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第七話 貸しと借り

「メリッサ〜待ってくれよ〜!こんなにきついなんて聞いてないよ〜!」


「全く。貴方は本当に貧弱ね!」


ーうぅ..。エレベーターもエスカレーターもないのかこの世界は??

3階にあるとは聞いていたが、1階登るのに必要な労力でかすぎんだろ。

東京タワーの展望台に階段で行くみたいだ..。どこまでも続く階段..。

くそ、心なしか酸素濃度が薄くなってきた気がする..。


「本当に貴方ってどうしようもないよね〜」


はぁ、罵倒じゃなくて激励が欲しい。さっきまでのメリッサならきっと、

『大丈夫!?一緒に登る?』とか言って、肩取り合ってくれそうなものを..。

あいつ!少し登った先で散々煽り散らかして..。

そんなに離れたらまたお婆さんになる

ってのに、、、今だって俺の回復能力がなけりゃ..。


ー回復....。あ....。


「なーんだ!自分の体力を回復させればよかったんだ!!」


自己回復自己回復自己回復..。

そう頭の中で念じるとあらビックリ!!


「か、身体が軽ーい!!凄いぞ俺の回復能力!単純な疲労回復だけでなく、

慢性的な引きこもり生活の弊害による身体の各部の凝りまで綺麗にとれてる!

スッゲー便利な力....。なぁメリッサ!俺まだ余裕あるーーーー」


「ん..?どこじゃここは?お主、何か存じ上げぬか?」


お婆ちゃんになっている。


ーなるほど..。自分の回復と他者の回復は同時には行えない..。

となると、俺にある選択肢は、メリッサを元通りにし、息を切らしながら

5階まで登る..。それか、お婆ちゃんになった彼女を担ぎ、

常に自身に体力回復をかけながら登る。

断然後者だな。考えるまでもない


「お婆ちゃん」


「何じゃ?」


「俺、担いでいきますよ」


案の定、鎧まで装着したメリッサは想像を遥かに上回る重さで、

彼女を持ち上げた瞬間俺の筋繊維は断裂した。

回復でどうとでもなるが、あの痛みがずっと続くなんて冗談じゃない。

肉離れは一回だけで充分だ。


「お婆ちゃん。鎧は脱いで貰えませんか..。重くて抱えられないんで..」


ー絶対に聞き返されると思ったが、案外素直に受け入れてくれた。

しかし鉄製の分厚い鎧の下はどうなっているのか気になってはいたが、

意外に普通だ。黒の下着で、お婆さんの見た目も相まって、

”そういう”感情は一切湧いてこない。


「ヨイショ」


「重くないかい?」


「ええ。今度は平気です..」


とは言っても、人一人おんぶして階段を登るのは何気にキツい。


ーはぁ


20分くらい、階段を登っただろうか?

にしても、長い階段を歩いていると、まるで自分が水平に歩いているような

妙な錯覚に陥るから不思議だ。油断していると上体は仰け反り、

危うく落下しかけた事が数度あった。


「さて!登り終えた事だし。あの口悪女も戻してやるか!!」


ー敢えておんぶした状態で戻してやろう!



ー「あれ??私ーーーー」


「全く感謝しろよな!3階までおぶって、」


「ふざけんな!!」


「ちょいちょい!まだ中に入ってないし、螺旋階段の途中で暴れんなって、

手すりついてないんだから、落ちたら死ぬぞ」


「......」


あ。大人しくなった。


「後、どのくらい?」


「もう少し上がれば着くよ」


「そ」


「え?降りないの?」


「そうね、降りるわ」


さっきまで彼女の膝を抱えていた手から、するりと重りが取れる感触があった。

メリッサが階段の上に移動し、俺を見下げた。


「な、何?」


「疲れたでしょ?次は私がおんぶしてあげるから」


「え?いや、常に体力回復をかけてたから、全然疲れていないし、

むしろスッキリしているよ」


「うわ..。おんぶしてスッキリするとかキモすぎて引くわ..。

で、でもね!かけられた借りは返さないと!」


あ..。そういうのはマメでいらっしゃるようで..。


「いや、ご遠慮しておきます」


「ちょ!どうして?」


「もう着いたし。メリッサの横に扉あんじゃん」


「あ....」



「もう!着いたんなら初めからそう教えてよ!」


「あっはは..。ごめんごめん....」


ー王立図書館


もっと綺麗なの想像してたんだけどな..。


「何だよっ!このジメジメした場所!!無造作に並べられた本から黒色の

変なモヤみたいなの出てるし汚いしカビだらけで臭い!!」


ーそれに


さっきから悪寒が止まらない。本から発せられる謎のモヤに触れてからずっと..。

さすが、<呪い>に関する文献なだけある。


「何言ってるの?私は何ともないわ!!」


「そりゃ..。お前は脳筋だし..頭イっちゃってるから..」


「何か言った?」


「な、何も〜....」


「それより!早く私にかかった<老化の呪い>に関する本を探さないと」


「そうだね。司書さんとかはいないのかな....」


まぁ、こんな薄気味悪い場所に、人なんているはずないか..。


「なぁメリッサ..。一応聞くけど..、この世界って日本語対応している....」


ーあ..あれ


「め、メリッサ!!」


ーい、いない....?


          あーーーーー


「メリッサ!!!!」


ーどうなっている?おかしい!俺は彼女に、常に回復能力をかけている!!

かけているはずだ!!


