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  作者: Yonohitomi
一章
12/167

15.冷たい町の視線



 翌朝、蓮次は町の通りに足を踏み入れた。

 深く頭巾をかぶり、白い髪を隠しながらも、人々に声をかけ始める。


 けれど、頭巾の隙間からのぞく珍しい髪色に気づいた人々は、不安げに視線を逸らした。そして、そそくさとその場を離れていく。

 返事は曖昧で、どこか遠ざけるような態度ばかりだった。


 それでも蓮次は気丈に、次の人へ、さらにその次へと声をかけ続けた。


「この辺りで、怪しい人物を見かけませんでしたか?」


 まともに答える者はいない。

 無理もない。自分がいちばん怪しく見えるだろう。


 視線は刺すように冷たく、囁き声は耳に届かないふりをしても、心を抉った。

 誰もが、どこか一線を引いたまま。

 蓮次を遠巻きに避けている。


「……ふう……」


 小さな路地に身を寄せ、蓮次はため息をひとつ吐いた。


 太陽は中天にあり、町には影が少ない。

 陽の光が苦手な蓮次は、避けるように細い通りを選びながら進んでいた。


 光を避けて歩くその姿が、さらに不審に映るのか。 周囲の視線はいっそう冷たく感じられた。


「早く終わらせて……早く帰ろう」


 任務さえ果たせば、屋敷に戻れる。

 その一心で蓮次は聞き込みを続け、殺し屋の手がかりを探そうと必死だった。


 しかし、時間が経つにつれ、胸の奥にじわじわと不安と孤独が広がっていく。

 冷たい視線にさらされるたび、静かに心がすり減っていった。


「……どうして、皆、こんな目で……」


 感情を抑え、冷静に行動せよ——それが父の教えだった。

 だが、その教えにも、限界が近づいていた。


 胸の内に痛みが残る。

 表情に影が差す。


 誰とも目を合わせたくなくて、蓮次はふたたび路地裏に身を潜めた。


 傷の疼き、心のざわめき。どれも簡単には消えてくれなかった。


 ため息をついても、状況は変わらない。


 それでも蓮次は立ち上がり、また歩き出す。

 影をたどるように足を進めた。


 やがて、夜が訪れる。

 冷たい風が頬を撫でるころ、蓮次はあの橋の下へと向かった。


 湿って冷えた場所だったが、この町の中では唯一、心を落ち着けられる場所だった。


 蓮次は白い頭巾をかぶったまま、影の中で小さく丸まり、目を閉じた。

 白い髪でさえ、夜に溶け込むように静かに……。



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