17、18話 異形の正体
蓮次は覚悟を決めて気配を追った。しかし、その影は唐突に霧のように消え入った。
月明かりがわずかに通りを照らす。
人の目には闇しか映らない明るさなのに、蓮次の視界は不自然なほど冴えていた。
昼よりも輪郭がはっきりと浮かび上がって見えている。
それは奮い立たせた覚悟と、そこに混じった微かな怒りのせいかもしれない。
諦めきれずに彷徨い続けた。
緊張が張りつめている。
夜気は冷たく、体温を奪うばかりだ。
対象を完全に見失っても、人気のない路地や建物の影を巡り続ける。
ときおり足を止めて耳を澄ました。
緑の者の気配を拾おうと集中を極限まで研ぎ澄ませる。
「まだ……近くにいるはずだ」
夜明けが近づいても徘徊をやめなかった。
空が淡く染まり始めるころ、足は鉛のように重くなり、体力が尽きつつあるのをようやく認めた。
眠気がじりじり意識を侵し始める。背中の痛みも再発したことから、倒れる前に橋の下に戻ろうと急ぐ。
太陽が昇りはじめる。
橋の陰に身を沈め、小さく体を丸めるように横たわった。
目を閉じるたび、傷が脈打つ。
夜の冷たさより、朝の光のほうが残酷に思えた。
疲労と眠気に抗えず、静かに意識を手放して。
その日の眠りには、あの悪夢は訪れなかった。心も体も、ひとときだけ安らぎに包まれた。
***
目覚めた時には、空がすでに夕暮れの色に染まりつつあった。
久しぶりに深い眠りを得た感覚がある。
なのに、苦しい。
橙に沈む空に虚しさを覚えてしまう。
屋敷に帰りたいという衝動が、不意に込み上げた。
兄弟との会話、父の稽古の記憶が淡く浮かび、心がかすかに揺れてしまう。
けれど感傷に浸っている余裕はない。
与えられた任務を果たさねば――。
蓮次は心を整え、町へと向かう。
やがて、前夜のものとは異なる気配を遠くにとらえた。
胸が跳ね、自然と脚が速まる。
(……あの気配)
凍りつくような殺気が漂っている。
前夜の存在とは違うようだ。けれど、同族――この世の者ではないと分かる。
気配を追い、走り続ける。
日が沈み、暗がりが味方する。
蓮次の目が闘志で光る。
「見つけた!!」
薄闇の奥に異質な影。
緑の肌に、鋭い牙。
昨夜と同族。
そして――月明かりがそれを照らす。
(……まさか!?)
目にしたのは二本の角。
頭に大きな二本の角が生えているのをはっきりと見た時、背筋に冷たいものが走り抜けた。
月明かりの下に現れたのは、紛れもない「鬼」だった。
(本当に、鬼がいるのか!?)
それは荒々しい気配をまとい、何かを探すように歩き回っている。
蓮次はその姿をはっきりと目にした瞬間、全身に力が入りすぎ、体が石のように固まってしまった。
(でも、見逃すわけにはいかないんだ!)
恐怖を押し込み、小刀を握り直し、覚悟を固めた。




