第四十四話 死
ー魔族
「魔族。私は魔族よ」
「ばかな..。だって魔王も魔王軍幹部も、お前が殺したって..」
「ええ、そうよ。殺したいから殺しただけ。人間だって、たまに人間を殺す人間が
現れたりするでしょ?あれと何も変わらないのーーさて、こんな無駄話はさておきー」
「殺し合いを再開させましょう」ーー
瞬間、冷徹な彼女の眼光がドス黒い色に染まり、瞳孔は猫のように、
縦へと細長くなったーー
「私の”加護”は、もう知っているよねーー」
三次元造形
「ツルギ。貴方は私の能力を使うに、、相応しい人ーー」
私の能力は、自分の視界に触れた物をー
ツルギは真正面 魔法の詠唱はしていない 加護を使って傷口を癒しているのねー
あ、やっと動き出したー手に何か握られている??あれは木片??意図は何??
ーそんなの、関係ないでしょ
『silva creatio』
メリッサが呪文を唱えた。
すると剣の斜め上を目掛けて枝が伸び始めた。
一本の川から、新たな分流が生まれるように、
あの、バオバブの木のように太く長い木の側面からは、次々と新たな枝が生まれていく。
剣はその移り変わりを、ただ傍観する他なかった。
「ツルギ..」
どこからともなく、メリッサの声がした。
枝は尚も、成長する速度を緩めない。
剣は悟った。これが、”魔女”の力ーーだとするなら..。
そこで、彼の意識は途絶えたーー
♢
「ツルギ」
「あれ..。ここは..?」
「困惑するのも無理はないよね。ここは全ての生命の源流ー
言い換えるのなら、”死後の世界”とーそう表現するべきかな..」
「死後、、そっか..。俺、あんたの能力で、枝に絡まれて、
そのまま身動き一つ取れない状態で、、、」
死
それはあまりにも唐突だった、油断していた。回復能力を持っている限り、
何遍死んでも問題はないと鷹を括っていた。でも、実際は違った。死んで回復
出来るのは、死ぬ直前に、回復するよう能力を発動した時のみで、ついさっきの
ように、とりつく島も、思考の余裕もなく殺されればそれっきりだー
事実、俺は死んだ。
「でも、メリッサ。君がいるって事は、君も死んだんだね..」
悔しいーー結局、スタンリューマを助ける事は出来なかった。
魔女と相討ちになったーと言えば聞こえは良いけど、助けられなかったという
結果に変わりはない。
「俺は、、この世界で、、何をしていたんだ....??」
「....」
「なぁ..。聞いてくれよメリッサ..。俺さ、前の世界に、好きな子がいたんだー
でも俺..僕は、その子の事を突き放した..。突き放して、もう、赤の他人になって、
散々軽蔑しといてさ....。僕はまだ、、その子の事が、、好きだったんだ」
「....」
「でも、好きだって認めたくなかった。『ごめん』と一言謝る勇気がついた時には、
その子はもう、、ずっと遠くに行ってしまっていた....」
「剣」
「何だよ..。メリッサ..」
「最後にして、、最悪のネタバラシをしていいかい?」
「....。ネタバレは、あんまり好きじゃない..」
「そう。じゃあ質問を変えるわ。あなた、スタンリューマの事、好きだったでしょ?」
「そ、それは..」
「良いのよ。分かってる....」
「スタンリューマの能力はね..。生まれつきだった..。加護だからね..」
「....いきなり何の話..?」
「彼女の能力の仔細は知っているでしょう?精神操作。
彼女のせいで、私は性悪ドSキャラを演じる羽目になって、それで逆上した貴方に、
殺されかけたものーー。本当に忌々しい力だわ」
「ははっ..。性格悪いのは元からなんじゃない?」
「ち、違うわい!魔女だからってバカにして..。わ、私はただ、純粋に人を殺せれば、
それで自己欲求は満たされていたの!」
「へ、へぇ(ドン引き)」
「それでね。彼女の能力は生まれつきで、その弊害か..。はたまた運命か....」
「彼女には、前世の記憶があった..」
「え....」
「あはは..。驚くでしょ?でも、貴方はもう、それに薄々気付いていたはず..」
キューラが死ぬ間際、こう言ったー
『スタンリューマには、もう一つの人格がある』とー
