15.冷たい町の視線
翌朝、蓮次は町の通りに足を踏み入れた。
深く頭巾をかぶり、白い髪を隠しながらも、人々に声をかけ始める。
けれど、頭巾の隙間からのぞく珍しい髪色に気づいた人々は、不安げに視線を逸らした。そして、そそくさとその場を離れていく。
返事は曖昧で、どこか遠ざけるような態度ばかりだった。
それでも蓮次は気丈に、次の人へ、さらにその次へと声をかけ続けた。
「この辺りで、怪しい人物を見かけませんでしたか?」
まともに答える者はいない。
無理もない。自分がいちばん怪しく見えるだろう。
視線は刺すように冷たく、囁き声は耳に届かないふりをしても、心を抉った。
誰もが、どこか一線を引いたまま。
蓮次を遠巻きに避けている。
「……ふう……」
小さな路地に身を寄せ、蓮次はため息をひとつ吐いた。
太陽は中天にあり、町には影が少ない。
陽の光が苦手な蓮次は、避けるように細い通りを選びながら進んでいた。
光を避けて歩くその姿が、さらに不審に映るのか。 周囲の視線はいっそう冷たく感じられた。
「早く終わらせて……早く帰ろう」
任務さえ果たせば、屋敷に戻れる。
その一心で蓮次は聞き込みを続け、殺し屋の手がかりを探そうと必死だった。
しかし、時間が経つにつれ、胸の奥にじわじわと不安と孤独が広がっていく。
冷たい視線にさらされるたび、静かに心がすり減っていった。
「……どうして、皆、こんな目で……」
感情を抑え、冷静に行動せよ——それが父の教えだった。
だが、その教えにも、限界が近づいていた。
胸の内に痛みが残る。
表情に影が差す。
誰とも目を合わせたくなくて、蓮次はふたたび路地裏に身を潜めた。
傷の疼き、心のざわめき。どれも簡単には消えてくれなかった。
ため息をついても、状況は変わらない。
それでも蓮次は立ち上がり、また歩き出す。
影をたどるように足を進めた。
やがて、夜が訪れる。
冷たい風が頬を撫でるころ、蓮次はあの橋の下へと向かった。
湿って冷えた場所だったが、この町の中では唯一、心を落ち着けられる場所だった。
蓮次は白い頭巾をかぶったまま、影の中で小さく丸まり、目を閉じた。
白い髪でさえ、夜に溶け込むように静かに……。




