13.孤独な任務
まだ傷の痛みが引かない朝。
蓮次は父に呼び出された。
ふらつく足で部屋へ向かうと、冷たい視線を向けられる。父は無言で蓮次の顔をじっと見つめた。
蓮次は姿勢を正し、父の前に座る。
任務の報告と失敗について謝罪するつもりでいたが、父はそれには深く触れなかった。
「さて、行ってもらいたいところがある」
父の声は淡々としていた。まるで日常の用事を命じるように。
「子供を狙う殺し屋の噂を聞いている。蓮次、お前が向かえ」
「え?」
「お前ならば問題なかろう」
蓮次は思わず自分の背中に手をやった。重ねた包帯越しに、じんとした痛みが蘇る。まだ治りきっていない傷が疼いた。
だが。
父の表情を見て、逆らう気にはなれなかった。
「あの、父上。町に向かって、何をすれば」
「もちろん、その者の始末だ。お前の気配を読む力は、こういった任務にこそ相応しい」
「でも……」
「お前には大きな期待をかけている。今のうちに、力を存分に活かしてもらいたい」
「……はい」
父の言葉に従う以外ないことを悟り、蓮次は頷いた。
うっすらとした違和感が残る。
任務を告げる父の声には、ほんの僅かだが、どこか厄介払いをするような冷たさが含まれているように感じられた。
父は家来に命じ、蓮次に少量の金銭と頭巾を渡させた。
「町の人間に余計な目立ちはするな」
蓮次の白髪はただでさえ目立つ。そのためにこの頭巾をかぶれ、ということらしい。
受け取った頭巾を握りしめ、蓮次は背中の傷をかばいながら、心細い気持ちを押し殺して屋敷を後にした。
町に着くころには、日はすっかり暮れていた。背中の傷が痛むたび、蓮次は足を止め、ふと振り返る。
「家に帰れるのは、いつになるのだろう」
与えられた金銭は少量。どこかに泊まるにも到底足りない。
蓮次は仕方なく、薄暗い橋の下へ向かう。
体を縮こませて座り込んだ。
壁にもたれかかれば、石の冷たさが背中の傷にじんわりと染みる。
「父上……」
小さな声で呟いてみても、返事が返ってくるはずもない。
身を寄せ合うものがない孤独な夜。
蓮次は橋の下で身を丸めた。
なぜ父上はこんなにも早く、傷の癒えていない自分を任務に送り出したのだろうか。
考えると視界が滲んだ。
ぽたり、ぽたりと落ちるのは……。