「で、でもさ..。前世の記憶があるのに、何でそれと、人格が分離する事に..」
「演技よ」
「は..?」
「それも、絶対にバレない演技。言ったでしょ?彼女の加護は精神操作ーー
操れるのは、他人だけじゃなくて、自分も。だから、彼女は自らを欺き続け、
スタンリューマという、新たな人格を作り出した」
「で..でもどうしてそんな事を..」
「あら?貴方も経験あるでしょう?人はね、あまりにも大きなストレスに耐えられる程
丈夫には出来ていない。だから脳は、自己防衛のための様々な策を講じる。
貴方が以前患っていたそれ(離人症)も、その一つでしょ?それと同じ。
スタンリューマの前世、その人をSと仮定しましょうか。Sは前世の記憶のまま、
この世界に来た。見知らぬ環境、見慣れぬ身体ーー未成熟の、まだ、赤子よ」
「....」
「当然、話す事も、歩く事も出来ない。頭では分かっているのに、伝えられない。
だから、普通はそんな子らを、周囲の人は守るのーー血縁者がね。でも、転生した
Sの新たな器に血縁者はいなかった。いいえ..。母親はSを産んだ直後に殺処分、
族柄として所謂”父”にあたる人物はいた。でも、父はSの事を、自分の娘だとは
思っていなかった。ただの実験材料ーーその証拠に」
「生後1ヶ月の時ーーSは耳を切断された。ほら、赤子は傷の治りが早いから、人間でも、
指なら生えてくるって話あるでしょ?でも、エルフの治癒能力は人間を凌駕している。
だから、人間なら欠損したままの耳でも、エルフなら生える。これは非常に重要な事。
Sの父、ラマーヌ人の研究員は、エルフの身体機能と人間の頭脳を併せ持った高次の
種を作ろうとしていたから。そして、実験は成功したーー」
「Sの成長曲線は、人間と同じ弧を描いたわ。いえ、寧ろ人間よりも賢かったか..。
当たり前よね。Sは生前の記憶を持っているのだから。初めから知能は高いのよ」
「でもね..。この時からか、Sの心は壊れていった。Sは、虚空に向かって、
『お姉ちゃん』という、存在しない人物に語りかけるようになった。でも、
研究員は特に心配しなかったわ。幼少の子供が、イマジナリーフレンドを作るという
話は、何も珍しい事ではないからね。でも前述の通り、彼女は転生者ー
確かに見てくれは子供だけど、精神年齢とは乖離している。つまり、彼女が語り
かけていたのは、イマジナリーフレンドではなかった。それが、彼女のもう一つの人格。
彼女の作り出した『お姉ちゃん』という、別の人格ーー」
「そして、彼女の作った別の人格が、元あったSの人格と同化した時、彼女は初めて、
自分に与えられた加護を自覚。そして、ラマーヌ人を単独で滅ぼしたーー」
「ち、ちょっと待ってくれよ..。じゃあさ。俺と知り合ったスタンリューマは、
Sと『お姉ちゃん』の、どっちだった..?」
「あれ?気付いたいなかったの?私はてっきり、両方に会っていたものだと
思ってたけど..。どうしてかしら..。回復能力を使った時点で精神操作は
解けるのに..。何か他の条件があったのかな..」
「おいおい..。一人で話を続けるな。どっちだったんだ?」
「あぁ..。じゃあ質問するけど、君の見てきたスタンリューマは、
感情の変化に乏しかった?発情期とかを除いて」
「うん..」
「じゃあ『お姉ちゃん』の方だ..。でも可笑しいな..。てっきり知っているものだと..」
「だから何が?くどいぞメリッサ!」
「あっははゴメンゴメン..。とにかく私が言いたかったのは、スタンリューマも、
お前の事が好きだったって事さ!」
「言葉も出ないようだね。
とにかく続けさせて貰うけど、スタンリューマは君の事が大好きだった。
いいえ..、正確に言うのなら、『お姉ちゃん』じゃなくて、Sの方がね....」
「S..?矛盾していないか?だって俺は、、Sに会っていないはずだ..」
「会ってるよ」
「だからその記憶がないんだよ。はぁ、、マジで意味わかんねー..。
くそ、話してたら喉乾いてきた。足元に流れてる光の粒でも飲むかね..」
「飲んじゃダメだよ..」
「え?なぜ?メリッサは喉乾いてないのか?」
「....。もう、カラカラだよ..。でもさ、ここの光の粒は、絶対に飲んじゃダメ..。
