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  作者: Yonohitomi
一章
13/177

17、18話 異形の正体



 蓮次は覚悟を決めて気配を追った。しかし、その影は唐突に霧のように消え入った。


 月明かりがわずかに通りを照らす。

 人の目には闇しか映らない明るさなのに、蓮次の視界は不自然なほど冴えていた。

 昼よりも輪郭がはっきりと浮かび上がって見えている。

 それは奮い立たせた覚悟と、そこに混じった微かな怒りのせいかもしれない。

 諦めきれずに彷徨い続けた。


 緊張が張りつめている。

 夜気は冷たく、体温を奪うばかりだ。


 対象を完全に見失っても、人気のない路地や建物の影を巡り続ける。

 ときおり足を止めて耳を澄ました。

 緑の者の気配を拾おうと集中を極限まで研ぎ澄ませる。


「まだ……近くにいるはずだ」

 夜明けが近づいても徘徊をやめなかった。


 空が淡く染まり始めるころ、足は鉛のように重くなり、体力が尽きつつあるのをようやく認めた。

 眠気がじりじり意識を侵し始める。背中の痛みも再発したことから、倒れる前に橋の下に戻ろうと急ぐ。


 太陽が昇りはじめる。

 橋の陰に身を沈め、小さく体を丸めるように横たわった。

 目を閉じるたび、傷が脈打つ。

 夜の冷たさより、朝の光のほうが残酷に思えた。

 疲労と眠気に抗えず、静かに意識を手放して。


 その日の眠りには、あの悪夢は訪れなかった。心も体も、ひとときだけ安らぎに包まれた。


***


 目覚めた時には、空がすでに夕暮れの色に染まりつつあった。

 久しぶりに深い眠りを得た感覚がある。

 なのに、苦しい。

 橙に沈む空に虚しさを覚えてしまう。


 屋敷に帰りたいという衝動が、不意に込み上げた。

 兄弟との会話、父の稽古の記憶が淡く浮かび、心がかすかに揺れてしまう。


 けれど感傷に浸っている余裕はない。

 与えられた任務を果たさねば――。


 蓮次は心を整え、町へと向かう。


 やがて、前夜のものとは異なる気配を遠くにとらえた。

 胸が跳ね、自然と脚が速まる。


(……あの気配)


 凍りつくような殺気が漂っている。

 前夜の存在とは違うようだ。けれど、同族――この世の者ではないと分かる。


 気配を追い、走り続ける。

 日が沈み、暗がりが味方する。


 蓮次の目が闘志で光る。

 

「見つけた!!」


 薄闇の奥に異質な影。

 緑の肌に、鋭い牙。

 昨夜と同族。


 そして――月明かりがそれを照らす。


(……まさか!?)


 目にしたのは二本の(つの)

 頭に大きな二本の角が生えているのをはっきりと見た時、背筋に冷たいものが走り抜けた。


 月明かりの下に現れたのは、紛れもない「鬼」だった。


(本当に、鬼がいるのか!?)


 それは荒々しい気配をまとい、何かを探すように歩き回っている。

 蓮次はその姿をはっきりと目にした瞬間、全身に力が入りすぎ、体が石のように固まってしまった。


(でも、見逃すわけにはいかないんだ!)

 恐怖を押し込み、小刀を握り直し、覚悟を固めた。



 

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