第六話 帰ってきたヒロイン
王立図書館ーー
エルフの森に現存する木の中での最も古いものは、始祖のエルフが誕生する
以前から誕生していたとさえ言われている。
その木の幹をくり抜き建造した巨大建築が図書館として使われているそうな。
「エルフは寿命が長い。だから無駄に凝った建造物が多いんだ」
ーそれもそのはず
エルフの歴史は人類史なんかとは比べ物にならないくらい長く、そして濃い。
彼らの寿命は数千年あるとも言われ、外見からは不相応の歳を重ねているのは
お決まりと言っても良いくらいだ。
俺は今、半径5m以内のどこかで用を足しているメリッサを待つんで、
エルフの王と一緒にいる。名前は確かスタングレネード?みたいな感じ。
「で、その王立図書館で、性行為の知識を吸収って....。
ふふふ。1日1回..。
ありとあらゆるジャンルでマスターベーションしてきた俺が
そんな知識今更知ったところで....」
「じゃあ君。体位はどのくらい知っている?女性器の仕組みは?」
「え..。女性器ってモザイクかかってるんじゃないの?」
「話にならないな。君はもしや、本番が来れば本能の赴くままに出来るだなんて
思っていやしないかい?それはあまりに身勝手すぎる。第一、性行為は己が快楽
を追求する前に、パートナーとの愛情表現だという事を忘れてはいけない」
「あっはは..。でも”愛”って所詮”性欲”っていうか..」
「何を言っているんだ?愛は世界で最も尊く、そして素晴らしいものだ。
エルフは長寿ゆえ、数千年に一度しか発情期は来ないが、
それでも夫婦は存在する。
そして彼らに性欲は存在しない。分かったろ?愛は偉大だと?」
「はは!いますよねそういう愛を異常に持ち上げたがる人!!
でも、この世に愛は存在しないんですよ。ただの繁殖活動を無為にしないために、
それは素晴らしいものだっていう”価値観”の押し付け。ありもしない青春を売りに
モテない豚どもを釣る娯楽の類..。愛は今や、資本主義に取り込まれたんだ..」
ー数分後
「ごめんお待たせ。二人で何の話をしていたの?」
「おいメリッサ。この男とは性行為しない方が良い。
一生癒える事のない心の傷を作りたくなければな」
♢
「あの〜。性行為はしないにしても、どうして図書館に向かうんですか?」
「呪いについての文献を漁る。代案を練るぞ」
にしても、両手に花とはまさに今のこの状況を指すのだろう。
金髪で外人風の美人なお姉さん。そして黒髪美人のエルフさん。
生前では考えられないようなシチュエーションだ。
ー俺たちは今、図書館とやらに向かうため、
整備された森の中の道を歩いている。両サイドには巨大樹が立ち並んでおり、
木々の中腹にツリーハウスがちらほら存在する。
「気になるか?」
「は、はい..。あんな高い所に家があるなんて..」
無論、隣を歩くエルフの王様の家もツリーハウスだった。
別にそれだけなのだが、高所にあって不便ではないのだろうか?
上り下りは木の幹を囲うように出来た木製の螺旋階段となっているから、
何故平屋建てにしないのかが気になる所だ。
「エルフは元々、この大森林の一小生物に過ぎなかった。しかし、長い年月を
経る内の進化の過程で、私たちは今の姿を獲得した。それは、人間も同じだろ?」
同じ?同じ、か?少なくとも、耳の形は違う
「ねぇツルギ!!見て見て!あそこにあんなでっかい木があるよ!!」
「ふっ..。全く..。あの女は能天気というか..。自分の置かれた状況が
イマイチ把握しきれていないようだな」
「そうですかね??」
俺の目の前を小走りで駆けていくメリッサを見ながら、思った
「知ってますか?あの子はたった一人で、この世界の魔王を倒したんです」
「ほう、魔王は死んだのか?」
「はい。だから、俺が異世界転移したのはきっと、
そんな彼女を、助けるためだと思うんです」
「なるほどな。つまり呪いを解くのは、意志ではなく義務だと?」
「違います。
ーーー「俺の意志です」
♢
「うわぁ!凄い広ーい!!それに良い匂いがする!!」
「だろ?ここはエルフの森の中心部だからな。呪いに関する書籍は
全5階のうち3階にある。広い、、それにお前らは半径5mのルールも
あるから絶対に迷わないように。私は家に戻る。用があれば、いつでも
来てくれて構わない」
「はい!スタンリューマさん!ありがとうございます!!」
「え、えっと....。俺も、はい..、あざっす」
エルフの王様は、その場で軽く会釈をし、足早に去っていった。
さて、、、、
「じゃあツルギ!!早速向かおっか!!」
二人きり!!いや待て待て落ち着け..。
森に来るまではずっと二人きりだったろう..。
確かにあれは幻覚だったにせよ、彼女が彼女である事に変わりはない。
そうそう..。
今のちょい天然奔放キャラという俺の性癖に刺さりまくりの彼女じゃなくて、
前みたいな性悪女を重ねて考えるんだ!
「ねぇ。何モタモタしてるの?ウジウジしてて気持ち悪いんだけど?」
ーそうそうこれがメリッサ..。って、え??
「そんなにジロジロ見てこないでよ。視姦してるの?」
「ち、ちょいちょい!!待て待て!!エルフの王様は俺を治療したんじゃなかった
のかよ!?また元に戻っちゃってんじゃん!!」
「は?治療?何の話??それより早く呪いの文献を集めないと」
ーどうなっている?
ここに来てから話の辻褄が合わない事が多すぎるぞ..。
「メリッサ!!」
「なに?」
「せ、性行為って、、知ってるか!?」
その日、俺は自分の人生史上一番強烈なパンチを腹に喰らった。