ったとすれば――


「……まさかな」


 いや、朱炎なら、あり得る。


 赤い破片は、その“想い”を朱炎が抽出し、石のように固めたものだったかもしれない。

 そして耀の前でそれを砕いた。まるで、「お前の気持ちはこの程度だ」とでも言うように。


 見せつけ、壊す演出。


 それを見せた後の朱炎の表情――勝ち誇ったような、あれはまさしく「奪った者」の顔だった。


『余計なものが寄り付かぬようにな』


 朱炎はそう言って烈炎に見張りを命じた。

 外部からの侵入者に対する命令かと思った。だが、思い返せば、あれは――


 耀に、お前が近づくな。


「……クソ野郎」


 その意図があったからこそ、あの笑みだったのだ。


 烈炎は、朱炎という鬼を“化け物”だと強く思った。


 結界で空間を操作し、他者の想念を奪い、具現化し、砕く。

 地獄へ引きずり込む力も持ち、誰の感情も見透かし、掌の上で転がす。


(そんな鬼……他にいるか?)


 こんな鬼がどこにでもいたら、世界はとっくに終わっている。


(やっぱ化けモンだ……)


 なのに――耀は、そんな朱炎に心を捧げている。自らを削ってでも、彼に仕えようとする。


 ――なぜだ。


 烈炎には、それがどうしても納得できなかった。


 彼が耀に求めているのは、主従でも忠誠でも恋でもない。

 ただ、耀が耀自身の意思で、耀として生きてほしいと思っている。なのに彼は、いつも朱炎の影にいる。


 ……倒せるか?


 朱炎を――。


 一瞬、そんな考えが烈炎の脳裏を過ぎった。


 だが、すぐにその考えを振り払うように、近くの大木へと歩き出す。サッと太い枝に登り、寝転がった。


 見上げた夜空には月が浮かび、輪郭の曖昧な雲が流れる。


「……まぁ、いいか」


 そう呟いた声は、どこか空虚だった。


「結局……敵は何だったんだ?」


 思考はまとまらず、なぜここに居るかとぼんやりと思う。


 この先のこと――朱炎の動きも、術師の正体も、耀の心も。


 考えれば、すべてが面倒だった。



 


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― 新着の感想 ―
耀のあの表情……あの受けの表情か\(//∇//)\ あんな顔させたのは君だ烈炎。 残した熱ってもう\(//∇//)\キスマーク残したようなものじゃないか\(//∇//)\ みんな耀の髪に触れたがる…
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