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異世界に転移して回復能力を手に入れた俺が、老化の呪いを受けた超毒舌ヒロインを助ける羽目になった件  作者: ラストジェネレーション


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第二十九話 サーニャの過去②

 テロニカ王国。聞いた事のない国だった。


 そして何より私が驚いたのは、そんな名も知らぬ国の騎士団長と

名乗るその長身の女性が、私と同じ種族エルフであったという事だ。


 私は、彼女が一体どこからこんな所に来たのかを知りたかった。

しかしそれを聞く前に、彼女は一言呟いた。


「くそ..。ここも、全滅か....」


「ここ..も....?」


「ああそうさ..。エルフはな。村単位で、色んな森林地帯に分散して生息する

種族だから。私はもう、ここが”4番目”だ。しかし..、どこも酷い有様だよ..」


「そうなんですか..」


 私は、エルフが他の地域にも生息しているだなんてまだ知らなかったから、

彼女の言っている事の真偽はイマイチだ。


「君は..、どうして一人なんだい?他のエルフ達は..」


 

「....」




 彼女に対し、私はまだ心を開いているわけではない。

だから、今に至るまでに私が見て来たものを、ほんの”触り”だけで良いから、

簡潔に語ろうとした。客観的に、冷静に、落ち着いてーー


 しかしそんな事が、不器用な私に出来るはずがなかった。

私は大粒の涙をボロボロと溢し、床の軋んだ材木を湿らせた。

今日は曇り空で、空気も冷え切っている。まるで私が泣き叫ぶのを

中和するかのように、雨が私の声を打ち消し、混ざり合い、消えた。


 もう、声が出ない。痰と啜り上げた鼻水が喉につっかかり、

私はこれ以上話せなくなってしまった。


 肺は悲鳴を上げ、私の呼吸と共に、不規則なリズムで身体を

揺らす。苦しい、辛いーーでも、私がしっかりしないと、私より

年下のエルフの子達は、もっと不安になってしまう。


 でも、彼らはみんな、私を一人残して死んだ。


 私が自分の感情を抑制する理由など、もう、どこにもないのだ。

それを唐突に理解した瞬間、今まで無理をしていた分歯止めが効かなくなった。


 しかしそんな私の声を、キューラは全部受け止めてくれた。


「もう、大丈夫だよ。安心して。一緒に行こう..」


「どこ..に..?」


「テロニカ王国さ。これからは、そこで一緒に暮らそう」


 今日初めて会った人に、そう言われ、私は少し混乱した。

しかし、断るという選択肢は当時の私にはなかったし、断る気もなかった。

だから私は即断で、彼女に着いていく道を選び、何とか窮地から脱したのだった。


 ♢


 キューラさんの住むテロニカ王国という国は、人間中心の国家だった。

王国といってもまだ新生で規模は小さく、他の人間国家と比べても弱い”部類”

