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  作者: Yonohitomi
一章
12/177

16.夜の追跡


 目を閉じた瞬間に、遠くに蠢く異様な気配を感じ取った。

 夢ではない。現実だ

 それは夜の静けさに紛れるほのかな殺気。


「何かいる」


 蓮次はゆっくりと橋の下から顔を出した。異様な気配を感じる方向へと足を進める。


 ――この気配は、殺し屋だろうか?


 蓮次はついに走り出した。夜の町並みを駆け抜ける。

 意識を一点に集中した。


(おかしな気配、あの屋敷の裏だ。絶対に逃さない!)


 蓮次は屋敷の裏手に回り込んだ。

 そこには、この世の者とは思えない異形――緑色の肌を持ち、奇妙な姿勢で闇に溶け込むように動く、奇妙な存在があった。


「え…!?」


 その化け物の口元には、赤子が咥えられている。


「!!」


 蓮次は小刀を握りしめ、じっと敵を睨みつけた。

 

 すぐに追わなければ逃げられる。そう判断し、身の軽さを活かして一気に踏み込む。


 しかし、目の前の緑の怪しげな存在は蓮次の動きを察知して、すっと闇の中に消え入った。


「…どこに行った!」


 改めて小刀を握り締める。

 辺りを見回しても見つからず、気配を探るも何も掴むことができそうにない。


「……あれは、なに?」


 しんと静けさを取り戻した頃。

 蓮次は先ほどの出来事を思い返す。

 異形――あれは悍ましい姿をしていた。今まで見たこともない姿だった。

 そして、ほんの一瞬で消え去り、行方を眩ませた。


 あれを捕まえなければならなかった。

 捕まえ、殺し、赤子を取り返さなければならなかったのだ。

 怯んでしまった。

 

「失敗した……」 

 

 自分の無力さに落ち込んだ。だが、その時――


 屋敷の奥から女性の悲鳴が響いてきた。次々と怒号と悲鳴が飛び交っている。


 蓮次はすぐさま向かおうと、一歩踏み込む。


「でも……」


 足を止めた。またしても怯んだのか? いや違う、怪しまれるかもしれないと思ったからだ。


 町の人達から向けられた視線――得体の知れないものを見るような視線を嫌というほど浴びて、どれほど自分が異様な存在かを思い知らされた。

 

 ――あの異形と変わらないのでは?


 ふとそんな事を思ってしまう。

 たどり着いた先で、その場の人間達にどう思われるだろう。説明したところで、信じてもらえる保証もない。

 そう、自分は異質なのだ。


 蓮次は悲鳴が続く屋敷を背にする凄まじい自己嫌悪とともに。


 足取りはゆっくりと重い。

 一歩、また一歩と進める中で、今すぐにでも向かえと言う自分と、辞めておけと言う自分が脳内で言い合っている。


 それを俯瞰して聞いている第三の自分が、「お前は何をしに来たのだ?」と言う。


(そうだ、あいつを倒して、帰るって……でも……)


「いや、帰ろう!」


 そう、奴を倒さなければ帰れない。戦うしかないだろう?


 蓮次は無理やり自らを奮い立たせた。





 

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