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  作者: Yonohitomi
一章
11/167

14.悪夢の再来


 夜の冷たさが身に染みる。

 暗がりの中、蓮次は橋の下で小さく丸くなり、じっと身を潜めていた。


 背中の傷が痛むたび、体をすくめ、冷たさが少しでも和らぐようにと、自分の体を抱きしめる。しかし、どれほど体を縮こめても、痛みと心細さが消えることはなかった。


 鼓膜を擽る虫の音は声援だろうか。それとも嘲笑?


 眠りに落ちると、またあの悪夢が蓮次を襲う。


 体の中心を貫くような激痛。

 その後に押し寄せる大きな衝撃。


 それは夢だと分かっていても、鮮明に感じてしまう。


 突然、冷たい何かが体を貫く。

 鋭利な感触はまるで錫杖が心臓を貫くよう。


 蓮次は痛みに声を上げようとするが、喉の奥が張り付き、声が出ない。


 体を引き裂かれるような苦しみの連続。

 そして、空から雷が落ちる。


 雷の衝撃で肉も骨も砕かれる。

 夢の中で体が崩れ落ちるのを感じ、蓮次は呻き声を上げた。


 しかし、崩れ落ちたはずの体はすぐに再生し、再び同じ痛みを繰り返す。


 何度も、何度も、貫かれ、砕かれ、その度に体はひとりでに再生する。


「もう……やめて……」


 蓮次は夢の中で願うが、痛みも苦しみも止まらなかった。

 この夢は、見るたびに徐々に鮮明さを増している。


 悪夢は現実になるかもしれない。

 そんな気がした。 


「わぁっ!!」


 目を覚ました時、妙に心臓が脈打っていた。


 あまりにも鮮明な夢で、まるで現実のような感触が残っている。


 夢を忘れようとすると胸が痛み、思い出そうとすれば、体中が軋む。


「意味が分からない……もう、嫌だ……」


 荒い呼吸を整えながら、蓮次は周囲を見回した。

 ここが暗く冷えた橋の下であることを思い出す。


 光はなく、まだ朝を迎えていなかった。


 心臓はまだ不自然に脈打っている。落ち着かせようと自分の手で胸を押さえたが、奥底に残る不安が消えることはない。


 再び目を閉じることさえ恐ろしく感じる。それでも、体力を温存するために……。


(もう少し、寝よう……)


 そして、また別の悪夢へと誘われる。


 赤い鬼――。


 あの血のように赤い瞳を持つ鬼が、目の前に現れた。


 この鬼は、いつも同じ事を言う。


「鬼になれ」


 その言葉が耳に響くたび、蓮次の胸がまた痛む。何がどう転んでも鬼になる事など考えられない。


 蓮次は首を横に振り、睨み返す。


 しかし、鬼はにやりと笑みを浮かべたまま。


「お前の力は、鬼になってこそ活かされる」


「いやだ……鬼には……ならない……!」


 必死な叫びも虚しく、赤い鬼は迫ってくる。

 蓮次は何かに囚われていて、動くことができない。


 鬼の手が蓮次の顔に触れる。

 

「――っ!」


 目が覚めた。


「……もう、これで、何度目だよ……」

 

 朝が来ていた。


 空は薄く明るくなり、冷たい光が川面を滑るように橋の下を照らしている。

 それはどこか冷酷で、暖かさや安らぎとは程遠いものに感じられた。


 蓮次は橋の下で横たわったまま、ぼんやりと目の前の景色を眺める。


 朝の光は清々しいはずなのに、体を突き刺すように残酷で、背中の痛みも蘇った。


 また、静かに自分の体を抱きしめる。


 人の温もりもない、ただ一人きりの朝。

 傷の痛みは友人だと、蓮次を取り巻く孤独が言う。


「帰りたい……」


 


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