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  作者: Yonohitomi
一章
13/167

16.夜の追跡



 橋の下で丸くなり、眠りにつこうとしていた蓮次。

 目を閉じた瞬間に、どこか遠くから異様な気配を感じた。


 それは夜の静けさに紛れる、ほのかな殺気。


「…何かいる」


 警戒を強め、蓮次はゆっくりと橋の下から出る。気配を感じる方向へと足を進めた。


 慎重に歩みを進めると、不穏な気配が増す。


 ――この気配は、殺し屋だろうか?


 蓮次はついに走り出した。夜の町並みを駆け抜ける。


(あの屋敷の裏だ。絶対に逃さない!)


 蓮次は屋敷の裏手に回り込んだ。


 そこには、緑色の肌を持ち、奇妙な姿勢で闇に溶け込むように動く、奇妙な存在があった。


「え…!?」


 その化け物の口元には、赤子が咥えられている。


「!!」


 蓮次は小刀を握りしめ、じっと敵を睨みつけた。

 

 すぐに追わなければ逃げられる、そう判断し、身の軽さを活かして一気に踏み込む。


 しかし、目の前の緑の怪しげな存在は蓮次の動きを察知して、すっと空気の中に消え入った。


「…どこに行った!」


 蓮次はその場に立ち尽くし、小刀を握り締める。


 思い返して見れば、あれは悍ましい姿をしていた。今まで見たこともない姿。


 ほんの一瞬で消え去り、行方を眩ませた。


「失敗した……」


 敵を追えなかった無力感でいっぱいになる。

 

 その時――


 屋敷の奥から女性の悲鳴が響いてきた。次々と怒号と悲鳴が飛び交うのが聞こえる。


 蓮次はすぐさま向かおうと、一歩踏み込む。


「でも……」


 蓮次は足を止めた。


 怪しまれるかもしれないと思ったからだ。


 町の視線を嫌というほど浴びて、どれほど自分が異様な存在かを思い知らされた。

 そんな自分が、この屋敷の人間にどう思われるかは、考えるまでもない。

 説明したところで、信じてもらえる保証もない。


 蓮次は悲鳴が続く屋敷を背に、緑色の者が消えた方向へと歩を進める。


 凄まじい自己嫌悪とともに。


 足取りはゆっくりと重い。


 一歩、また一歩と進める中で、今すぐにでも向かえと言う自分と、辞めておけと言う自分が脳内で言い合っている。


 それを俯瞰して聞いている第三の自分が、「お前は何をしに来たのだ?」と言う。


(……そうだ、あいつを倒して、帰るんだ)


 蓮次は無理やり自らを奮い立たせた。

 

 ――あの化け物を倒さなければならない。




 

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