第十二話 師匠と弟子
「メリッサ..。昨日な、、エルフの娘が一人行方不明になったんだぜ」
「ご飯、、持ってくるからーーいや、その必要はないか..」
ー不思議なもので、俺が回復能力をかけているからか、
メリッサは身体が痩せ細り衰える事も、排尿・排便をする事もなく、
まるで体内を流れる時間が停止しているようだった。
それなのに、何故、心臓だけが動いているのか?
ー答えは、”分からない”
無知というのは恐ろしいものだと思う。いや、自分だけが知らないで、
他の人が知っている。というのが怖いだけだろうーー
自分が10知っていて、自分より頭の良い誰かが100を知っていたら、
自分と、その頭の良い誰かは、本当に同じ世界を見てると言えるのか?
この世界に転移して、原理も不明の<能力>を手に入れて、
俺の見る世界は、多少なりとも変わった。深い傷を負っても、どうせ
回復するのだから良いーー
今はこの程度の認識に留めてはいるが、もしいつか、どうせ回復するのだから、
他の連中の痛みなんてどうでも良いと、認識が置き換わったら?
♢
「いたい!!」
「大丈夫ですか??」
今日の森の巡回は、先日の行方不明事件もあって、俺
以外にも、何人かのエルフ達が同行した。
「狩りをしていたら、、間違えてこの子の足に矢を当ててしまったんです..。
矢先には毒が塗っていて、、本当にどうしようかと..」
怪我を負ったそのエルフは、太ももから木の柄が飛び出しており、
地面には大量の血が滴っていた。良く見ると顔も真っ青だ。
<回復>
「ありがとうございます!!ツルギ様がいなければどうなっていた事か..」
「どういたしまして..」
ー俺に感謝する前に、まずは怪我を負わせた子への謝罪だろ..
しかし、危うく大惨事になりかけた猟中の事故であるにも関わらず、
怪我を負わせたエルフと、負ったエルフの二人は、特に慌てる様子
もなく軽く会釈をし、そそくさと森の中へと行ってしまった。
「羨ましいぜ畜生、、俺もあんな女の子に頼りにされたいーー」
「....。いや、俺は出来れば、自分の<能力>はもうあまり使いたくないんだ。
今のを見ていて感じたけど、この森のエルフ達は、
怪我を負う事に対する危機意識が甘くなっている。それに俺の<能力>
は万能じゃないんだーー」
「そ〜お硬い事言うなよツルギ!!
死ぬような傷なんてそうそう負う事ねーしなー」
「ちっ..、エルフなのにこんな単細胞バカがいて良いのか..?」
「あん??」
この妙に喧嘩腰の男の名はビースト。ガキっぽい見てくれと性格をしているが、
年齢は何と今年で114歳。それでも精神年齢を人間で換算すると、
13~14歳くらいにあたるらしいから驚きだ。
「誰が単細胞だって!!」
「まぁまぁ落ち着いてビースト。ツルギは事実を述べたまでよ」
「おい..。お前まで俺をバカだって言うのか??俺はバカじゃない!」
「じゃあ、7×6は?」
「......。待てよ..。7+7+7+....」
「あはは!九九暗記しないで足すとか脳筋かよw」
「仕方ないもの。ビーストは腕はたつけど、それを活かす頭がない。
天は二物を与えずって言うけど、ここまで分かりやすい例は滅多にないわ」
そう、済ました顔で語る女性の名はキューラ。彼女は会話のトーンからも
分かる通り、感情の変化が薄く、非常に冷静ーー
スタンリューマは、王としての自身の職務を補佐してくれるような
優秀なエルフを集め、<エルフェンズ>と呼ばれる組織を形成しているのだが、
キューラはその内の一人で、主に狩りで扱う武具全般のみならず、あらゆる
対人格闘術に精通している。まぁ要するに、外敵が来襲した時の防衛担当と言うわけだ。
この世界は、単純な馬力なら女性の方が高いのかもしれないなーー
「でもな!俺には最強の剣が付いているんだぜ!!」
「もうそれ100回くらい聞いたよ..。どうしてガキって(自分もガキだけど)
最強って言葉良く使いたがるんだろう......」
「うふふ、、最強ね..。ならばビースト。午後の巡回が終わったら、
いつもの訓練場で、私と一対一で模擬戦でもやらない?」
「い、良いぜ!!今日こそお前から1勝をもぎ取ってやるぜ!!」
「ぷっ..。1勝って..。まだ一回も勝ててないのかよ。自称最強くん?」
「あ〜ん..?いつか勝ちゃ〜最強なんだよ」
ーー「そうだね。いつ負かされるかが楽しみだ」
キューラはそう言いながら、嬉しそうに笑った。
というのも、ビーストはキューラの、たった一人の弟子であるからだ。
ビーストの年齢がまだ二桁だった時、彼の武の才能を見出した彼女は、以降
彼の育成に心血を注いでいる。最近は模擬戦も、接戦になる事が増えてきた。
と、そんな話を何遍も聞かされたものだ。
弟子の成長は、やはり嬉しいのだろうな。
そしてこの時は思いもしなかった。
この二人の内一人が明日、エルフの森から忽然と姿を消すという事を




