14.悪夢の再来
夜の冷たさが身に染みる。
暗がりの中、蓮次は橋の下で小さく丸くなり、じっと身を潜めていた。
背中の傷が痛むたび、体をすくめ、冷たさが少しでも和らぐようにと、自分の体を抱きしめる。しかし、どれほど体を縮こめても、痛みと心細さが消えることはなかった。
鼓膜を擽る虫の音は声援だろうか。それとも嘲笑?
眠りに落ちると、またあの悪夢が蓮次を襲う。
体の中心を貫くような激痛。
その後に押し寄せる大きな衝撃。
それは夢だと分かっていても、鮮明に感じてしまう。
突然、冷たい何かが体を貫く。
鋭利な感触はまるで錫杖が心臓を貫くよう。
蓮次は痛みに声を上げようとするが、喉の奥が張り付き、声が出ない。
体を引き裂かれるような苦しみの連続。
そして、空から雷が落ちる。
雷の衝撃で肉も骨も砕かれる。
夢の中で体が崩れ落ちるのを感じ、蓮次は呻き声を上げた。
しかし、崩れ落ちたはずの体はすぐに再生し、再び同じ痛みを繰り返す。
何度も、何度も、貫かれ、砕かれ、その度に体はひとりでに再生する。
「もう……やめて……」
蓮次は夢の中で願うが、痛みも苦しみも止まらなかった。
この夢は、見るたびに徐々に鮮明さを増している。
悪夢は現実になるかもしれない。
そんな気がした。
「わぁっ!!」
目を覚ました時、妙に心臓が脈打っていた。
あまりにも鮮明な夢で、まるで現実のような感触が残っている。
夢を忘れようとすると胸が痛み、思い出そうとすれば、体中が軋む。
「意味が分からない……もう、嫌だ……」
荒い呼吸を整えながら、蓮次は周囲を見回した。
ここが暗く冷えた橋の下であることを思い出す。
光はなく、まだ朝を迎えていなかった。
心臓はまだ不自然に脈打っている。落ち着かせようと自分の手で胸を押さえたが、奥底に残る不安が消えることはない。
再び目を閉じることさえ恐ろしく感じる。それでも、体力を温存するために……。
(もう少し、寝よう……)
そして、また別の悪夢へと誘われる。
赤い鬼――。
あの血のように赤い瞳を持つ鬼が、目の前に現れた。
この鬼は、いつも同じ事を言う。
「鬼になれ」
その言葉が耳に響くたび、蓮次の胸がまた痛む。何がどう転んでも鬼になる事など考えられない。
蓮次は首を横に振り、睨み返す。
しかし、鬼はにやりと笑みを浮かべたまま。
「お前の力は、鬼になってこそ活かされる」
「いやだ……鬼には……ならない……!」
必死な叫びも虚しく、赤い鬼は迫ってくる。
蓮次は何かに囚われていて、動くことができない。
鬼の手が蓮次の顔に触れる。
「――っ!」
目が覚めた。
「……もう、これで、何度目だよ……」
朝が来ていた。
空は薄く明るくなり、冷たい光が川面を滑るように橋の下を照らしている。
それはどこか冷酷で、暖かさや安らぎとは程遠いものに感じられた。
蓮次は橋の下で横たわったまま、ぼんやりと目の前の景色を眺める。
朝の光は清々しいはずなのに、体を突き刺すように残酷で、背中の痛みも蘇った。
また、静かに自分の体を抱きしめる。
人の温もりもない、ただ一人きりの朝。
傷の痛みは友人だと、蓮次を取り巻く孤独が言う。
「帰りたい……」