「メリッサ!!どうして..、口から”血”がーー」


意識が、なくなっている..。


「くそ!!どうなってんだよ!!」


お婆ちゃんの身体にはなっていないから、俺の回復能力が使えなく

なったわけではないと思う。しかしーー


きっと、何か想定外の事態が発生したんだ..。

だとすれば考えられるのは、この図書館ーー。黒いモヤは、

依然本から発せられている。


「まさか..。彼女の<呪い>に、文献に記された<呪い>が反応しているとか

じゃぁないだろうな......」


ー「正解」


その時だった。俺の目の前に、金髪で緑色の瞳を持つ、一人の女性が現れた。

耳が長いから、エルフに違いない。それに、丸メガネをかけている。


「お、お前..」


「私の自己紹介はひとまず後で良い。今はそちらの娘の身の方が優先だ。

早く書庫の外に連れて行き、仰向けに寝かせた状態でしばし安静にさせろ。

さもないと、彼女は『死ぬ』ぞ」


ー死ぬ


その言葉が脳裏に響いた瞬間、思考するより早く、俺の身体は自然と

彼女を抱き抱え、書庫の外に向かっていた。


「ふん..。面倒だが、また結界を貼り直さねばな。


        『"アトモス・エミリトス”』


彼女がそう唱えると、書庫な中の本から出る黒いモヤが、

徐々に引っ込んでいった。


「危ない所だったな。その娘、魔女の<呪い>にかかっているだろう?

図書館の本は、<呪い>特に、魔女の<呪い>に反応し、被呪者の身体

に集まるんだ。無論、集まるのは本ではなく、<呪い>だけどな..」


ーゴクリ


なるほど。だからあんなに悪寒を..、あれは呪いだったのか..。


「しかしどういう事だ..。彼女にかかった<呪い>のいくつかは、

既に消滅しておる..。複数絡み付いた<呪い>を解くのは..、幾重にも

結んだ紐を解くも同然だというのに....」


「ああ..。多分、それ俺の能力です」


「な、何だって!!これだけの<呪い>のほとんどを、全部お前が..。

どうして、お前は人間だろ!ワシですらあの数はどうにもならんというのに..」


そうか..。メリッサが倒れたのは、

いくつもの<呪い>を複数個同時にくらったからで、

俺の能力もその全てを瞬時に無効化するほどのものではない、とー


「ワシはお前に興味が湧いた!!お前は何者だ!?それほどの使い手

なのに、何故お前の名はワシの耳に届かない?」


あーあー目をキラキラ輝かせちゃって..。


「まぁまぁ一旦落ち着けよ。俺の名前は渡良瀬剣。

異世界から転移してこの世界に来たんだ。<呪い>を

解けたのは、俺の加護の、回復能力のおかげ。よろしく」


「い、異世界転移!?」


「はは..。<呪い>より、やっぱそっちのが気になるよな..」


「いや、それもそうだが、ツルギ殿が持っているその強力な加護..。

それで<呪い>が解けるのか..。す、凄い!!」


「そうなんです..。俺の加護は、自身の回復と、半径5m以内にいる

他者の回復のどちらかが選択式で発動するんです」


「あ..。な、なななななな」


言葉を失っている。

エルフでも、感情豊かな奴はいるんだな


「じ、じゃあそちらの娘は??ツルギ殿の奴隷か??」


おいおいやめろやめろ..。聞かれてたらどうすんだ....。


「ち、違いますよー!!彼女は俺の友達..違うな....、

仲間..、もちょっと違う..し、知り合いです!彼女にかけられた

ある<呪い>を解くために、俺たちは旅してるんですよ!」


「お、お前でも解けぬ<呪い>があるのか??」


「そうなんです..。ご存知ですか?<老化の呪い>って??

何故か俺の能力でも解けなくって..。発動している間は良いんですけど、

5m以上離れると、彼女はお婆ちゃんになってしまうんです」


「それはそうだろ。<老化の呪い>は魔女の呪いだ。

魔女の呪いを解くには、魔女を殺すしかない。しかし、魔女は死んだはず..」


「そうなんですよね。だから困っていて..。スタンリューマさんに、

何か手掛かりがあればとここを紹介された次第です....」


「ふふ..。奴らしい判断だな。しかしその判断は正しい。

さっきツルギ殿が訪れた書庫には、<老化の呪い>に関する書物が

いくつか存在する..。しかし、、」


「な、何です?」


「書物に記載されている文字は、全て旧字体..。人間には到底

解読できん。ワシなら読めるのじゃが....」


彼女は目元をさすった。いや、メガネをさすったと言うべきか


「数年前、ワシはある病気にかかり、著しく視力が低下した。

文字はメガネをかけていてもぼやけているから見えない。

以前のように普通に働けなくなったワシは、今はこの、、

王立図書館の3階司書を務めておる....」


ーそれでもクビにされないという事は、

やはりこんなとこに来るような物好きはいないという事だろう。

光を失った彼女の適所といえば聞こえはいいが、要は左遷部署だ。


「あの..。貴方のお名前を、教えて貰えますか?」


「サーニャ..。サーニャよ」


「サーニャ..ですね」


              


「もう、見えるはずです」


「え..。そ、そんなはずはーーーー」



「み、見える!!見える!!遠くの景色があんなにはっきり!

でも、これは一体..」


「言ったじゃないですか!俺の能力は回復です。<呪い>だけでなく、

体力も、視力も、全部元通りに出来るんですよ!」


「な..何て素晴らしい力..」


「..。とにかく、これで<老化の呪い>に関する書物は解読出来ますね」


「あぁ勿論だ!」


また一歩、俺の異世界転移の意味ーー


 その終着に向かう足音がした。

















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