1.痛みの理由
——熱い。
焼けつくような痛みが、容赦なく全身を貫く。
意識が霞み、朦朧としたまま何度も地に叩きつけられる。体が砕け、血が広がり、骨が裂ける音が響いた。
これは罰なのか、それとも試練なのか——
何度目の拷問だろう。
数えることすら無意味になった頃には、痛みと再生を繰り返すことにすら慣れつつあった。
それでも、終わりは来ない。
目の前に、巨大な鬼が立っている。
——暗く、深い憎悪を纏って。
その鬼は冷たく蓮次を見下ろしていた。顔が見えない。ただそこにいる。
圧倒的な威圧感とともに、じわりと手を伸ばしてくる。
再び、胸の奥が灼かれるような痛みが走った。
「ッ……!!」
呻きが喉でせき止められ、息すら奪われる。
毎度見る、意味の分からない夢。
ただひとつ、確信を持てることは――
「助けに……来ないでください……」
父上がここに来ることだけは、絶対に望まない。
これは、自分だけの戦い。ひとりで耐え抜かなければならない。
何度も何度も意識が砕け散りそうになる中、蓮次は暗闇の中で、必死にそれを自分に言い聞かせた。
——グシャッ!
次の瞬間、視界が真っ赤に染まり、すべてが闇に落ちた。
___
目が覚めた。
「はぁっ……はぁっ……」
天井を見つめ、肩で息をする。
重たい空気がまだ体にまとわりついていた。汗が額から滴り落ちるのを感じる。
胸の奥には、今も拷問の痛みの余韻がくすぶっていた。
——夢、か。
小窓から外を見ると、朝の光が庭の緑を照らしていた。眩しすぎるほどに。
剣が交わる音が微かに届いてくる。
兄の低く鋭い息遣い。
弟の焦ったような動き。
そして、父の重みのある声。
自分だけが、この薄暗い影の中にいる。
窓の外は、別世界のように輝いているのに。
ふと、自分の手を見た。
指先はどこか冷たく、血の気が引いている。
蓮次は静かに目を伏せる。
——自分には、この暗がりがお似合いだ。
これは
まだ何も知らぬ少年が
やがて逃れられぬ運命へと
引き込まれていく物語——
この夢は
静かに忍び寄る運命の影だった