良い??ここはどこだか説明するために、ツルギ..。貴方は『エネルギー保存の法則』
って、知ってる??」
「あぁ知ってるよ!中学で習ったなぁ..」
「だったら話は早いわ。良いツルギ..。ここは死後の世界。そしてあらゆる生命体の源流ー
既に死んだ生き物の魂に載せられたエネルギーが、再び還元される場所だと私は考察する」
「???」
「あぁもう!!じゃあ超噛み砕いて説明するとね!!私たち生命体は、元は一つの大きな
エネルギー体の一部だったというのが、私の考えよ」
「あのさぁ..。何か分かりやすい例えとかってある..?」
「....。例えばね、、魔法は私の身体の中の魔力を消費するでしょ。つまり、体内の
エネルギー体..。すなわち魔力に相当するのがこの空間。そして体外に放出される
魔法が、私や貴方みたいな、個々の生命体という考え方よ..」
「ほぉ..。つまり、我々生命体一つ一つをエネルギーに例えるとするなら、、
それらが死した後に回帰する場がここであると..。それで『エネルギー保存則』ね」
「そうそう..。だからこの光の粒は、エネルギーの結晶体ーー
そしてこれを一度飲んでしまえば、私たちの身体は消えて、この流れの一部になってしまう。
以上が、私の出した結論」
「....。それで、メリッサはここに一年もいたのか..?」
「えぇそうよ。きっとツルギが蘇生してくれるって思ってたから。
でも流石に遅すぎよ。後3ヶ月たったらもう、私はこれを飲む覚悟だったんだから。
それで..。蘇生ってどうやったの??」
「いや別に..。ただ、回復の思考を強めて、長時間発動させただけ..」
「なるほど..。それって今でも使えそう?」
「あぁ..。無理だね..。なんていうんだろう..?回復を発動させる時の
指がじんわりと温まるような感覚がないから..」
「そ、そう..。万事休すね..」
「....」
「ふ、ふざけんなよ!!お前が俺を殺したんだろ!!」
「あははは..。ゴメン..」
「ごめんじゃないよ..。どうすんだよ....」
「そうね..。次の異世界転移者が、貴方のような回復能力を
持っている事を願うばかり..」
「それって何年後..?」
「さぁ..」
「....」
「はい詰んだ。じゃあ、俺はもう逝くよ。じゃあねメリッサ。
好きな人も守れない、俺みたいな有害因子は、さっさと消えた方が世の為だ..」
「あ、諦めないでよツルギ!そうだ!私の過去の話を聞かせてあげよう!!
国を欺いたり、天変地異に災厄をもたらしたり、時には神と崇められたりと、
波瀾万丈で、密度の濃い、す、素晴らしいお話だぞ!!」
「良いですよ..。だって、たった10数年の俺の過去回想で2話費やしたんですよ。
キューラはサブキャラだったから1話で終わったけど、、貴方は一応、
準ヒロインくらいの立ち位置じゃないですか?何話かかると思ってるんです?
下手したらここまでの全43話なんて軽々と超えてきますよ。冗談じゃない..」
「ちょっと待て!!メタ的な発言をするな!!所々端折って、数千字で終わらせるから。
そうだな..。私の能力は、『星』と『天体』がモチーフになってるのは知ってるよね?
例えば、気化の呪いが7日間だったの。あれ、曜日の数と一緒だよね?曜日はそれぞれ
太陽系の惑星がモチーフになってるのは言うまでも無い。それに必殺技の
『ステルラストライク』。あれは『ステルラ』がラテン語で星だったり、呪いの等級が
○等星だったのも、星の明るさの強弱だったりと..」
「はぁ..。そんな初期の方の設定覚えてないですって..。では..」
「あああああああ!!」
「何ですか?」
「お前は本当に馬鹿野郎だな!!最後まで気が付かないだなんて..。まぁ、良いよ..。
もう少し経てば、彼女もきっとここに来るはずだから..」
「彼女..」
「お!やっと来たね!君とツルギを再開させるために、わざわざこんな場所に
出戻ってきた甲斐があったよ....」
♢
シトラスとヒノキがブレンドされたような、爽やかな匂いが漂ってきた。
これは、メリッサの匂いじゃない。でも、、まさか、、そんなはず....。
「また会ったね..。剣」




