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  作者: Yonohitomi
一章
1/177

0.鬼



「なぜ助けない! お前の子だろ!」


 と叫ぶ声。

 親は黙ったまま、動かない。

 我が子を見殺しにする親は、この世に存在すると思うか?

 もし存在するならば、それは「鬼」だ。


 鬼は元々、人間だった。

 生きることが辛く、絶望し、極限の苦しみの中で鬼となった。

 沢山の人間たちが鬼になる。

 力を持った鬼たちは人間を襲い、殺した。

 鬼と人は争うようになった。


「全部お前たちが悪い」


 鬼は人間を見つければ乱雑に殺した。

 喰いもした。

 人間の味を覚えた鬼は、好んで人間を喰うようになった。


「鬼を見つけたら殺せ」


 人間は鬼を根絶やしにしなければならないと言った。

 そして、鬼に勝つために知恵の限りを尽くした。


 人間は正義で、鬼は悪。

 これは人間が決めた事だ。

 その線引きをしたのは、鬼にならずに済んだ人間たち。誰かに愛され、守られ、恵まれた環境で生きてきた者たちだ。


 彼らは言う。


「鬼は異常者。鬼は人間の欠陥だ。すべて殺せ」


 異常者とは何か。

 人間はこの世の「正常」で、鬼は人間の「異常」なのだ。

 その境界線を引いたのは、常に「正常」と呼ばれる側だった。


 人は鬼を殺すために、あらゆる手を使った。

 騙し、罠に嵌めた。

 本能のまま生きてきた鬼たちは、人の知に勝てない。

 鬼は理解し、山奥へ逃げた。


 隠れて暮らせばいいだろう?

 人間と関わらなければいいだろう。


 鬼達はひっそりと自然の中で暮らし始めた。

 やがて、鬼の中に愛を育む者が出て、子を持った。

 子は、生まれたときから鬼であった。

 この世を恨んだことはない。

 無垢に笑い、遊びに出かけた。


 鬼の子供は人間を知らない。

 ただ、目の前の生き物に近づいて、自身と同じ姿のそれに声をかけただけだった。


 だが、殺された。何もしていないのに。


「なぜだ」

「どうして殺される」


 鬼だからだ。

 鬼の子も、鬼なのだ。

 鬼として生まれた。だから、悪とされ、痛めつけられ殺される。


 人々は弱い鬼の子を狙い始めた。

 親の目の前で子を殺した。

 子の目の前で親を殺した。

 鬼とて、親も子も、大切な存在で、愛すべきものなのだ。


「許せるはずがないだろう?」


 鬼たちの怒りは再発し、また人々を襲う。

 人と鬼の争いは終わらない。

 何度でも、繰り返される。


 だが――その争いを終わらせたいと願った者がいた。

 それは鬼の中の、異常者だ。


 人と分かり合えると考えた、異常な鬼。

 鬼でありながら、人を信じたいと願う異端。


 馬鹿だ。


「ああ、私の息子だ」


 鬼の親は呟いた。

 大きな争いの中、一族を率いて逃げてきた。だが、その中で――息子だけが囚われている。


 話せば分かり合えると言った馬鹿な息子。

 人を信じた結果がこれだ。


「見捨てるのか」


「…………」


「助けてやらんのか」


「…………」


 助けるべきだと思うか?


 人間の裏切りを何度も見てきた。

 ゆえに、最強の鬼に育てたのだ。

 人に勝てるよう、人を支配できるように。

 二度と踏みにじられぬようにと。


「あの子は強い。自ら逃げる事も、戦う事もできる」


「だから、助けない……と?」


「そうだ」


 あれは最強の鬼なのだ。

 つまり、あの子は自ら死を選んで囚われている。


「助けてくれるな……と、そういうことだ」


 周りの鬼たちは言葉を失った。

 赤髪の鬼は声を荒げた。助けに行けと、殴りかかるように。それを止める青髪の鬼は目に涙を溜めていた。本当は、誰よりも助けに行きたいはずだ。だが、それが出来ないのだと、赤髪の鬼を説得する。


 騒がしさの中、鬼の親は遠くを見つめて動かない。

 何も言わず、涙を流すこともない。

 ただ、ずっと思案している。


 そして、その夜、問いかけた。

 ――お前は親を許したのか、と。



 









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