そんな中で、キューラさんは騎士団団長、兼軍事顧問をになっていると言う。

彼女はどういうわけか、”そういった血生臭い”経験が豊富にあるらしく、

彼女が国に入って来てから、戦力は飛躍的に向上したとか..。


 そして私は、そのテロニカ王国の、キューラさんの家の一室を借り、

彼女と家事を分担しながら、二人で生活を営んでいる。


 彼女と出会って二週間経つが、もう、今の生活にも大分慣れてきた。


「サーニャ!君も良ければ、私と一緒に騎士団に入らないか?」


 そして、彼女が私を連れてきた真の意図も理解できた。


「いや..。戦争は嫌い..。私の父様と兄様は、きっと軍に入れられて死んだから..」


 騎士団なんて、当時の私には御免だった。私の大切な二人を死なせるような機関と、

人間、その全てが、まだ許せない(確信はないが)。母様だって、消息は不明のままだ。


 私はツリーハウスを出る時、玄関の扉に、今のこの所在地を記したものを

短刀で刻んでおいたはずだから。来ようと思えばいつでも来ることが出来る。

何せ、エルフの森から3~4時間歩いただけで着く程の距離なのだから。

道中も険しい山道を歩む事なく、四方を山に囲まれた盆地の中にあるのだから、

最後に少しだけ、傾斜の緩い山を下っていくだけだというのに..。


「どうしたのサーニャちゃん?浮かない顔して?」


「別に..」


 人間


「ここでの生活は慣れた?」


「そこそこですかね..」


 人間人間人間人間


「お嬢ちゃん別嬪さんだから。魚一匹おまけしとくわね!」


「人間..」


「え?どうしたの?」


「人間人間人間..。お前らも私たちエルフを利用するのか..」


ーなんて..、住まわせてもらってる身分の私じゃ、言えるわけない..。


「ありがとうございます!」


 人間..。人間..。私から、大切な人たちをみんな奪っていった人間..。

ラマーヌ人も、テロニカ王国にいる奴らも、人間である事に変わりはない。

人間はみんな醜い。そうに決まってる..。私に優しくするのも、後で私を

利用するためだ。人間人間人間ーー


 私の心の中の、人間に対する憎しみは、決して発露される事なく、

少しずつ蓄積され、膨れ上がっていった。


 しかし、それを人間に悟られてはいけない。この殺意を、気づかれる訳には

いかない。何故なら、私は人間ゴミなしでは、生きる事さえ叶わないから。

私は生きなければならない。母様が、まだ生きているかもしれない母様と、いつか

また再開するために..、生きないと....。


 そうした日々は続き、気づけば15年もの年月が流れていた。

軍部に所属していない私でも、テロニカ王国が一大勢力となりつつあるのは、

もう目に見えて分かっていた。周辺諸国はキューラを筆頭とした軍によって次々と

蹂躙されていき、膨大な数の難民によって、王都はまさに、人間の密集地帯となった。


 私はもう、二年前くらいから外には出ていない。

というのも、多くの人間が行き交う中、人間の顔を見ただけで殺したくなる衝動に

駆られ、それを抑える自信がなくなって来たからだ。そして室内でやる事といえば、

必然的に、<魔法>か<呪い>の勉強、そのどちらかになる。


 とにかく時間だけがあったから、私はキューラの家に数冊置かれていた魔導書を

片っ端から読み漁り、一字一句全て暗記した。<呪い>に対する理解を深めるために、

古代文字も全て覚えた。そんな意味のない作業に、私は時間を費やしていた。


 意味のないというのは、それを実際に使うわけではないからだ。

ただ知っているだけで、行動に移さないほど無駄な事はない。それでも、人間に対する

殺意を紛らわすためには、十分役割を発揮していた。


 そんなある日の事だった。キューラさんはその日、いつも以上に真剣な顔をしていたから、

私はどうしたのだと尋ねた。すると彼女は言った。


「実はな..。明日、ラマーヌ人の掃討作戦に向かうのだが..。諜報部隊の情報によると..、

敵拠点から、何やら怪しげな施設を発見したらしい..。しかも、その施設からは毎夜、

女性の悲鳴が聞こえてくるというのだ..。そして、ここからが大事なのだが....」


 私は唾を呑んだ。


 ラマーヌ人..。いよいよ、彼らも滅ぼされる時が来たのかと、歓喜に沸く以前に、

その、”怪しげな施設”とやらに、何か嫌な感じがした。


「その施設内部では..、女のエルフを使い..、人体実験が行われていると....」


「あ....」


 肩から力が抜け、立っていた私は、その場で膝から崩れ落ちた。


「あ、あはははははっ!!あはははははははははははは!!」


 こんな笑い話が他にあるだろうか!?

そうだ。やはり私は、人間に利用されていたのだ。今までの推測が、確信に変わった瞬間。

私は人間に対する憤怒よりも先に、自身の愚かさに対する失念の情が湧き上がり、

止まらなくなってしまった。


「行くに決まっているじゃない!?」




ー「皆殺しよ..」


 









 人間..。もう、お前らを二度と許さない。











 ♢


「あれ..、もう朝......」


 翌日


 今日は私にとって、10数年待ちわびた日だった。

過去の愚かな私を欺き、家族を殺した元凶であるラマーヌ人を始末する日。

先日の夜、キューラさんから部隊編成と集合時間のスケジュールは聞いていたし、

日時計を見ても、寝坊したというわけではなさそうだ。









 集合時間は過ぎていない。それなのに、キューラさんはどこにもいなかった


「キューラさん!」


 私は家の中を歩き回り、声を大にして彼女の名を叫び続けた。


 しかし、彼女の姿はどこにも見当たらない..。

どうして..。まさか、私を置いて行って.........。


 そこから先の事は良く覚えていない。ただ、半狂乱になって、手当たり次第に

室内の家具を破壊して回った。何を考えていたのかも分からない。私は、

私を置いて行ったキューラを逆恨みしただけなのかもしれない。


 それから、私は一人で、家を飛び出した。


 ーー2年ぶりの外ー早朝だからか少し霧がかかっていて見通しが悪い

ーー人間がどこにいるか、これでは分からないー人間はどこにいるの?ー早く

早く早く早く早くーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ー殺さないとー






 私は外に出て、何の罪もない人間を無差別に殺害しようとした。

でも、外は白い霧がかかっていて、左右前後どこを見渡しても、人影の一つも見当たらない。


 こんな日に限って..、どうして.............。



 その時だった。背後から声がしたのはー



『君は。今後一切、人間に対し、怨念を抱かない。これからは、リューズ王国を離れ、

私の指定する場所で生活してもらう』


 

 殺す..。あれ、私はどうして、人間を殺すだなんて物騒な事を考えていたの!?


「サーニャ!すまない!置いて行ったわけではないんだ!」


 そんな中、霧の中、キューラさんがこちらに小走りで近づいてきた。


「今日の作戦は、もうする必要がなくなったんだ。その旨を報告するのに時間を要して..」


「そう..なんですか?必要なくなったって..一体どうして....?」

































 すると、先程私に話しかけてきた見慣れないエルフが、再び語り出した。


「それは、私の”姉”が、ラマーヌ人を、、自分の命と引き換えに....」


 黒髪の、赤い瞳を持つ特異なエルフは、それ以上語る事はなかったが、

私とキューラさんは、それで全てを察した。


 そして、キューラさんは一つ、質問した。


「あなた、名前は?」


 その質問に、彼女は答えた


















ー「私の名前は、スタンリューマだ」と。






 















 



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