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  作者: Yonohitomi
二章
133/166

24.結界の外 -朱炎の支配-





 広がる緊迫の中、耀はひとつ、喉を鳴らして息を整えた。目の前に立つ朱炎の視線は鋭い。ふと気を抜けば貫かれそうだった。


 けれど、耀はもう動揺を見せるわけにはいかなかった。膝を付いたまま、淡々と、報告を始める。


「……敵は、逃しました。気配は極めて繊細で、異形や鬼のそれとは明らかに異なります」


 朱炎は沈黙のまま耳を傾けている。耀は朱炎の顔色をうかがいつつ、言葉を続ける。


「蓮次様の力を結界で封じているため、魑魅魍魎は寄り付かなくなっているはず……となれば、それ以外。先ほどのものは……おそらく、術の類、つまりは人間。術師が式神のようなものを飛ばしてきたのだと思われます」


「ふむ」と朱炎が小さく息を吐いた。


「結界の存在に気づいた者が、探りを入れてきたのかもしれません。追跡を試みましたが気配が途絶え、これ以上の追尾は不可能でした」


 報告を終え、耀は主の視線から目を逸らしたが朱炎の燃えるような深紅の瞳は耀をじっと見つめていた。


 圧が酷い。


 朱炎の感情が一切読めないせいで胸がざわつく。


 すると、朱炎が一歩、耀に歩み寄った。


 耀の肩がわずかに強張る。反射的に力が入り、無意識に息が止まった。


 朱炎はそっと耀の髪に触れる。その指先が、何かを摘んだ。


(朱炎様は一体、何を……?)


 耀が顔をあげる。


 朱炎は手中に収めたそれを握りしめて粉々に砕き、耀の目の前で散らして見せた。


「……赤?」


 耀は小さく声を漏らした。地面を見れば赤い破片が散らばっている。


 耀は再び朱炎を見上げる。その口元には、何かを蹴散らして勝ち誇ったような笑みが浮かんでいた。


 耀が戦慄する。


「……あの、朱炎……様……」


「あとで、私の部屋に来い」


 表情に反して、朱炎の声色が穏やかに聞こえた。耀は静かに「承知しました」と返事をし、頭を垂れた。


 再び顔を上げると、もう目の前に朱炎はいなかった。


 彼は烈炎の目の前に立ち、命令を下している。


「烈炎。お前はここを見張れ。余計なものが寄り付かぬようにな」


 朱炎はそのまま屋敷へと向かう。

 烈炎が露骨に顔をしかめていた。


「……ぜんぶお前のせいだろうが」


 独り言のように小さく呟かれたが、おそらく聞こえているはずだ――朱炎に。


 だが、朱炎は振り返る事なくこの場から立ち去った。


 耀は、取り残されたような感覚を抱えながら、地面に落ちた赤をもう一度見つめた。


 朱炎に触れられた髪を自身で触って確かめる。あのような赤い破片に見覚えはない。


 もしかしたら烈炎に触れられた時に、何かつけられたのだろうか、とも思えたが記憶になかった。


「……あの野郎。命令だけは偉そうに言いやがって。結界張って混乱させたり、地獄に籠ったりしてんのあいつじゃねぇか。ったく、やってらんねえ……」


「朱炎様のことを悪く言うな」


 不満を長々と口にする烈炎を耀は制した。しかし、烈炎は耀に向き直ると、嘲るように笑った。


「あ? さっきまでひでぇ顔してたくせによ」


「それ以上言うな」


 皮肉めいたその一言に、耀は眉をひそめ、じっと烈炎を睨んだ。


 耀の脳内にて羞恥と怒気が混じり始めたこの時――。


 意識の奥に、声がする。


 ――耀。


 朱炎の声が、響いた。想念が飛んできたようだ。


 耀の瞳がぱっと開かれる。


「朱炎様……」


 呟いたと同時に結界に吸い寄せられるように、耀は屋敷へと駆け出していた。





 烈炎は、その背中を呆れたように見ていた。


「……なんでもかんでも、朱炎、朱炎……って、お前はそれでいいのかよ」


 耀にその声は届かない。


 烈炎の瞳には怒りでも悔しさでもなく、憂いがあった。


 耀を哀れむようにも見える表情を、月の光が照らしている。


 









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― 新着の感想 ―
ふと気を抜けば貫かれそうだったって何考えてんだ\(//∇//)\ 敵は逃した、烈炎いたけど……♪ というか、耀はそこまで調査してたっけ。。。 ちょ……朱炎様っ! やっぱり見てたんだ! 一歩近づーく!…
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